mint


No Title


少し遠出をして、いつもと違う雑貨屋さんの扉を開いた。カランカラン、とベルが揺れて、私たちの訪れを告げる。いらっしゃいませ、と店員さんの声が聞こえてきた。夏が近づいてきたのもあって、入ってすぐの所には暑さ対策のグッズや折り畳みの日傘、通路を挟んだ向かいには夏用のアクセサリーが並んでいるようだ。それを見て隣にいた彼、否、彼女からは、きゃあ、と楽しげな声が上がる。真っ先に向かったのは、アクセサリーのコーナー。爽やかな色合いのピアスたちを端から順番に眺めて、唇から嬉しそうな笑い声が零れてゆく様子を、隣で見つめる。
「見て見て、このピアス、とっても可愛いわ!」
彼女が手に取ったのは、淡い紫色と桃色のグラデーションが綺麗なピアス。それを見て、夜明け色みたいで彼女に似合いそうだな、と思った。だから。
「うん、嵐ちゃんに似合いそう!」
素直に告げれば、キラキラと宝石みたいに瞳が輝く。…本当に、嵐ちゃんは可愛いなあ。それを再確認出来た嬉しさに、ふわふわゆるゆると締まりのない笑みを浮かべていると、ねえ、と声を掛けられた。きゅっ、と表情を戻して、なあに嵐ちゃん、と返事をする。
「お揃いにしましょ?」
そう言って嵐ちゃんが指さしたのは、先程のピアスと同じデザインで、色違いのイヤリングだった。私はピアスホールがないため、イヤリングの中から同じデザインのものを見つけてくれたらしい。群青色と水色のグラデーションだから、ピアスと揃うとなんだか紫陽花みたいだ。太陽の色が混じって紫色になる前の、夜明けの頃の空の色にも見えるかもしれない。思わず目をぱちぱちと瞬かせた。
「お揃い、良いの?」
「当たり前じゃない!アタシたち、恋人でしょう?」
そう言って、ぱちん、とウィンクをひとつ。いつもの癖で、両手でぱっくんと受け取る仕草をすれば、嵐ちゃんはくすくすと笑った。
「相変わらず、可愛いことするわねェ」
「えっ、だって、ウィンクとか投げキッスとか、されるとキャッチしたくならない?」
「んー…人によるんじゃないかしら?」
こてん、と首を傾げる嵐ちゃんに、そういうものかなぁ、と言えば、そういうものよ、と返ってきた。言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。考え方も行動も、他の人と少しズレているという自覚があるから、その言葉に何だかすくわれたような気がした。
「じゃあアタシ、レジに行ってくるわね。…イイコで待てたら、ご褒美をあげようかしら♪」
ふに、と人差し指で唇に触れると同時に目を細められて、思わず頬が熱くなった。一瞬で思考回路は溶かされてしまって、指一本動かすことすら出来ない。そんな私の様子を見た嵐ちゃんは悪戯っぽく笑うと、スキップをするような足取りでレジへと向かっていった。

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