疑わしき者










「どういう事か説明して貰おうか」

「……えと…あの……(汗)」



太宰と共にポートマフィアを脱出した朔太郎は
出社早々国木田に鋭く睨まれ尋問を受けていた。

昔から彼の鋭い目には苦手意識のある朔太郎は
これまで一度も目を合わせた事が無く、
いつものように目線を逸らし床を見つめていた。



「だからー、朔太郎くんは私を救う為に
ポートマフィアへ侵入し、共に帰ってきたのだよ」

「問題は其処だ。ポートマフィアなど特に厳重な警備に
何故貴様のような日頃トロい人間が侵入出来た?
敦からも報告を受けているが異能を使ったそうじゃないか。
今なら異能を受けた本人も此処にいる。
言い逃れは出来ないぞ。何故今まで黙っていた?
気付かれたら困る疾しい事でもあるのか?」

「ち、違………僕はその…僕のなんて……(汗)」

「またそうやって臆病な装いをして濁すのか?」

「言ったところでなんだよ」

「何?」



言わない朔太郎の代わりに太宰が割って入ってきた。



「彼の異能は私以外認識が出来ないからね」

「どういう事だ?」

「鏡花ちゃん。彼の異能を受けてどんな感覚だった?」

「……いない者が突然現れた感じだった。」

「そう、それだよ。朔太郎くんの異能は、
この世から存在を認識されなくなる異能だ。」

「「「「「!!」」」」」



この世からという大雑把な広い範囲の言葉に
探偵社にいた全員が驚きを隠せなかった。



「この世から?とすると海外にも適応されるという事か?
だとすれば異能の影響範囲があまりにも広過ぎる」

「ええ、彼の異能はこの世どころかあの世すら
荻原朔太郎という人物はいないとされてるでしょう。
私と初めて会った時 彼は異能を制御出来て無かった。
だからそれまでは彼を幽霊のように街の中心にいても
誰も目にも止まらず避ける事もなく、
それが自分の陰の薄さだと勘違いをしていた。
実際こんなオドオドと挙動不審な男がいれば
嫌でも気に留めて関わらないように
人は避ける動きをすると思うけどね(笑)」

「うぅ…(汗)」

「それは映像や写真でもなのか?」

「でなければ名前を知らない
ただ不審な人物と変わらないからね。
そんなのポートマフィアのアジトに行ったら門前払いさ。」

「成る程 スパイ向きだな。
何故我々に黙っていた?」

「入社する際に勿論社長には説明済みだよ。
黙っていたのは異能を使う場面が見えなかったからさ。
実は陰で私の手伝いをさせていたのだけれど
監視カメラにも映らないんじゃ活躍した証拠にならないしね。」

「じゃあ、何故敦は朔太郎の異能が分かったんだ?」

「朔太郎くんが触れた人物には存在に気付くんだよ。
だから道端でぶつかれば認識されて怒鳴られるが、
触れなければ声をかけたとしても気付かれない。
監視カメラや写真は認識している人が見れば
ちゃんと写っているよ。朔太郎君が許可して
触れないといけないからそれは意味がない。」

「確かに……朔太郎さんはあの時僕の肩に触れてました。」

「私が気付いた時も肩に触れていた」

「ぁ…あの時は敦くんには待ってて欲しくて…、
き、君に関しては、夜叉白雪が君の指示ではなく、
携帯の…声に従ってるように思えたから、
異能が止まるまで君個人を僕に気付かせた……んです…」

「凄い!!そんな異能なら人に気付かれずに
諜報活動も出来るじゃないですか!!」

「そ、そんな…僕なんて……、
褒められるような人間じゃ……」

「だとしてもだ。我々が異能を明かしてるのにも関わらず
自分だけ黙って隠密活動が可能な異能だったなど
探偵社のスパイだとしても説明がつくぞ。
俺は昔から何も成さず太宰の後ろにいるお前が
不審でならなかった。
社長が認めたとはいえ、俺はやはりお前を認めんぞ。」

「頭が堅いなー国木田くんは」

Σ「何!?」

「まぁ、今までの彼の行動や太宰の発言からして
嘘は全く感じられないしスパイだとしても
僕の推理から欺くのは例えその異能だとしても不可能さ。
そして今手の内を明かしたのだから尚更だね。」

「誰にも認識されないんじゃ怪我も自分でコケた
擦り傷しか無いわけだよ。つまらない男だねえ。」

「隠密行動って事は谷崎さんと同じじゃないですか!
情報収集に役立つ凄い異能なんて
朔太郎さんは凄い方だったんですね!」

「正直助かるよ…僕一人じゃ複数の案件来た時
大変だったりするから…」



否定的な国木田とは違って他のメンバーは
あっけらかんと朔太郎を受け入れていた。



「ほらあ国木田君だけだよ?ずっと五月蝿いのは。
それに成果なら私を助けに来てくれたじゃないか
仲間想いなのは良い事だよ?」

「それは貴様だからだろうが!!
いつも後ろに隠れてオドオドと!
もっと自立して仕事出来るように教育しろ!!(怒)」

Σ「きょ、教育…!!?(汗)」

「調教だなんて国木田君ひどいなー」

「ちょ、調教…!!?(汗)」

「調教だなんて言葉は使っていない!!(怒)
が、然し調教でもなんでも良い!まともに仕事させろ!!」

「まあまあ、それはおいおい活躍出来る場面が来るさぁー」

「それはいつだ!今すぐか!!(怒)
第一貴様は早くマフィアに捕まっていた間の
報告書を提出しろ!!」



国木田は太宰の胸ぐらを両手で掴んで荒ぶっていた。



「ほら朔太郎くん 活躍出来る場面が来たよ!」

Σ「ぇえ!?ぼ、僕 殆ど書けませんよ!(汗)」

「じゃあ敦くん!君に報告書の書き方を教えてあげよう!」

「こ…この流れでですか?(汗)」

「君にも関わる話だよ。
君に懸賞金を懸けた黒幕の話だ。」

「判ったんですか!?」

「マフィアの通信記録に依ると、
出資者は【組合(ギルド)】と呼ばれる
北米異能者集団の団長だ。」

「実在するのか?組合は都市伝説の類だぞ
構成員は政財界や軍閥の要職を担う一方で
裏では膨大な資金力と異能力で数多の謀(はかりごと)を
底巧む秘密結社ーーー…まるで三文小説の悪玉だ。
第一そんな連中が何故敦を?」

「直接訊くしかないね。
逢う事は難しいだろうけど
巧く相手の裏をかけば…」

「た、大変です!!(汗)」



外からヘリコプターの音がしたと同時に
谷崎が慌てて部屋に入ってきて
太宰や敦は窓の外を覗くと、
恐らく組合であろう北米顔の男達が
高級そうなヘリコプターから降りて
探偵社のビルに入って行った。

朔太郎は音にビビって机の下に潜り込んでいた。