凛とした少女









どうして危険な方にしたか解らない。



与謝野先生が怖いから?
敦くんなら生き残れるかと思ったから?
何時もの僕ならそんな選択肢だった。



でも違う。



太宰さんが何か意味を持って
敦くんを探偵社に引き入れたその意味を
こんな所で失くしてはならないと思ったからだ。

僕が行ったところで知れたところだけど
行かないよりもだいぶマシだと思った。
あの人が必要とする人を
僕が死なせてはならないと思った。



それだけの僕らしく無い意味だった。







ーーーー……*°



乗客は放送を聞き混乱し、
最後尾車両から離れようと逆走してくる中、
中島と中島を掴む朔太郎は進んだ。
自分が止めないと此処にいる全員が死ぬ。
中島は責任感で押し潰されそうだった。

すると、トンッと着物を着た少女が
自分等より先に最後尾車両に移った。



「君!危ないよ!そっちには爆弾がーー!(汗)」

「敦君危ない!(汗)」



"お前の任務は爆弾の死守だ。
邪魔者は殺せ、夜叉白雪!"

泉鏡花 能力名ーーー…夜叉白雪



中島は異能の刀を持った女性に
鞘の状態で鳩尾を突かれて蹲った。



「さ…さっき駅で見ていた女の子だ……、
僕達がどの電車に乗るか監視されてたんだ…!(汗)」

「ぐ…!」ダッ

「敦くん!」



中島は少女へ向かうが
何度も突かれて進めない。
更には腹部を斬られ倒れた。
朔太郎は恐怖で車両の端で
手摺に寄り掛かっていた。



「(つ…強過ぎる……!)
何故……君みたいな女の子が……」

「私の名は鏡花。貴方と同じ孤児。」

「……!?」

「好きなものは兎と豆腐。
嫌いなものは犬と雷。
マフィアに拾われて六ヶ月で35人殺した。」

「……!」

『爆弾を守れ。邪魔者は殺せ。』

「35人…殺し……」



中島は夜叉白雪に刀で串刺しになった。



「ガハッ……ッ!」

「敦くん…!」

「さ…くたろさ……」

「ッ……!!(怯)」



口から血を溢す中島に朔太郎は恐怖を抱く。






        僕は……やっぱり愚かだ……







「異能力…"月に吠えろ"……」







     僕は僕が傷付かない方法しか取れない






「クソ…どうすれば……」

「敦くん」ぽんっ

「!、朔太郎さん?」

「?」



朔太郎は異能力を呟くと中島の肩に触れた。



「僕が…彼女を止めるよ」

「そんなのどうやって!?(汗)」

「……今は敦くん以外僕は存在していないから大丈夫だよ…」

「え…?」

「………だから君は自分だけの事を考えていい…」

「朔太郎さ…」



そう言うと朔太郎は中島を置いて
スタスタと歩いて少女へと近付く。



「危ない朔太郎さん!!【ザシュッ】ぐあ!!」



中島が一歩近付くと夜叉白雪が斬りかかった。
朔太郎ではなく後ろにいる中島をだ。



「(どう言う事だ…!?何故僕を…朔太郎さんは…)」



朔太郎は夜叉白雪の横を通り過ぎ、
少女の隣に立った。



「(朔太郎さんに気付いていない…?(汗))」

ポンッ「!」

「爆弾の場所はどこだ?」

「………」



朔太郎は少女に触れて問い掛けると
やっと少女は気付いて目を見開いて朔太郎を見る。



「あ、あと…異能を解いてくれると嬉しいんだけど…(汗)」

「……」

「(凄い事してたのにいつもの朔太郎さんだ…(汗))」



朔太郎はオドオドと夜叉白雪に指をさしていて
猫背で縮こまっている姿に中島は動揺する。



「私の名は鏡花。35人殺した。
一番最後に殺したのは三人家族。
父親と母親と男の子。夜叉が首を掻き切った。」



泉が胸元を開くと爆弾は泉の身体にあった。
中島は淡々とする泉に恐怖を感じる。



「君は……何者なんだ。
言葉からも君自身からも何の感情も感じない。
まるで殺人機械だ。言葉にしてくれ。
望みがあるなら言葉にしなきゃ駄目だ。
こんな事が本当に君のしたい事なのか!?」

「……」

「敦くん…その子は……」

ザーザーッ
『こちら車掌室。
敦、朔太郎 まだ生きてッかい?』

Σ「ヒッ…!」

「与謝野さん!」

『こっちのヘボ爆弾魔によると、
そっちの爆薬は遠隔点火式だ!
間違った手段で解除するとドカン!そうだな?』



与謝野はもう一人の犯人を倒したらしく
直接本人に確認を取っていた。



『解除には非常時用の停止釦しかない!
そっちのマフィアが持っている筈だよ!』



其れを聞いて中島は泉から釦をすんなり受け取る。
そして解除釦を押すと、爆弾がピッと音が鳴った。



『……其れを押したのか 鏡花。』



泉の持つ携帯から芥川の声がした後、
ビィイイイイとブザー音が鳴り響く。



『解除など不要。乗客を道連れにし、
マフィアの畏怖を俗衆に示せ。』

「「!!?」」

「ッ……(芥川…君って奴は……!(汗))」

「爆弾を外せ!」

「間に合わない。」



泉はトンッと中島の胸を押して
自分は外に開けたドアへ駆け寄った。

その行動に中島は気付いた。
彼女の異能は携帯の声で動いていて
彼女自身の指示では無かったという事
そして彼女は殺す事を望んでいない事
異能を操れず、然し死を背負っていた。



「私は鏡花。35人殺した。
もうこれ以上一人だって殺したくない!」



彼女は初めて意思を言葉にした。

電車を飛び降りた時、
中島も咄嗟に飛び降りて
彼女を抱き寄せ 爆弾を引き剥がし捨てた。
空中で爆発し、二人は川へ落ちる。



「敦くん…!」



朔太郎は落ちた先を見るが
早く走る電車は直ぐに通り過ぎ、
しっかり生存が確認出来なかった。

だが二人は生きていて、
泉鏡花は探偵社へと運んだ。



「…はぁ……はぁ…芥川…君はやはり恐ろしいよ…
あんな少女にまで同じ生き筋を導くのかい…?
彼女は僕らと違って美しいのに……」



朔太郎は芥川と呟きながら
涙を流して膝まづいて顔を伏せた。



自分が生きた道は酷く孤独な世界だと知っていた。