騒乱


*





時間が進み、やがて夕日が
瀞霊廷の向こうへ沈んでいった。

空には三日月が浮かび、
夜の静けさが訪れようとしていた。

その時だった。

ガン、ガン、ガンッ――。

瀞霊廷全体に、けたたましい警報が鳴り響く。

「繰り返します!緊急警報!
瀞霊廷内に侵入者あり!! 
各隊、守護配置について下さい!」

旅禍の侵入が確認された。

その報せを受け、集会は解散となる。

紫乃もすぐにその場を離れ、
瞬歩で十三番隊隊舎へ戻った。


隊舎の前には、既に何人もの隊士が集まっていた。

紫乃の姿を認めると、
第三席の小椿仙太郎と虎徹清音が駆け寄ってくる。

「花房副隊長!」

二人の大きな声が重なった。

紫乃は足を止めると、すぐに二人へ尋ねる。

「浮竹隊長の具合は?」

「咳が続いてましたが、今は落ち着いています!」

清音が答える。

「そう……良かった」

紫乃は小さく息を吐いた。

しかし、安心している場合ではない。

瀞霊廷内に旅禍が侵入した以上、
十三番隊も管轄区域の警戒を強める必要がある。

「今夜は管轄内を囲むよ。各々、配置について」

隊士たちへ指示を出したあと、
紫乃は仙太郎と清音を見る。

「仙太郎と清音は、浮竹隊長の側にいて。何かあったらすぐに知らせて」

「はい!」

「了解です!」

二人の返事を聞き、紫乃も頷いた。


その夜、紫乃は仮眠を取りながら
十三番隊の隊舎周辺を見回った。

幸い、旅禍が十三番隊の管轄内へ
侵入することはなかった。

そうして一夜が明ける。









翌朝。

一匹の地獄蝶が紫乃の元へ飛んできた。

「……一番隊へ?」

知らせを受けた紫乃は、
すぐに一番隊隊舎へ向かった。


副隊長たちが集められた部屋へ入ると、
既に何人かの副隊長が集まっていた。

そこへ四番隊の隊士が入り、状況の報告を始める。

「十一番隊第三席、斑目一角様。
同じく第五席、綾瀬川弓親様……
以上二名の上位席官が重傷のため、
戦線を離脱なさいました……!」

部屋の空気が張り詰める。

「各部隊の詳細な被害状況については
現在調査中です」

四番隊隊士は言葉を続けた。

「……ただ、十一番隊につきましては、
ほぼ壊滅状態であるとの報告が入っています」

「十一番隊が……!」

乱菊が驚きの声を上げる。

その隣では、吉良も言葉を失っていた。

「そんな……」

檜佐木も険しい表情を浮かべる。

「侵入から数時間で、そこまで被害が出るか……」

四番隊隊士は続けて状況を説明する。

「現在確認されている旅禍は三名。
うち二名は、我が四番隊の隊員一名を人質に取り、
中央へ移動中との情報もあります。
しかし、先ほどから霊圧が感じられなくなっており、
現在の足取りは不明です」

「……実を言うとうちの四席も
しばらく前から応答ないんよ」

射場が頭を掻きながら口を開いた。

「多分、やられてるんじゃと思うけぇ。
西の二十番あたりを調べたってくれぇや」

「四席っていうと、慈楼坊じゃないの?」

乱菊が尋ねる。

「兒丹坊の弟のか!?」

檜佐木が声を上げた。

「あいつまでやられちまったのかよ……!」

「一体どうなってるんだ……!」

吉良も混乱したように呟く。

次々と報告される被害に、
室内の空気は重くなっていった。


「ふわ……」

雛森が不安そうに周囲を見回す。

「な、なんか大変なことに
なってきちゃったね…阿散井く……」

そして、ふと隣を見る。

「阿散井くん……?」

返事がない。

雛森が振り返る。

そこに、阿散井の姿はなかった。

「阿散井くんなら、旅禍が中央に向かってるって
聞いた時から飛び出していったよ」

紫乃が静かに説明する。

「え!? まさか捕まえに……!?」

雛森が慌てたように声を上げる。

紫乃はそんな雛森へ、穏やかな表情を向けた。

「私、阿散井くんの霊圧を辿って追い掛けるね。
旅禍のことも気になるから」

「花房副隊長……」

雛森の表情が少しだけ和らぐ。

「じゃあ、行ってくるね」

紫乃はそう言うと、すぐに身を翻した。

一番隊隊舎を飛び出し、
阿散井の霊圧を辿って瞬歩を繰り出す。

その先に何が待っているのか――。

紫乃はまだ知らなかった。








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