動き出す黒幕









森医師に止められ太宰は療養中となり、
怪我が完治するまでの間は布団の中だった。
太宰は3回まで志賀の攻撃を避けられる様になったのは
小さな事に過ぎないが進歩はしていた。
然し、志賀にとってはそんな些細な事はどうでも良く。
実践すれば死ぬには変わりない程の
実力のままではあった。



「……」



執務室のソファに座り 煙草を吸いながら
報告書に目を通しているとピタリと止まった。
福永から森医師について追加報告を受けた。

彼は元軍医だった。

数年前の大戦末期
日本は大きな敗北を喫したと聞いていたが、
其の裏ではある異能によるゾンビ計画が実行され
多くの軍人が自ら命を絶った悲劇の戦争。
其の計画書を提出 実行したのが森医師だった。
利用された異能力者は未だ子供だったと云う。

そして森医師は後に対立組織になるであろう
武装探偵社社長 福沢諭吉と交流歴もある。
裏組織から身を守る為の用心棒だと。
今現在の交友は確認されていない。



「黒でしか無い闇医者だな…」



志賀は呆れた様にグシャッと紙を握り潰し
灰皿に落として燃やした。

其れと同時に扉のノック音がして通すと
川場の部下である福永だった。



「報告書は見た。」

「はい。其れと追加報告です。
川端幹部が森医師の狙いは首領の首だと
決定付け動き出す様です。」

「そうか。随分焦っているな川端は…。
また睡眠薬を無駄に飲んでいるのだろう。」

「…其れと、志賀幹部にも警戒しろと。
監視を強めろと指示がありました。」

「餓鬼の事か…」

「はい。」

「そうか。同じ首領を思う身として残念だ。」



志賀はそう云うと身体を起こし、
ソファの背もたれに寄りかかった。



「…何故、子供の面倒を?」

「餓鬼を殺すのは趣味じゃ無くてな。
泣いて来なくなるまで相手はするが、
中々しぶとくて困っている。」

「そうですか…川端幹部は疑い深い人です。
内村幹部も坪内幹部も皆疑っています。
彼らがいつ反逆を起こすのか。」

「二人は反逆じゃない。
首領に直接は手を下さず、
ただ動かず死を待ち望んでいる
運任せ人任せな連中だ。」

「……」

「そう云う奴らにはなぁ。
先に死んでもらった方が楽なんだ。」

「!」

バタバタ…ドンドンッ!

「志賀幹部!報告に参りました!」

「入れ。」

「失礼します!ッ……!?」



部下は川端幹部の直属の部下
福永がいるのかと動揺した。



「続けろ。」

「は、はい!内村幹部と坪内幹部が衝突し、
坪内幹部が組織内の病院に搬送後死亡しました…!」

「何…だと…?二人は反首領派のはず…
対立する筈が無いのに…!(汗)」

「内村幹部は?」

「内村幹部もだいぶ損傷しております。
自身が所有する別荘で療養中との事です。」

「ご苦労。下がっていい。」

「は!」



報告した部下が下がると、
志賀は動揺した様子も無く煙草を取り出す。
彼の落ち着き具合に福永は動揺して
額に汗を滲ませ 頬まで一筋滴った。



「まさか……貴方が?」

「人の思考を操るのは容易い事だ。
疑い深く臆病な奴は特にな…。
嘘を重ね続ければ疑心暗鬼になり、
己の事しか信じない者は簡単に他者を殺す。」



そう云いながら、志賀は煙をふぅ…と吐いた。



「そしてそれは、川端康成も同じ臆病者だ。」

「ッ……!」ガチャンッ



ドオンッ……!



志賀の部屋に銃声が鳴り響いた。