乾杯
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瀞霊廷の繁華街。
仕事帰りの死神たちで賑わう通りから
一本外れた路地に、その居酒屋はあった。
暖簾をくぐると、
炭火で焼かれる串の香ばしい匂いと、
人々の笑い声が一気に押し寄せる。
「いらっしゃいませー!」
活気のある声に迎えられ、
紫乃は店内へ足を踏み入れた。
「待ち合わせで、平子隊長の名前で
予約がありませんか?」
「十九時予約の平子様ですね!
六名様でお伺いしております。
奥のお座敷へどうぞ!」
店員に案内され、店の奥へ進む。
暖簾で仕切られた座敷には長い座卓が置かれ、
まだ誰も来ていなかった。
紫乃は出入り口に近い下座へ静かに腰を下ろす。
隊長ばかりの飲み会。
しかも、まともに話すのは
ほとんど初めての人ばかりだ。
少しだけ背筋が伸びた。
ほどなくして、聞き覚えのある
賑やかな関西弁が店内へ響く。
「おー、お疲れさん」
暖簾をくぐって現れたのは平子だった。
その後ろから愛川羅武、六車拳西、矢胴丸リサ、
そして猿柿ひよ里がぞろぞろと入ってくる。
一気に座敷が賑やかになった。
「お疲れ様です。お誘いありがとうございます」
紫乃は立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「おっ」
羅武が紫乃を見る。
「噂の二番隊三席か?」
「……? 花房紫乃と申します」
噂という言葉に少しだけ引っ掛かりながらも、
紫乃は落ち着いて名乗った。
羅武や拳西とは仕事ですれ違うことはあっても、
こうして腰を据えて話すのはほぼ初めてだ。
自然と緊張してしまう。
そんな様子を見た平子が笑った。
「今日は仕事やなくて、楽しく飲もーな会や。
気にせんで楽にしてええからな」
そう言って奥へ腰を下ろす。
するとリサが声を掛けた。
「紫乃、隣詰めて」
「え?」
「ここ座る」
有無を言わせない口調だった。
紫乃は素直に一つ奥へずれ、
リサが出入り口側へ座る。
「何やねん、トイレ近いんか?」
ひよ里が茶々を入れる。
「アホか」
リサは即座に切り返した。
最終的な席順はこうなった。
手前側にはリサ、紫乃、拳西。
向かい側には羅武、ひよ里、平子。
「拳西、今日白は?」
リサが尋ねる。
「もう寝てる」
拳西は即答した。
「三歳児か」
平子が間髪入れず突っ込む。
「まあ、白で慣れてるし……拳西なら大丈夫やろ」
「あ?」
「?」
リサは一人で納得したように頷く。
その会話の意味が分からず、紫乃は首を傾げた。
白は日頃から拳西を振り回す破天荒な副隊長だ。
だからこそ、
人に振り回されることには慣れている。
リサは密かにそう判断していた。
そこへ店員が注文を取りにやって来る。
「お飲み物お伺いします」
平子が手を叩いた。
「ほな、ビールの人ー」
「おう」
羅武が手を挙げる。
「俺も」
拳西も続いた。
「うちは酎ハイ」
ひよ里が言う。
「うちはハイボール」
リサも続ける。
「紫乃は?」
平子が視線を向けた。
「おすすめの日本酒を、冷酒でお願いします」
店員が頷いて控える。
「おっ、いくねぇ」
羅武が感心したように笑う。
「日本酒好きなんや?」
平子も興味深そうに聞いた。
紫乃は少しだけ照れたように笑う。
「炭酸が苦手で……」
「なるほどな」
平子は納得したように頷いた。
しばらくして、飲み物が次々と運ばれてくる。
ビールの泡が揺れ、
日本酒の徳利からは冷気が漂い、
酎ハイやハイボールが卓上へ並ぶ。
料理も枝豆、焼き鳥、唐揚げ、
だし巻き玉子、刺身盛り合わせと、
大衆居酒屋らしい定番が次々に置かれていく。
平子がグラスを持ち上げた。
「それじゃ、日頃お疲れさんって事で」
「何でお前が仕切んねん」
ひよ里がすぐ文句を言う。
「なら、お前がやれや」
「めんどい」
「ほらな」
二人のやり取りに羅武が吹き出した。
「はいはい、お疲れさーん!」
その一声で、全員がグラスを掲げる。
「乾杯!」
店内へ六つのグラスが触れ合う澄んだ音が響いた。
まだ誰も知らない。
この一杯が、今夜一番驚くことになる人物を生む
合図になることを。
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