動乱の幕開け









「太宰君。」



志賀と別れた森医師は彼の執務室にいる
太宰の元へと来た。
黒革のソファに横たわり彼から与えられた
本を読む太宰は声を掛けられても
森医師だと分かっている為返事をしなかった。



「何を読んでるの?」

「戦争戦略論。
森さんが勧めた本だよね?此れ。」

「僕が勧めた時は嫌がってたのに!(泣)」ガーン

「志賀さんもこう云う読むんだと思ってね。
特に面白いとかは無いけど読んでみてるよ。」

「ふふふ、余程彼の事が好きなんだね(笑)」

「不思議だね 如何してかな。
痛いの嫌いなのに虐めるし、
厳しいし、怖いし、面倒なのに
僕がこんなに執着するとは思わなかったよ。」

「君が楽しそうで何よりだよ。」

「森さんはどうして来たの?
今来たなら志賀さんとすれ違ったでしょ。」

「うん。さっきすれ違ったよ。
でも用があるのは太宰君だ。」

「?」










ーーーーー……



志賀は車の後部座席に乗り込み、
有る場所に移動していた。
運転して居るのは広津では無く、一介の構成員だ。

ヨコハマの街を走り続ける中、
ドォオンッと銃声が鳴り響き
運転席の男の悲痛の声が漏れ、
ぐらりと項垂れているのが
後部座席からも分かった。
スナイパーに待ち伏せされ、
一発で急所に当たり即死している。

そして直ぐに直感が働き、
志賀はドアを蹴り破り車から飛び出し、
ハイスピードな状態だった為、
一度地面に転がったものの、
直ぐに体制を整えて片膝ついた状態で
身構えると自分に向かって銃弾が襲い、
直ぐに避けて混乱に停車した車の陰に隠れる。

自分を始末しようとついに動き出したらしい。
陰に隠れながら銃を取り出して構えると
黒服の構成員が十数人志賀を取り囲んだ。



「!」ガガガガ!



十数人一斉にアサルトライフルで発砲し、
志賀は避けながら発砲して着実に殺す。
避けながら近付き 一人に触れて異能を使い
一人の混乱は皆に影響する。
痛覚と聴覚を高め、痛みと混乱で暴発。
其れを止める為に仲間が一人を殺し、
その間も志賀は更に暴発する奴を増やし、
自分を狙う者は撃ち殺した。

其の複数人構成員の中に
見覚えのある構成員がいるのは、
記憶力の良い志賀には直ぐに分かった。
自分の部下が紛れ込んでいる事。

其れも、



「降伏して下さい 志賀幹部。」

「広津…」



自分の背にいた部下が裏切っている。
広津は異能の発動条件である白い手袋を
外しながら近付いた。



「……川端側に付いたか。」

「……」

「良い…其れで良い。が、
俺を殺せと云う命令が出るのは
川端らしい趣味の悪さだな。」

「…私も胸が痛みます。」

「俺に殺されるか他に殺されるか、
今のポートマフィアには二択しか無い。」



志賀は銃を発砲し、
瞬間広津は異能で弾き返すも、
目の前から直ぐ志賀が消えていた。
すると、部下がふわりと広津の元に飛び
異能で其れを弾いて退かすと、
志賀が目の前まで迫っていた。



「何…、」



志賀が広津に触れようと腕を伸ばすと、
別の部下が志賀の伸ばした腕を撃ち、
血が出るが、表情は変わらず、
伸ばした腕とは逆の銃弾を広津に撃ち込む。

腹部に当たり広津は血を吐きよろけるが、
倒れはせず持ち堪える。
然し 志賀は広津の傷のある腹部を掴み
広津は痛みに耐えながらも
異能で志賀を弾き飛ばそうとしたが、

五感を全て奪われ 動きが停止する。
何処に志賀がいて自分の身体がどういう
向きになっているのか
立っているのか横になっているのか
何も分からずだと人は動けなくなる。

広津が重心がブレてぐらりと揺れ倒れると、
志賀にいた構成員らはいつのまにか死んでいた。
広津と戦っている間にも殺していた。
この様な早技は志賀の他にい無い。



「よくこんな俺に尽くした。」



志賀は銃を発砲した。