透き通った隠し事










「ねえ、志賀さん。僕を志賀さんの部下にしてよ。」

「断る。」

「好きにして良いと志賀さんが云ったでしょ。」

「俺は二択しか与えていない。」

「私は残るを選択して、
志賀さんの部下になりたいんだ。」

「断る。」



このやりとりをあれから数日繰り返す。
最終的に志賀が死ねと云えば、
太宰は本当に自殺を繰り返す程のメンヘラだ。
然しそれで分かったことがある。

太宰はある意味強運だという事だ。

自殺すればすっぱり死ねる奴か、
中途半端にすれば後遺症を残して生き続けなければ
ならない奴もいるのだがどちらでも無い。
ただ単に自殺しようとしても上手くいかない。
首を吊ろうとすればロープが切れて、
飛び込もうとした電車が別件で緊急停止したり
川に飛び込んでも流れ着いて救出されたりで
ただの自殺未遂常習犯だった事に呆れる。



「ね〜え、志賀さんってばあ」



数日も繰り返せば志賀も苛立ちが増して来る。
何も知らない部下達も志賀に殺されず
付き纏う太宰に何者かとざわついている。
無礼な行為 仕事の失敗 頭の悪さ
少しでも志賀の勘に触れば殺されるというのに。



「志賀幹部。」



志賀が本部を歩いていると声を掛けられ足を止め、
そのぴったり後ろにいた太宰も足を止めて
声をする方に二人して顔を向けた。
其処には広津が後ろに手を組み立っていた。
礼儀正しい彼は志賀と話す時は基本姿勢だった。



「近頃志賀幹部の後ろに見知らぬ子どもがいると、
そう部下から報告がありましてこの目で確かめに。」

「此奴は元々首領専属医師森鴎外の連れだ。
どう云う悪趣味か俺の部下になりたいらしい。」

「こんな子供をですか。」

「俺は断っているが諦めが悪くて困っている。
丁度良い、此処でお前が掃除してはくれないか?
首領専属とは云え只の医師の連れだ。
殺した所で何も変わりはしない。」

「此処でですか…」

「ああ。二度云わせるな。」

「……」



広津が銃を取り出すと志賀は手を払った。



「此奴は自殺志願者だ。楽に死なせると喜ぶ。
それではつまらん。甚振って殺せ。
痛いのは嫌いなんだろ?餓鬼。」

「……志賀さんは良い趣味持ってるね。」



振り返り冷たく見下ろす志賀に、
太宰は口角をニンマリと上げて笑みを浮かべた。
其の二人の光景に広津は不気味さを覚えた。

そして銃は懐に仕舞い、手袋を外しながら
太宰に近づいて来た。其れが彼の戦闘態勢だ。



「では、仰せのままに。」



広津が手を伸ばすと、
太宰は吹き飛び後ろの壁へ衝突した。
勢い良く強く叩きつけられ、
ゲボッと噎せて背中に激痛が走る。
直接触れていないのに身体が吹き飛んだ。
其れは広津の異能 斥力を利用したからだ。



「へえ……なるほどね…」



太宰は何か理解したようで
項垂れながらポツリと口に出した。
其の様子も志賀は気に食わなそうに見ている。



「申し訳ないが、子どもを殺すのも厭わない
其れがポートマフィアだ。小僧。」

「うん…良く理解出来たよ。
志賀さんが、何を求めているかっていうのがね。」



"人間失格"



「!」



広津の異能で太宰を更に壁に押し付けて
身体を壁に更にぶつけようとしたのだが、
太宰は伸びて来た広津の腕を掴むと
弾けたように広津の異能が解かれた。



「何……!?」

「……」

「貴方が持つ斥力が異能力と同じように、
私の能力は、異能強制解除する事だ。」

「異能解除…だと?」



腹部と背中両側に激痛がある太宰だが、
ふらりと立ち上がってふらふらと歩き出す。



「異能或いは本人に触れれば異能が解かれる。
つまり僕には異能が効かない。
志賀さん、貴方は私が異能があると見抜いて
其れを自分の目で見る為に広津さん異能を使わせた。
ただ異能を見せろとでは僕が
知らないふりをするかもしれないからだ。
確実に異能を使わせる為に異能をぶつけさせた。
そうだよね?志賀さん。」

「…残念ながらその推測は間違っている。」



志賀の言葉に太宰は直ぐに理解したのか、
にんまりと口角が上がって楽しそうだった。



「お前を異能持ちだと確信したつもりは無い。
ただの餓鬼を世話するほど暇では無いのでな、
凡人ならお前は広津にそのまま殺されている。」



志賀の言葉に広津はゴクリと唾を飲み込み、
此の男の恐ろしさをまた一つ知った。



「太宰、お前を俺の部下に置いて良い。」

「本当?」

「無意味な嘘はつかない。
付いて来い。今後について教える。」

「うんっ」

「そう云う事だ広津。
暫く此奴の時間が必要になる。
他の事は頼んだぞ。」

「…承知しました。」



すれ違いざまに志賀は広津にそう伝えて
ある場所に向かい、
太宰は嬉しそうに後ろをついて行った。
これからより死にたくなるほどの
地獄かもしれないと云うのに。