駆け引きの裏
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薄暗い部屋の中 壁一面には本棚
中央には古びたアンティークの
ロングテーブルに向かい合う男達。
志賀の直属の部下である広津は、
出されたコーヒーに手を付けず
ジッと薬を荒く口にし水で飲み込む
自分より歳が上の川端を見ていた。
「ゲホッ…はぁはあ…はぁ……」
「……(首領が就任した時から構成員だった川端康成…
若かりし頃は互いに忌み嫌う者同士
だったと聞いていたが、
今では首領と幹部の関係以上に古き友とも聞く…
ポートマフィアいち忠義の高く掟を重んじる幹部が…)
私に何の御用でしょうか?川端幹部。」
「ゴホッ……私は無駄な駆け引きは嫌いだ広津よ。
志賀の小僧など捨てて、私の元に来い。」
広津が予想していた通り、
川端は自分を勧誘する為に招いていた。
「其れは…何故でしょうか。
貴方は志賀幹部と同じ首領派の筈。
対立すべきは今は内村幹部なのでは?」
「内村は志賀に殺される。必ずな。
志賀が首領に従う理由を知っているか?」
「其れがポートマフィアの掟だと。
彼の人は忠実に掟を守っております。
加入当時から私がそう教えましたから…」
「其れだ。奴は其れを利用している。」
「……というのは?」
「奴の本当の目的は首領の死と、
ポートマフィアという組織の死だ。」
「……」
川端の猫背で下から見上げるギロリと溢れそうな瞳に
広津は畏怖するが、表情は変わらない。
幾ら老人だろうと長年幹部をしている男の目は変わらない。
「奴が唯一心を許した相棒の仇の為にな。」
「武者小路実篤…ですか……」
「ポートマフィアにとって奴は危険過ぎる。
全てを壊滅させなくとも私には古い人脈があり、
異能組織と今交渉をしている。
手を組む事が出来れば、戦争せずとも皆服従し、
ポートマフィアは存続が出来る。」
「では、志賀幹部は…」
「無論切り捨てる。
答え次第では貴様も、その部下もだ。
広津。マフィアとは利益を優先する組織だ。
どうせ死ぬ上司を庇う必要など無い。
貴様は頭の良い男だと聞いて態々招いている。」
「……」
ーー…数日前
「お前は優秀な男だ 広津。」
「急にどうしました?志賀幹部。」
広津の運転で移動中 後部座席で志賀が突然云い出した。
バックミラーで後ろの様子を見ると、
珍しく志賀は眉が平行にリラックスした表情で
窓の外を眺めながら自分に話しかけていた。
広津も前を見て運転しながら言葉を交わす。
「今の俺の動きに疑念を抱く事も多いだろう。
其れで良い。俺に忠義を尽くさなくても良い。
どう生きてどう死ぬか、其れだけを考えれば
部下思いのお前なら検討は付くだろう。」
「部下が上司に忠義を尽くすのは当然ですよ。」
「上司が信用していないのにか?」
「…其れでもです。組織というものは。」
「は……同情するよ。」
志賀は呆れたように笑っていた。
ーーー……
何故彼があの時そんな話をしていたのか。
この時まで彼は予想していたとでもいうのか。
然しあの男なら考えられる。
其れ程までに見えている男だ。
今この場で川端側に付けば上司と対立する。
殺すか殺されるか、これは賭けになる。
自分は上司の言葉を信じる事に賭けてみた。
「其の誘い、受ける事にしましょう 川端幹部。
私も部下もポートマフィアを、ヨコハマを愛している。」
広津がそう云うと川端は満足そうに不気味な笑みを浮かべた。
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