美女のご依頼









探偵社事務所に戻ると、
ビジネススーツを着た綺麗な女性が、
ソファにちょこんと座っていた。
其の向かいのソファに谷崎と
其の後ろ両サイドにはナオミと中島。
其の後ろに太宰とさらに後ろに国木田。
萩原は全く違う場所で縮こまっていた。
だがチラチラと様子は伺っている。



「……」

「………あの、えーと…調査の
ご依頼だとか…それで……」

「美しい……!睡蓮の花ごとき果敢なく
そして可憐なお嬢さんだ。」

Σ「へっ!?(汗)」

「どうか私と心中していただけないだろーーー…」

スパァアアアンッ

「なななな!!?(汗)」

「あ済みません、忘れて下さい。」



太宰は国木田に引っ叩かれた後、
ずるずると引き摺られて強制退場された。



「えっとそれで、依頼と云うのはですね、
我が社のビルの裏手に最近善からぬ輩が
屯している様なんです。」

「(普通に再開した……、
変人慣れしてンのかな?)
善からぬ輩ッていうと?」

「分かりません。
ですが、襤褸をまとって日陰を歩き
聞き慣れない異国語を話す者もいるとか。」

「そいつは密輸業者だろう。」



国木田は戻って来ていた。



「軍警がいくら取り締まっても
船蟲のように湧いてくる。港湾都市の宿業だな。」



眼鏡を押し上げて云った独歩さん。



「ええ。無法の輩だという証拠さえあれば
軍警に掛け合えます。ですから」

「現場を張って証拠を掴めか…小僧、お前が行け。」

Σ「へっ!?(汗)」

「ただ見張るだけだ。
それに密輸業者は無法者だが
大抵は逃げ足だけが取り得の無害な連中。
初仕事には丁度いい。」

「で、でも」

「谷崎一緒に行ってやれ。」

「兄様が行くならナオミもついて行きますわぁ!」



ナオミはギュッと谷崎を締め付けた。









ーーーーー……*°



中島が緊張でガチガチしていると、
国木田が歩み寄って来た。



「おい小僧。
不運かつ不幸なお前の短い人生に
些かの同情が無いでもない。
故に、この街で生き残るコツを
一つだけ教えてやる。」



国木田は一枚の写真を見せる。



「こいつには遭うな。遭ったら逃げろ。」

「この人はーー?」

「マフィアだよ。尤も他に呼びようが無いから
そう呼んでるだけだけどね。」

「港を縄張りにする兇悪なポートマフィアの狗だ。
名は芥川。マフィア自体が黒社会の暗部の
さらに陰の様な危険な連中だが、
その男は探偵社でも手に負えん。」

「何故ーーー危険なのですか?」

「其奴らが能力者だからだ。
殺戮に特化した頗る残忍な能力で、
軍警でも手に負えん。
俺でもーーー奴と戦うのは御免だ。」



そういう国木田に中島は唾を飲んだ。



「む?おい、太宰。
朔太郎が見えんが何処に行った?」

「さー?彼の事だから居た堪れなくて
事務所出てその辺散歩でもしてるんじゃないかな?
またドブにでもはまって、泣きながら帰ってくるよ。」

「ったく…貴様といい朔太郎までも
社員でありながら仕事を放り投げるとは…(怒)」

「朔太郎君は殆ど仕事出来ないけどね。
パソコンはフリーズさせるし、
人が苦手だから聞き込みも出来ないし」

「ますます前職が不可解でならん。」



国木田は怒りと呆れが混同しながら
自分のデスクに戻って仕事を再開した。



「(朔太郎さん不思議な人だなぁ…(汗))」

「敦くん そろそろ行くよっ」

「は、はい!」

「頑張ってねー」



谷崎とナオミと事務所を出る中島に
太宰は緩く手を振って見送った。