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Like attracts like.


できるだけステージに近い位置をもぎ取って、そわそわと始まりの時が来るのを待機する。今日は、ゆうくんこと遊木真くんの所属するユニット、Trickstarのライブの日。ゆうくんは私にとって弟みたいな存在で、この世でもっとも可愛くて格好良い!と断言できるくらいに、素敵な子だ。それはもう、修学旅行のお喋りタイムなんかじゃ彼の魅力を語り尽くすことが出来ないくらいには。
そして、私と同じように彼のことを弟のように可愛がっている人物がいる。名前は、瀬名泉くん。なぜか私の行く先行く先に現れては、ゆうくんとの逢瀬を邪魔してくる、ちょびっとだけ厄介な存在。
そんな彼と私は今、隣同士、無言で見つめ合っていた。彼がこの場所を選んだ理由は、手に取るように分かる。少しでも近くで、ゆうくんのキラキラとした姿を目に焼き付けるために。私もまったく同じ理由でここに居るから、なんだか複雑な気持ちになってしまう。
「なんであんたがステージの前に居るわけぇ?」
沈黙を破ったのは、彼の方。機嫌の悪そうな声音で問い掛けられる。
「そんなの、ゆうくんの活躍を近くで眺めるために決まってるでしょ!」
だから私の邪魔をしないでよね、と言葉を続けて、釘を刺した。…自分への戒めも込めて。同じ想いでここにいる以上、彼も私も今日はゆうくんのファンの一人、なのだから。
ライブの開始を告げるように、ぱっとステージの上が明るく照らされる。同時に周りから歓声が上がったかと思えば、ほどなくして曲が流れ出した。この前奏は、ああ、私が一番大好きな曲だ!

合間にMCを挟みながら、ライブが進行して行く。次の曲、聞いてください。メンバーの一人のその言葉を聞いた瀬名くんが、おもむろにうちわを掲げた。釣られるようにして、私も自作のうちわを掲げる。書かれた文字は『ゆうくんファンサして♡』で見事に被ってしまっているけれど、気にしている暇も余裕もあるわけがなかった。
ゆうくんの歌に集中して、踊る姿を目で追いかけていると、バチッと視線が通い合ったような感覚。あ、今目が合った。そう思った次の瞬間、眼鏡越しにぱちんとゆうくんがウィンクを投げた。嬉しさのあまり、口元に手を当てる。
「「ゆうくんにファンサ貰っちゃった!」」
語尾にハートマークが付きそうな、蕩けた声が重なった。思わず顔を見合わせて、そのままバチバチと睨み合い。
「ちょっとぉ!?今のウィンクは俺に向けられたものなんだけど!?」
「はぁ!?私に向けられたウィンクに決まってるじゃない!!」
顔を突き合わせるようにして火花を散らせる瀬名くんと私に、ゆうくんがステージの上でえっと、と苦笑する。
「いや、今のは二人の後ろにいたの人へのウィンクなんだけど…」
ぼそりと聞こえてきた声に、瀬名くんと私はほぼ同時に後ろへ振り向いた。

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