子供と言葉遊び









「やあ、おはよう志賀さん。」

「……」



早朝仕事終わりに仮眠しようと執務室に来ると
この間のように太宰はソファに座っていた。
読んでいた本は依然と違い、それをテーブルに置く。

外出する前に飲みかけの水が入ったコップは
置いていた位置がずれて、然も飲みきっていた。
太宰が飲んだのかそれとも片付けたのか
それを聞く以前に勝手に状況が変わっている事に
志賀はまた苛立つがそれよりも目の前にいる太宰だ。



「殺されに来たか?」

「そうなったら嬉しいけど、
志賀さんと話ししたいのは変わりないよ。」

「明確に何を聞きたい?
来なくなるなら答えてやる。」

「貴方がどう云う人か知りたい。」

「餓鬼が嫌いなのは確かだ。」

「なら忠告せず一度で殺せば良い。
この間殺さなかったから、
今また僕と話す事になるのだから。」



そう云って笑みを浮かべる太宰に
志賀は凛とした冷たい目を見つめると
再び太宰の瞳を見て目を逸らす。



「…餓鬼は嫌いなんだ。」

「殺すのも嫌いって事だね。」

「……そう云う事だ。」



志賀はそう答えると執務机の前の椅子に腰掛けた。
ソファは太宰がいる為 近付こうともしない。
一定の距離を保って珍しく話を続けた。



「では俺からも一つ問おうか。
お前は何故森と行動している?」

「川で死のうとしたら声かけられたんだよ。
死ぬなら痛いのは嫌いだから
森さんなら安眠薬作ってくれると思って
付いて来たんだけど全然作ってくれないんだ。」



太宰は不貞腐れた様子で
ソファの背もたれに寄りかかる。
相手は組織の幹部である為 親しい口調で
ソファに腰掛けて座るなどあり得ない事だろう。
志賀はそんな無礼は無視をして
適当に書類に目を通しながら
太宰の話を聞いていた。
志賀は森医師を疑っている。
然し、それとは関係あるとは思えない
問いをしたのかはあの男の人間性に
多少なりとも影響受けていたのだろう。



「……何故そうにも死を求める?」

「…生きていて何か意味があるの?」



志賀の問いに太宰は逆に問いかけた。
その瞳は言葉を表していた。
この世を生きる意味など無い。
何のために生きるのが分からない少年の瞳に
志賀の瞳が重なり黒から自分が反射する。



「お前が無いと思うのなら無いんだろう。」



志賀の答えに太宰は目を丸くした。
他の大人のように綺麗ごとを並べられるだけかと思いきや
彼は自分の考えを肯定して来た事に。



「志賀さんは生きる理由があるの?」

「あるから生きている。」

「それは何?」

「お前に云う理由は無い。」

「えーなんでよー参考になるかもしれないでしょー?」



太宰は年相応に駄々をこねながら
志賀の方へ駆け寄ってきた。
それを志賀は嫌そうに椅子から立ち上がり
扉の方に向かってしまった。
然し太宰は問う事を止めずに歩み寄る。



「ねーねー志賀さん 教えてよー」

「死ぬ事を選択しているお前には
一生分かる事の出来ない理由だ。
人が人らしい感情を抱けば
自然と生きる事を選択するもんだ。」

「……つまり僕は人間じゃないって事?」



志賀は扉に手を掛けたまま立ち止まる。
振り向けば太宰はまた瞳が暗かった。



「…まだ、それを知らないだけだ。」



そう云うと志賀は折角の空き時間を仮眠する事なく
太宰と会話をしただけで執務室を出て行った。
残された太宰は自分が知らないものが
何なのかそれを少し知りたくなってしまった。


残された部屋で太宰は笑みをこぼした。