教育という名の









志賀の教育はまさに地獄だった。



「ガハッ………!」



教育ーーーー…と云っても
其れはシンプルなもので
あの拷問部屋に入ると志賀は太宰に拳を振るう。

元々平均体重より軽い太宰の身体は吹き飛んだ。

壁に叩きつけられグタリと床に落ちると
ゲホゲホと血を吐き 衝撃の痛みに身体を縮める。
そんな太宰を志賀は髪を掴み顔を上げさせる。



「さっさと立て。何度死ぬ気だ手前は。」

「し…がさ……」

「命乞いなんか教えてねえよ。」

ゴッ…「ガハッ……!」



頭を殴り崩れて倒れる太宰の髪を掴み
顔を上げさせて志賀は話を続ける。



「まだ2日目だろう。もう逃げたいか?
やめて欲しいか?選んだのはお前だ。
何故これを続けるかと云うとだな、人を殺す前に
まずは自分の身体に痛みを覚えさせるんだ。
どれ程の衝撃で人間はどれ程痛みを感じるのか。
拷問に必要な事だ。死まではいかない苦痛をな。」

「は…ぁ…はぁ…あ…くっ…ぁ…!」

「さらにお前が戦場に立つ為には
基礎体力と相手を欺く頭脳 立ち回る術。
其れが無いと御前は無価値の侭だ。
其れを同時に養うなら此れが早い。」

「これじゃ…私の身体が持たな……」

「持たなきゃそれまでだな。」



ドッ…と再び殴る音が部屋に響き渡った。







ーーーーー……



「やり過ぎだよ 志賀くん。此れじゃあ拷問だ。
まだ成長期の子どもの骨は脆いんだ。
肋骨が折れて肺に刺さってしまったら即死だ。
僅かにズレてはいるけど危なかったよ。
脳震盪も繰り返すと重い障害が残ってしまったり
頭蓋内の出血などが原因で死に至る事もある。」

「死ねたら此奴にとっては願ったり叶ったりだろ。」

「今は貴方に生きているよ。」

「迷惑極まりないな。」



太宰が気を失った後 志賀は太宰を担ぎ
森医師の医務室まで運んで来ていた。
手当てを受けた太宰は眠ったままで
森医師は心配そうに太宰の寝顔を見つめた。



「太宰君が志賀君の部下になると云った時、
私は驚いたけど嬉しかったよ。
人に興味を持たなかった彼が唯一、
生きる意味を見つけられそうな事に…」

「見つかる前に殺されそうだがな。」

「それは困るよ。」



志賀の言葉に森医師は即答した。
そんな彼を気に食わなそうに、志賀は見下ろす。



「太宰君を此処に連れてきた私にも責任はある。
死なれちゃったら医師として胸が痛むよ。
かといって此の子は私の云う事なんて聞かないし、
マフィアになんて興味無いと思っていたから
正直私にはどうする事も出来ない問題児なんだ。」

「綺麗事にしか聞こえないな。
何か意味があって彼奴を此処に連れて来たのだろう。
味方が餓鬼一人でも価値のある理由がな。」

「……」



志賀の言葉に森医師は柔らかい表情のままだ。



ボソ…
「はぁ……死にたくても周りが許さない…か…」

「ん?」

「教育方針は変わらない。
其れが嫌ならお前が止まるか追い出すかしろ。」



志賀はそう云うと医務室から出て行った。



ガチャンと扉が閉まる音が部屋に響き、
森医師はニッコリと口角を上げ
眠っている太宰の方を見つめた。



「君もすでに気付いているのだろう。
此の子がどれだけ此の世に必要とされているかがね。」