You are alone









志賀は首領が眠る部屋へ向かっていた。



すると、向こうから森医師が首領の部屋から出て来た。
また首領の容体を見ていたのだろう。
志賀がいる事に気がつくと、
いつもの柔らかい表情になった。
それに対し志賀は嫌悪感を抱き 出来れば避けたいが
首領に用がある為、森医師の方へと足を進める。



「お疲れ様です 志賀幹部。
首領なら丁度今容体が安定した所でね。」

「失敬。立ち話する暇は無い。」

「それは残念だけど仕方ない。
組織内が随分と慌ただしいようだからね。
先日も坪内幹部が亡くなったらしいし…」

「聞こえなかったか?」



話を続けようとした森医師に
志賀は冷たく言葉を放った。
其の表情と言葉に森医師は困ったように笑った。



「太宰君の怪我がもう時期完治する。
またよろしく頼むよ。」



森医師はそう言って志賀の元から去っていった。



「……」



志賀は少し考えた様子だが、
直ぐに部屋の中へと入って行き、
首領が眠る奥の部屋まで来ると、
容体が安定した首領は変わらず
眼球が零れ落ちそうな程開けて
天井を一点と見つめ、
ブツブツと小さく言葉を発していた。



「首領、志賀です。ご報告に参りました。」

「直哉…早よう殺せ…鏖殺じゃ。
早く…早くじゃ……ポートマフィアの敵全て…
鏖殺じゃ……鏖殺するのじゃ……」

「首領。坪内が死にました。
内村と揉めたようです。
内村は貴方を殺すつもりでした。」

「艦…ぞう…、……………儂は誰だ…?何者だ?」

「我らポートマフィアの首領です。」

「殺せ…裏切り者は全員…敵じゃ…敵を殺せ。
儂はポートマフィアの全てじゃ……敵は、」

「首領の望み通りに。
ポートマフィアは貴方と共に、
闇に消えましょう。」



志賀はそう言って胸元に手を置いた。
然し、その表情は狂気的だった。







ーーーーーーー……



「森さんがね、1.2回本当に危ない時が
あったらしいんだ。
でも僕はやっぱり死ねないみたいだね。」

「残念だったな。」

「うん。とても残念だけど今は良いんだ。
志賀さんの教育は痛いけど、楽しいよ。」

「余裕だな。」



志賀と太宰は何時も教育している拷問部屋に入った。
然し、入った瞬間太宰は何時もと違う空気に気がつく。
その事も志賀はしっかり気づいていた。

だが、説明すること無く歩き進め、
数本先の鉄骨柱の裏に回ると
柱に括り付けられぐったりとしている福永がいた。
雑に巻かれた包帯から血が滲み出ている。
太宰は驚いた様子で目がくっきりと開いた。



「…何故、福永さんが?」

「裏切り者だからだ。
此奴は川端の部下に変わりない。
安売りの情報を俺に流し、
味方だと油断させ 近付き監視していた。
俺がいつ本性を見せるか
ポートマフィアに加入した時から
川端は俺を一度も信用した事は無い。」

「……全てお見通しだったわけガッ!」



志賀は福永の額を踵で踏みつけた。
その少し後ろで太宰は何故自分を連れて来たか考える。



「何故お前を連れて来たと思う?太宰。」

「…今其れを考えていた所だよ。」

「実践だ。拷問を見た事はあるか?」

「貧民街ではしょっちゅう街中でやっていたよ。」

「チンピラのやるもんは生温い。
本当の拷問は死ぬギリギリまで
望む情報を吐き出すまで痛め付ける。
お前が1.2回死に掛けるくらいにな。」

「……其の加減を身を以て叩き込まれたって事?」

「そうだ。」

「はっ…俺は餓鬼の教育に使われるなんてごめんだね。
何が望みだ?川端さんの計画だろ?話しても良い。
俺には家族が居るんだ。あんたが川端さんを殺すなら
それでも構わない。こんな街いるだけ無駄だ。
家族と逃がしてくれ、頼むよ…この通りだ。」

「何をほざいてやがる。」



命乞いをする福永に志賀は冷たく放った。
ピシャリとした言葉に福永は表情が固まり、
太宰は空気が冷たく重くなったのを感じた。



「裏切り者の望みを聞く理由は無い。」