飼い主のいない犬







黒蜥蜴襲撃で慌しかった探偵社が落ち着いた頃、
太宰が行方不明になり、中島は国木田に相談をした。



「太宰が行方不明ぃ?」

「電話も繋がりませんし、
下宿にも帰っていないそうで…」

「…また川だろ。」

「また土中では?」

「また拘置所でしょ。」

「しかし先刻の一件もありますし……
真逆マフィアに暗殺されたとか……」

「阿呆か。あの男の危機察知能力と
生命力は悪夢の域だ。
あれだけ自殺未遂を繰り返して
まだ一度も死んでいない奴だぞ。
己自身が殺さん奴を、
マフィア如きが殺せるものか。」

「でも、朔太郎さんも心配して……」

「僕の所為で太宰さんが呆れたんだ…
僕がヘタレなばかりに……
僕の元から去っていってしまわれた…」

「あれは飼い主を失った犬だ。」



事務所の隅で泣きじゃくる朔太郎を
国木田は慣れた様子で放っておく。



「然し……」

「ボクが調べておくよ。」

「谷崎さん 無事でしたか!」



谷崎は傷一つ残らず綺麗に戻って来た。



「与謝野先生の治療の賜物だな 谷崎。
何度解体された?」

「…………4回…」



谷崎は思い出したかの様に暗くなり
ポツリと云うと皆が同情した。



「敦君。探偵社で怪我だけは
絶ッ対にしちゃ駄目だよ(泣)」

「?(汗)」

「今回はマフィア相手と知れた時点で、
逃げなかった谷崎が悪い。」

「マズいと思ったらすぐ逃げる。
危機察知能力だね。
たとえば………今から10秒後。」

「?」

「ふァ〜〜〜〜あ 寝すぎちまったよ。」

「与謝野さん。」

「ああ 新入りの敦だね。
どっか怪我してないかい?」

「ええ 大丈夫です。」

「ちぇっ」

「……?(汗)」

「ところで、誰かに買い出しの荷物
頼もうと思ったンだけど……、
あんたと朔太郎しかいないみたいだね。」

「え!?(汗)」

「ぼ、僕は違ッ……!
今から太宰さんを探しに……!(汗)」

「探しに行った所で
次はあんたを探す事になるだけさね。
グダグダ云ってないでサッサと行くよ。」

「だ、太宰さあああん!!(泣)」

「(危機察知能力ってこれ…?(汗))」



朔太郎は強引に与謝野に腕を掴まれ、
中島も一緒に買い出しに連れてかれた。








ーーーー……*°



「ま、まだ購うんですか?(汗)」

「落とすンじゃないよ?落としたらーー…」

「お…落としたら?」



大荷物を抱えた中島が云うと
与謝野は怪しげな笑みを浮かべていた。
複数の紙袋と檸檬を抱えた朔太郎は
与謝野の笑みにオドオドと縮こまる。

すると中島はすれ違った少女に目を取られ、
朔太郎も釣られて立ち止まり振り返る。
凛とした少女は中島を見ていた。
朔太郎はまた何かを感じバッと中島の方に振り向くと



「あ、敦く…」

ドンッ

「あ…ッ」

「あ!檸檬が…!」

「この給金泥棒が!早く迎えを寄越せ!
〈グッ…バタンッ〉ウォウッ!!?(汗)」

「あーあ。」

「ひ…!ぁ…ご、ごめんなさ…!(怯)」

「うわあ!だ、大丈夫ですか!?(汗)」



如何にもめんどくさそうな男は
朔太郎の落とした檸檬を踏み尻餅をつく。
声を掛けたのは中島で、朔太郎は身を隠した。
男は高いスーツだと怒っていた。



「す、すいませんホントに…(汗)」

「ご容赦を。お怪我は?」



与謝野は間に入り彼のスーツを払い笑みを浮かべた。
然し男は許す気などなかった。



「五月蝿い!」



男は与謝野の肩を蹴りつける。



「女の癖に儂を誰だと思っている!
貴様らの勤め先など電話一本で潰してーー…!」

「女の癖に?そいつは恐れ入ったねえ。
女らしくアンタの貧相な××を踏み潰して
××してやろうかい?」

「……ッ!(汗)」ゾッ



与謝野は中島と朔太郎に顎で合図を出し、
三人は電車に乗り込んだ。