隣りで


*




酒が進むにつれ、人は自然と席を移る。

気付けば最初の席順はすっかり崩れ、
紫乃の隣には拳西ではなく平子が座っていた。

向かいにはひよ里、その隣に羅武、
さらに羅武の隣には拳西。

リサだけは最初から最後まで同じ場所で、
淡々とハイボールを飲み続けている。

この六人の中で、一番酒に強いのは
間違いなくリサだった。

「平子隊長ぉ……」

紫乃が隣で平子を見上げる。

「髪の毛、どうしてこんなに
サラサラなんれすかぁ……?」

細く白い指が平子の長い金髪へ伸びる。

さらり。

指先で梳かれるたび、髪が絹糸のように揺れた。

「手入れしとるからや」

平子は苦笑しながら答える。

「それより、こんだけ酔ってんのに
二日酔いせえへんの、ええ体質やな」

「え〜?」

紫乃は首を傾げた。

「何の事ですかぁ?」

明日のことなど、
これっぽっちも考えていない顔だった。

今が楽しい。

それだけで十分。

それが花房紫乃の酒の飲み方だった。

「しかも、この醜態も忘れんのやろ」

ひよ里が酎ハイを飲みながら呆れる。

「都合ええ奴やな」

「ひよ里さん、良い飲みっぷり〜」

紫乃はへらへら笑いながら、お猪口を差し出した。

「かんぱ〜い」

「もう副隊長も付けへんくなったで」

ひよ里は突っ込みながらもグラスを合わせる。

怒ったところで、この酔っ払いは
明日には何一つ覚えていない。

それが分かっているからこそ、
今夜だけは好きにさせていた。

「紫乃」

平子がぐっと顔を近付ける。

「俺は?名前」

「え〜?」

紫乃は少し考えるように視線を泳がせた。

そして、にこっと笑う。

「もちろん、皆さんの名前覚えてますよぉ〜」

指を一本ずつ折りながら数えていく。

「えっとぉ……真子さんでしょ〜」

平子が思わず口元を緩める。

「ひよ里さんでしょ〜」

「羅武さんと〜」

「拳西さんで〜」

最後にリサへ振り向いた。

「リサさんっ」

その笑顔は無邪気そのものだった。

「皆さん隊長、副隊長なのにぃ……」

紫乃の声が少しずつ眠たそうに緩んでいく。

「駄目ですよぉ……
他所の三席に優しくしちゃ……」

瞼が重そうに揺れる。

「他の三席に嫉妬されちゃいます……」

「そろそろお開きにするか」

頃合いを見て羅武が背筋を伸ばした。

「そうだな。また飲もうぜ」

拳西も立ち上がる。

「この酔っ払い、どうすんねん」

ひよ里が平子を見る。

「そりゃあ呼んだ奴が責任持って送り届けて、
二番隊に怒られるべきやろ」

リサが平然と言った。

「ええ!?怒られるんか!?」

平子が本気で嫌そうな顔をする。

「知らん」

リサは肩を竦めた。

「十三番隊の三席がお守り役らしいで。
前はそいつ呼んで回収してもろた。同期らしい」

「誰やねん」

平子は興味なさそうに呟く。

その名前に紫乃がぴくりと反応した。

「んえぇ……?」

ゆっくり顔を上げる。

「海燕……また来てくれたんれすかぁ〜?」

嬉しそうに頬を緩めるその様子に、
平子は何となく面白くなかった。

紫乃の肩へそっと手を置く。

「海燕は来てへんよ」

顔を少し近付ける。

「代わりに俺が送るから、帰るで」

「そうなんれすねぇ〜」

紫乃は安心したように笑った。

「良かったぁ……また怒られると思いましたぁ」

素直に立ち上がる。

会計を済ませ、六人は店の外へ出た。

繁華街とはいえ、もう日付は変わっている。

人通りはまばらで、
夜風が酒で火照った頬を撫でていった。

「紫乃、またな」

羅武が手を挙げる。

「面白い奴は大歓迎だぜ」

「真子に気ぃ付けろよー」

拳西が冗談とも本気ともつかない調子で言う。

「真子、二番隊やからな!五番隊ちゃうで!」

ひよ里もすかさず釘を刺した。

「紫乃に何かしたら、
二番隊隊長にしばかれるからな」

リサまで便乗する。

「皆ひゃん、お疲れ様れ〜す!」

紫乃は大きく手を振った。

「また誘ってくらさいねぇ〜!」

五人も笑いながら手を振り返す。

「ほな、紫乃」

平子が身体の向きを変えた。

「帰ろか」

「え〜」

紫乃は不満そうに頬を膨らませる。

「まだ飲みましょうよぉ〜」

そう言って平子の長い髪をちょこんと掴んだ。

平子はくるりと振り返る。

「紫乃」

「はい〜?」

「真子でええで」

その一言に、紫乃はへにゃりと笑った。

「え〜」

目を細める。

「じゃあ真子さんって言ったら、
飲んでくれますかぁ?」

「また今度な」

平子は笑って答えた。

その返事に紫乃も満足そうに笑う。

「約束ですよぉ〜」

「約束や」

月明かりが静かな石畳を照らしていた。

繁華街を抜けた瀞霊廷の夜道を、
二人の足音だけがゆっくりと響いていく。







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