地下に響く悲痛









怪我が完治していないにも関わらず、
太宰は地下の拷問部屋に来て志賀の教育を受けていた。
彼の拳や蹴りに反応して避ける訓練なのだが、
幹部相手に知力はあるとはいえ実践は未経験の太宰は
直ぐに習得出来る事も無く直撃して
また血を流し嗚咽を吐き床に跪坐く度
志賀に罵倒されながら蹴りを入れられる。



「ぐ…ッ…はあ……はあ…!」

「太宰、森医師も心配をしていたぞ。
どうやらお前に死なれては困るらしい。
何故だろうな。分かるか?答えてみろよ。」

「ッ……森さん…は、関係な……」

「望んでいる答えと的が外れるとこうするんだ。」

「ッ……あ"あ"!!ッ……はあ!はあ…!」



太宰の頬を優しく摩ると
異能で痛覚を上げた状態では拷問になる。
異能解除の異能を持つ太宰は一瞬痛みが襲うが
直ぐに解除して逃げ出すが一点を見つめ息を粗くする。



「まだ遅い。其の一瞬で死ぬ事もある。
どんな異能があるか分からないからな。」

「はぁ…はぁ……ゲホッ!ゴホッ!」

「なあ、痛いのが嫌いなんだろう?
何故お前は俺の教育を受け続ける?
強くなりたい理由も無いだろうに。」

「ゴホッ……志賀さんの近く…で…
此の世を見てみたいから……」



消えそうな太宰の言葉に志賀は表情一つ変えない。



「……大したものは見えないと思うがな。」



見たいものと云うのは此の世の事だろう。
生きる価値がある世の中なのか。

志賀は呆れたように立ち上がり、
胸ポケットから煙草とライターを取り出し
火を付けて一服を始めた。

太宰は身体中が痛いのにも関わらず
ゆっくりと立ち上がった。
少しでも後ろに押せば倒れそうなほど
彼はフラフラで血や痣だらけになっていた。

こんな根性を見せるようなタイプでは無いはずなのに
太宰は志賀に対してだけ妙な執着心があった。
激痛の中での時折見せる笑みが
志賀には太宰という少年を知るには不十分過ぎた。



「まだ余裕がありそうだな。」



そう云って志賀は太宰を冷たく見下ろし、
再び拳を振るうと 太宰は其れを避けた。
が、志賀は一瞬も動揺する事無く鞭の様に足を振るい
太宰の腹部に当たり ふわりと吹き飛んで
柱に背中から激突した。



「がッ……!」

「拳が来たら足 其れを複数繰り返す。全て避けろ。」

「ゲホッ…!ガッ…おえッ…!」

「異能に頼らず生き抜け。」



志賀はそう云いながら離れていた太宰の間合いに
一瞬で入り 俯いていた太宰は顔を蹴り上げられ
地面に吹き飛び転がった。

志賀は容赦無く止まる事無く攻撃を続け、
太宰が避けられたのは初めの拳だけ。
其の後は意識が無くなるまで受け続け
目が覚める場所は何時も森の医務室のベッドだった。








ーーーーーー……



ポートマフィア第二棟ビル一室
本棚に囲まれた広く薄暗い部屋の中央に
古い焦げ茶色のロングテーブルに
水が入ったグラスと複数の薬を手に取り
其れを飲み込むと部下の報告に口を出した。



「其の情報本当なのだろうな?」

「元軍警からも証言を得ています。
間違いないかと…。」

「だとしたら森医師の狙いはただ一つ…
我ら首領の首だ。」



そう云うと川端は鬼気迫る眼差しで
何も無い向かいの遠くの壁を一点に見つめ
其の表情に部下は恐れ息を飲んだ。



「…其れと……志賀が妙な子供を
連れる様になりました。」

「何…?」

「歳は12〜15程でしょうか…。
其の子供も森医師が組織に連れ込んだ様です。」



パリンッ!!



「ッ……(汗)」



川端は持っていたグラスを壁に投げ、
破片は飛び散り細々と割れて地面に散らばった。



「志賀め……等々本性を現したか…!
福永に云っておけ 志賀から目を離すなと。
奴は5年前から何も変わってはいない…。
他の幹部もだぞ!いつ誰が先手を打つか分からん!
我らは首領を御守りするのだ!
ポートマフィアと共にあるべきなんだ!」

「「「「は!」」」」



川端の言葉に其の場に居た部下は強く返事をし、
各々持ち場に戻って行った。

川端の云う5年前とは、
志賀がポートマフィアに加入した年だ。