臆病者故に









「はあぁぁぁぁ…」



朝探偵社に向かう朔太郎は
溜息を深く吐き出しながら
ヨコハマの街を徘徊していた。
何が憂鬱かって?
中島敦が探偵社に入社するからだ。

然し其れには入社試験がある。
探偵社に相応しい人材かどうかの見定め。
自分には其れが無かった理由は、
太宰とセットだったからだ。
太宰が合格すれば自分も合格した。
でなければ自分はこの社に相応しくない人間だと、
自分が一番理解しているからだ。

話は逸れたが、何故憂鬱かと云うと、
また知らない人間が同じ空間に入るからだ。
出来る限り一人か太宰と一緒が良いが、
昨日の感じで太宰は中島の面倒を見る。
自分は放ってかれてしまうのが目に見えている。
自分が探偵社にいる意味は未だに分からない。
そんな状態で一人でいて良いのかも分からなかった。



ピリリリリ!

Σ「!?」ビクッ



ポケットから高音が鳴りビクつき、
その動作に周りが驚いた。



「で、んわ!?(汗)
(前に音小さくしたはずなのに何で爆音!?
わわわ!太宰さんだ…!なんだろ…
早く出なきゃまた遅いっていわれ…)」ポロっ



ガシャンッバキバキバキッ!!

「!?(汗)」



慌ただしく取り出した瞬間
フワッと携帯を落として
道路に飛び出してしまい、
携帯がトラックに轢かれて
耳につく高音は静まったが、
要件を聞けなかった。



「ど…どどどどうしよう…!(汗)
太宰さんに叱られる!殴られる!?
いやもう大丈夫なはずだ…
まさか探偵社であんな罰するわけないし…
いやあの人ならあり得るのか!?(汗)」



壊れた携帯に跪きあわあわとする様子に
周りも声を掛けるか迷うほどの
怪しい変人の様な彼を
結局誰も声を掛ける勇気は無かった。









ーーーーー……*°




「ここ、どこだ......」



窓から差し掛かる朝日で
目を覚ました中島は布団から体を起こし
辺りを見渡せば見慣れない部屋に
孤児院の時の朝の習慣は無いのかと
寝ぼけている様子で見渡した。



そのとき。


ピピピピピピピ!!

Σ「!!?(汗)」ビクッ



携帯の着信音に驚き、
用意されていた着替えの隣にある
携帯を手にして試行錯誤で釦を押し
耳に当て通話に出た。



「は、はい?」

『やぁ、敦君。
新しい下宿寮はどうだい?善く眠れた?』

「お陰様で......こんな大層な寮を紹介頂いて(涙)」



中島がしみじみとそう云うと、
太宰はそれは良かったと聞き流し、
自分が緊急に伝えたい要件に入る。



『ところで頼みが有るのだが』

「はぁ...?」

『助けて死にそう。』



太宰は着替えて指定された場所に向かう。
というか部屋を出て直ぐに現場に着いていた。
アパートの目の前でドラム缶に挟まった恩人がいる。



「やあ、良く来たね。早速だが助けて」

「え...?何ですかこれ?」

「何だと思うね、敦君」



太宰が問うと「朝の幻覚?」と、
現実逃避をしたくなる状況だった。

太宰がしているものは、
ドラム缶にお尻の方から入る自殺方法だった。
ポイントとしては石でしっかり固定することらしい。
お陰で脱出しようと揺らしても
ビクともせず一人で苦しむだけだった。



「こうした自殺方法があると聞き、
早速試してみたのだ。が、
苦しいばかりで一向に死ねない。
腹に力を入れてないと徐々に嵌まる。
そろそろ限界。」

「はぁ...でも自殺なのでしょう?そのままいけば」

「苦しいのは嫌だ。当然だろう。」



君は何を云っているんだ。
という歪んだ顔で見られ、
中島はよく理解はしていないが、
とりあえずその圧力に
「なるほど」とだけ云った。



中島はドラム缶を倒して太宰を救出した。
倒した際の衝撃で太宰は痛みを感じたが、
悪いのは自殺未遂で迷惑を掛けた太宰だ。
救出した後 二人は探偵社に向かう。



「他の同僚の方に救援を求めなかったのですか?」

「求めたよ。でも私が"死にそうなのだ"と
助けをこうた時、なんと答えたと思う?」

「死ねばいいじゃん。」

「御名答。」

「あれ?でも萩原さんは?
川に流された時 必死で助けようと…」

「直ぐに電話をしたのだけれど出なくてね。」

「え?何かあったんでしょうか…」

「彼の事だ。考え事している時に、
携帯の着信音に驚きポケットから慌てて
携帯を取り出し 手を滑らせて
道路に投げ捨てて車に轢かれて
壊れて出れなかったのだろう。」

「(凄い細かく行動を読まれている…(汗))」

「彼は臆病な人間でね。
私がいないと生きてく事さえ
嫌になる程の人見知りなのだよ。」

「はあ…」

「噂をすれば彼だ。」

「!?(あんな建物の陰に…(汗))」



太宰と中島が向かっていた方向の
建物と建物の隙間に朔太郎は
怯えた様子で太宰達を待っていた。
どんよりとした彼の空気に中島は引き気味だ。



「やあ、朔太郎君。
私が死に掛けていたと云うのに、
電話に出てくれなかった理由は何かな?」

「…け…携帯がトラックに轢かれてしまって……(汗)」

Σ「(当たった!(汗))」

「ふぅ…そんな事だろうと思ったよ。
だから君には携帯を持たせたくないのだけれど、
今の時代持たないと何かと不便だからね。」

「うぅ……ごめんなさい…(泣)」



新人中島の前だと云うのに
上司に怒られる朔太郎は、
なんだか自分が惨めに見えた。