知らぬ貴方











「朔太郎さんがいない?」

「ああ。与謝野さんはお前達の生存確認の為
直ぐに電車を降りたが、見ていない。
川へ飛び込んだ所も見ていないのと、
彼奴の性格からしてその度胸は無い。」

「それは違います!
朔太郎さんは僕を助けてくれました!
異能を使って彼女の動きを止めてーーー…!」

「異能だと…?」



中島の言葉に国木田は信じられない顔をしていた。
何故なら、朔太郎は戦力外しかならなかったからだ。



「奴の異能を見たのか?」

「え、あ、はい。確かにこの目で…、
近づいて来る朔太郎さんの事を
彼女はそこにいないかのように無視して
僕しか攻撃してこなくて…
彼女に朔太郎さんが触れたら気付いた様子でした。」

「よりにもよって精神系の異能…
あるいは谷崎のような目眩しの異能か…
それが本当なら奴は入社して2年間、
俺たちに黙っていたという事になる。
奴は臆病ながらもどこか危険だ。
俺はまだ何か隠していると考えている。」

「……どうしてそこまで、
朔太郎さんを疑うんですか?(汗)」

「奴が探偵社員として何も成果を残していないからだ。
太宰の後ろに隠れて居座っているが
俺は未だ奴を社員と認めてはいない。」



国木田はそう云いながら眼鏡の位置を整えた。



「でも…太宰さんが前職から連れて来たと
いう事は、太宰さんにとって朔太郎さんは
必要な存在で、何か意味があるんじゃ…」

「あの唐変木の脳みそは理解出来ん。
今頃何処かの河岸に流れついているか、
何処かでくだらない自殺方法を試しているんじゃないか?」

「……そんな…」



少しした後 診ていた与謝野が出て来て、
泉が目覚めたと報告があり、
国木田と中島は部屋に入った。

中島を狙う黒幕を吐けと国木田が問いた出すと、
橘堂の湯豆腐を食べたいと云い、
何も知らない中島が揚々と受け入れ、
店に行くとメニューを見て冷や汗を流した。










ーーーーー……*°



太宰はポートマフィアの拷問部屋に捕らわれていた。



然し、様子を見に黒幕である芥川が来てみれば
太宰は立った状態で手錠に繋がれたまま
呑気に鼻歌を夢中に歌っていた。

芥川が脅しで彼の真横に羅生門の牙を突き刺すが
太宰は動じず歌い続け、
苛立った芥川は彼の首に牙を突き立てると
異能無効化の太宰によって黒い霧に溶け出す。



「…ああ、君いたの。」

「此処に繋がれた者が如何な末路を辿るかーーー、
知らぬ貴方では、ない筈だが。」

「懐かしいねえ。君が新人の頃を思い出すよ。」

「貴方の罪は重い。
突然の任務放棄、そして失踪。
剰え今度は敵としてマフィアに楯突くーーー…
とても、とても元幹部の所業とは思えぬ。」

「そして、君の元上司の所業とは?」



ゴッ

芥川は細い腕で太宰の顔を殴った。



「貴方とて不遜不滅では無い。
異能に頼らなければ毀傷できる。
その気になればいつでも殺せる。」

「そうかい。偉くなったねえ。」

「……」

「今だからいうけど、
君の教育には難儀したよ。
呑み込みは悪いし、独断専行ばかりするし、
おまけにあのぽんこつな能力!」

「……!」

「…貴方の虚勢もあと数日だ。
数日のうちに探偵社を滅ぼし人虎を奪う。
貴方の処刑はその後だ。
自分の組織と部下が滅ぶ報せを、
切歯扼腕して聞くと良い。」

「出来るかなあ 君に。
私の新しい部下は君なんかよりよっぽど優秀だよ。」



部屋を出ようとした芥川は足を止め、
最後に再び先ほどの力よりも強く、
太宰の事をなぐった。



「ならば証明して見せよう。
人虎よりも僕が優れていると。
朔太郎の首も共に届けて。」

「あぁ…そういえば朔太郎くんは
まだ捕まえていないんだね。
逃げ足速い子だからなぁー…」

「…朔太郎は必ず僕が殺す。
生きる価値も無い臆病者が、
人虎同様 生きているだけで損なう。
居なくなれば貴方もそれを理解するだろう。」



芥川はそう云って部屋を出ていった。



「朔太郎くんは君には殺せないよ。
あの子は厄介な臆病者だからね。」