茶漬けと虎









「ぬんむいえおむんぐむぐ?」

「五月蝿い。出費計画の頁にも、
"俺の金で小僧がお茶漬けをしこたま食う"
とは書いていない。」

「んぐむぬ?」

「だから仕事だ!俺と太宰そして朔太郎は
軍警察の依頼で猛獣退治をーーー」

「君達なんで会話できてるの?」



四人は喫茶店に入り、太宰は店員をナンパ、
その隣で朔太郎は此処が地獄かのような
顔面蒼白で縮こまり怯えていて、
真逆に国木田は太宰と中島に怒っていた。

その後、中島は何十杯もお茶漬けを食べ、
もう10年はお茶漬けを見たくない程だと言った。
食べといてそのコメントかと国木田はまた怒った。



「いや、ほんっとーに助かりました!
孤児院を追い出され、横浜に出てきてから、
食べるものも寝るところもなく、
……あわや斃死かと、」

「ふうん。君、施設の出かい。」

「出というか……追い出されたのです。
経営不振だとか、事業縮小だとかで。」

「それは薄情な施設もあったものだね。」

「おい、太宰。俺たちは恵まれぬ小僧に、
慈悲を垂れる篤志家じゃない。仕事に戻るぞ。」

「お三方は……何の仕事を?」

「なァに……探偵さ。」

「……」



中島は本当なのかとポカンとした表情だった。



「チッ、探偵と云っても猫探しや不貞調査ではない。
斬った張ったの荒事が領分だ。
異能力集団"武装探偵社"を知らんか?」

「!」



武装探偵社。
それは曰く、軍や警察に頼れないような
危険な依頼を専門にする探偵集団。
昼の世界と夜の世界
その間を取り仕切る薄暮の武装集団。
武装探偵社の社員は多くが、
異能の力を持つ能力者と聞く。



「そ…それで、探偵のお三方の今日の仕事は、」

「"虎探し"だ。」

「……虎探し?」

「近頃、街を荒らしている人喰い虎だよ。
倉庫を荒らしたり、畑の作物を食ったり、好き放題さ。
最近この近くで目撃されたらしいのだけど」

ガタッ

虎の話になった途端、
中島は椅子から崩れ落ちた。



「ぼ…ぼぼぼ僕はこれで失礼します!」

「待て。」



国木田はシャカシャカと逃げようとする
中島のシャツの襟を掴み阻止する。



「む、無理だ!奴ーーー奴に人が敵うわけない!(汗)」

「貴様ーー…人喰い虎を知っているのか?」

「彼奴は僕を狙ってる!殺されかけたんだ!
此の辺に出たんなら早く逃げないとーーー…」



すると国木田は中島の足を引っ掛けて、
地面に叩きつけ押さえ又しても闘争を阻止した。
其の強引なやり方に朔太郎は「ひっ」と、
声を漏らしまた太宰の後ろに隠れた。



「云っただろう。
武装探偵社は荒事専門だと。
茶漬け代は腕一本か、
もしくは凡て話すかだな。」

「………っ!」

「まあまあ国木田君。
君がやると情報収集が尋問になると、
社長にいつも云われてるじゃないか。」

「……ふん。」



太宰がそう云うと、
国木田は中島から離れ、
代わりに太宰が側に来た。
太宰が離れ朔太郎はアワアワする。



「それで?」



太宰はニッコリと中島に話しかけた。
そして中島は再び椅子に座り、
ゆっくりと事情を話し始めた。



「......うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです。
畑も荒らされ、倉も吹き飛ばされてーーー
死人こそ出なかったけど、
貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって、
口減らしに追い出された。」

「………そりゃ災難だったね。」

「それで小僧。
"殺されかけた"と云うのは?」

「あの人食い虎、
孤児院で畑の大根食ってりゃいいのに、
ここまで僕を追いかけてきたんだ!
孤児院を出てから鶴見川のあたりを
ふらふらしてた時、あいつを見たんだ!
あいつ僕を追って街まで降りてきたんだ!
…空腹で頭は朦朧(もうろう)とするし、
どこをどう逃げたのか…」

「それいつの話?」

「院を出たのが2週間前。
河であいつを見たのが4日前。」

「確かに虎の被害は2週間前から
こっちに集中している。
それに4日前に鶴見川で虎の目撃証言もある。」



すると太宰は少し考えた素振りを見せ、



「ね、敦君。これから暇?」



太宰の笑みに中島は引き攣る。
そして朔太郎も太宰の考えに予想が付き、
ゆっくりと喫茶店を出ようとするが、
太宰にずんぐりとコートの裾を掴まれた。



「.........猛烈に厭な予感がするのですが(汗)」



「敦君が"人食い虎"に狙われてるなら好都合だよね。
虎探しを手伝ってくれないかな。」

「い、いい嫌ですよ!
それってつまり"餌"じゃないですか!
誰がそんな…!」

「報酬出るよ」



其の言葉に中島はピタリと固まる。



太宰は紙に何かを書いて独歩さんに渡した。



「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に」

「おい3人で捕まえる気か?
まずは情報の裏をとってーーー」

「ぼ、僕は行かなーー…!(汗)」

「いいから。」



太宰と国木田は朔太郎の言葉を耳にしなかった。
其の様子に中島は普段なら気になる所だが、
それよりも今気になるのは、



「ち、ちなみに報酬はいかほど?(汗)」



両手をすり合わせて敦が太宰に訊ねる。



「こんくらい。」



太宰は紙に報酬金額を書いて、
それを敦に見せた。

即決だった。