キーンコーンカーンコーン

2年C組。高校生活2年目が始まったわけだが…。

まぁこの学園は濃ゆい!非常に濃ゆい!!
まずなぜこんなにも平穏からかけ離れた学園生活になるのだろう。
お弁当を食べるだけにも、気を抜けば爆風によって今日のおかずが前の席の田中君にクリーンヒットしていたなんてことは日常茶飯事。

そんな学園生活でいかに、あのバサラワザ?とかいうものを使えない僕がこの1年間を生き抜いてきたか。
重要なポイントは2つある。

一つ目。お人よしで人気者の無駄にコミュ力高めな前田君と仲良くなること。
彼はあのこの婆娑羅学園の窓を30回は割ってきたであろう伊達君真田君(通常問題児ペア)とも仲がいい。
というかあのバサラワザ使ってくるバサラモノって呼ばれてる人たちとまともに会話ができる。
すげぇ。リスペクト。
なのに一般人の僕たちの事も気にかけてくれる。
どれだけコミュ力持ち合わせてるの本当に。少し分けてほしい。何回お弁当救ってもらったことか…

そして二つ目。空気になる事。
僕のようなチキンにはですね!ほかに選択肢がなかったの!!
しょうがないの!これが一番被害を軽減できるの!

「おぉぉぉやぁぁあかったぁあさぶぅぁぁっぁぁぁ!!!!!」
って声が聞こえた瞬間信玄先生が担任を務めているこのクラスからサッと抜け出す技は取得した。
うん。このスキル大事。


という訳で、僕という人物は大体把握できたのではないだろうか。
地味、普通、空気。
少なくともこの学園基準ではこうなる。

そんな僕が、こんな学園で、思わぬ出会いをしてしまった。
会いを思い出すだけでこんなにも動揺する。動揺しすぎてこうして校庭の壁に向かって話しかけている。
落ち着くんだ僕。

出会いは急だったんだ。
武田先生に頼まれごとをして、学園祭関連の資料を色んなクラスに私に行こうとしていた日の事。
といってもこの婆娑羅学園はかなり学園祭に力を入れている上、結構なマンモス高校だから配達しに行くクラスの数も多い。
無駄に広いこの学園をひたすら歩きまわっていた時、疲れていたせいか踊り場の階段を踏み外してしまった。

運動部でもなんでもない僕の体が真っ先に反応してくれるわけもなく、来るであろう痛みに目をぎゅっと瞑って待ち構えた。
けど、痛みはなかった。
目を開けたら視界いっぱいに赤茶色が見えた。

どうやらこの目が隠れている赤茶色の髪をしたイケメンのお兄さんが助けてくれたらしい。
咄嗟に思い浮かんだのは「保険医の明智先生、腕は良いのにどんな治療も凄く痛いって聞くからお世話にだけはなりたくないなぁ」という事。
取り合えずびっくりしすぎて声も出なかった。

状況を必死に整理しようとしていると、謎のイケメンの彼がコクッ頭を傾げた。
あっ、これ僕の心配してくれてる?
「ありがとうございます…、あの、助かりました…。」
目元は髪で隠れていたが少し口元を緩めて、今度は縦にコクッと一回頷き、

次の瞬間、ブワッっという風と共に彼は消えた。


「あんな人、この学校にいたんだ…
というか待ってくれ!僕お姫様抱っこされてなかった!?えっ!!
それに驚きすぎてお礼も言えなかった…」

このドキドキはきっと、お姫様抱っこされた恥ずかしさのせいで
彼にもう一度会いたいと思ったのはお礼を伝えたいから。
そう、それだけ。

断じて、恋なんかじゃないんだからね!

と自分に言い聞かせていた三日前。
そして現在。校庭の木の上で小鳥たちと戯れている彼を発見してしまった。
瞬間、心臓がぎゅーって締め付けられて、でも恥ずかしくて、ドキドキして、

(あっ、これ、恋だわ)

自覚してしまったこの感情。
抑えることができなくて、まずは彼のいる木の元まで走って行こうと思う。



P.S
あれ?一人で校庭の壁に話しかけているところ見られてたんじゃね?

 


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