★インサイド:カーテンコール
玄関の扉が開いて第一声は互いに平坦なものだった。
「よっ、スティール王!」
「おっ、ベスト3P成功率賞じゃないすか!」
「……お前よくそれ噛めないで言えんな」
「噛むとこなくね?」
アワードが終わって翌日、諸々のスケジュールをこなしてからオフの社会貢献活動に入る前に三井の部屋に宮城は訪れた。玄関先でつっかけたままのクロックスを脱いで、慣れ親しんだ廊下を進む。後ろ手に鍵をかけることにもすっかり慣れた。三井は宮城を先導しながら、「来年は年間優勝もらうけどな」と堂々と不敵な笑みを浮かべている。当然の予告だ。同意する。
頷きながら宮城は彼の左手に、右手の指先で触れた。時間にすれば一瞬の触れ合いだったにも関わらず、三井はその宮城の意図に気付いたのか触れるやいなや指を絡めてきた。そういう意味で触れ合うのは、まだそれほどの回数をこなしていない。
リビングの明かりはすでにつけられていた。それを素通りして、何度も入ったことのある寝室に足を踏み入れる。そういう意味では、はじめて。カーテンはとじられており、三井からは三井の使っているシャンプーの香りが立っていて、その香りで肺を満たす。宮城は高鳴る心臓をおさえつけながら、絡む指をそのままに、体当たりするように三井の身体に寄り添った。
ベッドの脇、三井はその宮城の身体を受け止めながら、シャワーを済ませて徒歩数分の距離を駆けてきた宮城の頭に顔を埋める。深く息を吸う音を頭上に感じながら、宮城は三井の胸元に顔を寄せ、深々とため息をついたのだった。
「はあ……まさかこの期に及んでアンタとのはじめてがあるとは……」
「こっちのセリフだわ……ほんとにお前……お前……!」
「え、なにこわ」
「……お前、本当に準備してきたのかよ」
「……きたよ」
問われて、頷く。はじめてキスをしたのは、大雨の夜だった。優勝したチームに背を向けて、このマンションに帰ってきたその駐車場。夜中で誰も周りにはいない。明かりの消えた車内。エンジンの音もしない静寂の中、かすめるだけのキスをした。三井の唇の柔らかを、吐息の熱さを、膜の張った瞳も、ぼやけるほどの近さの輪郭もその夜、初めて知ったのだ。
その日は外が雨だからと言い訳をして三井の部屋に泊まって、何度かキスをして、一度だけ性器をしごきあって眠りについた。それから。それから、じゃんけんで、どっちが抱かれるかを決めたのだ。自分たちらしいと言えば自分たちらしい。自分という存在に二言はない。三井は変わると申し出たが、宮城が譲らなかった。昔から何かと仕掛けてきた男気じゃんけんで勝ち続け宮城に食事という食事、おやつに酒に肉を奢り続けてきた男に、この程度で「じゃあお願いします」なんて言えないだろう。
日取りを決めて、準備をした。手伝うと言い張る三井に、嫌だ絶対に無理洗浄はうちでやってから来るから絶対に逃げねえからと言い含めた。先ほどこの部屋を訪れた時も、インターホンを鳴らすのとドアが開いたのはどちらが早いかわからなかったくらいで、玄関に仁王立ちで構えていただろう三井を想像すると少しだけおかしくなってくる。
「大丈夫かよ、体調ってか、変なとこねえか」
「平気。全然ヨユー」
そうかよ、と頷きながら三井は宮城をベッドに座らせてから、自身もその隣に腰掛けた。何度か座ったこともあるベッド。三井の匂いが濃い部屋。関係がひとつプラスされた部屋で、これから宮城は、三井に、抱かれる。
「……ま、お前どうせ勝手に泣くのも我慢すんだろ」
言い当てられて、存外この男は宮城をきちんと見てきたのだと思い知ってしまった。ばれている。手の内を知られているようで、知らないふりをしていたのか。けれどそれはこちらも同じようなものだと思いたい。思わず黙り込めば、三井は宮城の顔を覗き込んで、慈しむように鼻を擦り寄せた。
「……」
「だからオレも勝手にする。好きにさせろ」
そう囁いて、三井は宮城の身体を大きな手で一度触れてから、確かめるように抱きしめてきた。いつもの乱暴な、勢いのあるハグとは違う温度。
「……ありがとな、準備してくれて」
優しく抱きしめられて、その温度に、知っているはずの温度に思わずうめき声が漏れた。身体が突然軽くなったような心地さえして、宮城は三井に縋るように腕を巻き付ける。
「……ていうか、見慣れてんじゃん。オレの身体で興奮すんの、アンタ」
「ん? まあ、バスケスイッチあんだろ。そうじゃなきゃ、ほら」
大人しく腰掛けていた姿勢から、宮城を囲むように長い足で巻き付くと、思い切り腰を押しつけてくる。その中央には、見たこともある性器が、ジャージを押し上げて小山を作っていた。
「っ、うわ、ガン勃ちかよ」
「ここまで長かったからな。お前無防備っていうか、そりゃあ意識しなけりゃマジで警戒しねえよな。おかげでオレぁ徳川十五代将軍と元素記号と平家物語の冒頭暗記できたぜ」
「暗記レベルが20年前なんだよな〜」
「うるせ、お前も似たような頭だろうが」
あ、今日だめかもしれない。いつもの、気の置けない先輩後輩の空気になりつつある。宮城がそう危惧したところで、三井はおもおむろに、静かな声を絞り出した。凪いだ海のように、静かな声。
「お前こそ平気かよ。……オレだぜ?」
問われて、なんのことだと眉を吊り上げる。その昔、傷つけられたことがあるから? 男だから? 見慣れているはずの身体を見上げる。鍛え上げられた身体。シーズン終盤に転倒してできた左肩の痣はもう消えていて、宮城がきっかけで刻まれた顎の傷だけが、今見える宮城からの世界の中でこの男の疵瑕となっている。
かっこいいこともみっともないことも、知っている。宮城は、この男とセックスをする。
愛だとか恋だとか、そんなものがなくてもできるひとはいるらしい。実際にそういう関係を結ぶ人間も何人か知っている。その話を聞いた時は嫌悪感は抱かなくとも潔癖なのだろうか、自分もとは思えなかった。けれど、宮城は今、絶対に、そんな関係では満足できない、乾いた欲望が腹の底で腹をすかせているのを実感してしまった。この人がいい。この人だけがいい。三井がいい。三井だけが、ほしい。
三井が宮城を見つめている。どこか不安げに揺れた瞳、張り詰めたような表情。眉根を寄せて宮城を見下ろしてくる男が愛おしくて、恋しくて、今すぐに、自分のものにしたくて。してほしくて。
「……アンタだけがほしい。アンタだけのものに、してほしい」
そのために、できること。したいこと。宮城は、抱きすくめられたまま、無理矢理自分の体勢をぐるりと回転させた。そのまま三井の首に自身の腕を回す。回したまま、自分の男であるはずの三井の顔を引き寄せて、唇を触れ合わせる。自分の家にあるものとは違う、歯磨き粉の味。香り。すぐに三井の唇は、貪欲に宮城の口をまるごと食べてしまいそうなくらいに大きく覆ってきた。唾液まみれにされて、思わず唇をわずかにあける。見計らったかのように、分厚い舌が侵入してきた。
「ん、ぁ」
「みやぎ、みあぎ」
「んん」
舌ったらずを構いもせず名前を呼ばれて返事をしたいのに、できない。それよりも、自分だって三井のことを食べてしまいたい。舌を絡ませて、吸って、自分とは違う熱をぜんぶぜんぶ抱きしめたい。ベッドに横たえられて、三井の掌が宮城の着ていたシャツをまくりあげて、温めるかのように脇腹を、腰を、腹を這う。急に外気にさらされて粟立つ肌を、ざらついた手のひらが筋のひとつを筋肉のくぼみを血管を、細胞を慰めるように撫で上げた。それにまた疼くような火が、触れられた場所から灯されていく。キスをしている。キスをして、三井が、宮城の身体で、興奮して。
「あ、んぅ」
ずっとキスをしていたい。そんな馬鹿みたいなことを思った。脳内では麻痺したように、与えられるものに追いすがるしかできないでいる。三井とのキスは、馬鹿になる。だめだ。歯を舐められて、舌をしゃぶられて、上顎を擦られて、快感を引き出される。腰の奥が疼いて仕方がないのに、三井は責め立てる動きをやめない。それはそうだ、だって宮城が三井の頭をずっと抱えているのだ。後頭部の、まだわずかに濡れた髪を撫でていれば、三井の右手が宮城の耳に触れた。
「っ、」
肩を震わせたのを、三井は見逃さなかった。息を整えるのに必死な宮城の唇に、音を立ててキスを落とすと今度はその濡れた唇で耳殻を食む。舌で穴をくすぐって、そのいやらしい水音が直接鼓膜に響いてきて、
「ぁあっ、ふ、ぅっ」
自分でも、信じられないような喘ぎ声が漏れた。
「きもち?」
「あっ、わかれっ」
「うん、わかる」
耳元で三井が笑っている。笑い声が、やはり直接響いてきて、背中に震えが走った。そうだ、宮城は、三井の声だって、好きだ。低くて深くて、普段よく通る声が、自分にだけ届く音で囁かれている。たまらないだろ、そんなの。
「もうあちいだろ、脱がすぞ」
「あ、……うん」
自分で脱ぐつもりで、三井のも脱がすつもりだった。後ろの準備だけはしてきたが、もっと儀式めいてさっとやるものだと思っていたのに。三井は一度身体を起こすと、丁寧に宮城の服を脱がせたかと思えば、自分のシャツは乱暴に脱ぎ捨てた。布が床に投げ捨てられる音を聞きながら、服を脱がされるためにわずかに浮かされた身体をふたたびゆっくりとぽすん、とベッドに身体を預けた。もう、三井しか見えなかった。
「宮城、」
「三井サン……っ」
三井の唇が、舌が、体中を這う。首筋をなぞって、鎖骨をなめて、胸元を辿る。リップ音を追いながら、宮城は触れられるたびに、三井にそうされているという事実に腰が思わず震えてしまった。撮影がある。着替えがある。見えるところにキスマークはつけられない。そんなことはお互いにわかっているから、三井はしつこいくらいに体中にキスをして舐めるだけで、吸い付いたりはしてこない。おもしろいくらいに喘がされながら、宮城は声を抑えることすらできないでいた。
やがてそれが腰元に落ちてきて、三井の手が宮城の兆した性器を握り込む。先走りで滲んだ雁首。快感に直結するそれを柔らかく握り込まれて、三井の顔が近付いたところで、さすがにそれは拒絶した。フェラ、しようとしている。
「……それしたら今日もうキスしねえ!」
「……しゃあねえな!」
不服そうではあるが、三井は意趣返しかのように宮城の性器を追い立てる動きを早めた。
「ああっ、もうばかやろ……!」
裏筋を擦り、筒をしごき上げる。そのスピードはどこかピストンの速さで、三井の左手の指先が亀頭をえぐって、鈴口を刺激する。ぐちゃぐちゃになった三井の手。三井の手が、宮城の性器を擦っている。濡れそぼつ、宮城の性器。三井と同じもの。同じ器官を持つ、同じ形の身体をしている先輩に。ぐちゃぐちゃと、粘度のある体液を刷り込むように、わざと音を立てて責められている。滲む汗を吸われるように胸元にキスを落とされたので、宮城は息も絶え絶えに三井の顔を引き寄せた。三井はその意図を正しく拾い上げ、宮城の唇にキスを落とす。舌同士を触れ合わせて。
「あっ、」
その瞬間、腰がへこへこと動いてしまうのを三井はにやりと見下ろした。三井の手の動きが、より宮城を追い詰めていく。にゅこにゅこと、室内に濡れた音が喘ぎ声に混じって響いている。
「いく?」
問われて、咄嗟に小刻みに頷いた。自分でコントロールできない、三井に掌握された快感。その被支配の委ねる感覚があまりに心許なくて、唇を噛み締めても声が出てしまう。
「ん、んんっ、」
「よし、いっちまえ」
「いくいく、……あっ、い――……ッ!」
頭の中に、背筋を走るように腰にじわりと快感が広がってそれで解放された。射精を迎えた性器を、三井はすべて出し切れとばかりにさらに上下に刺激して、その強すぎる快感に宮城は身体を強ばらせた。とろとろと力なく吐き出されれる精子。それを満足げに三井は見下ろすと、ティッシュを手繰り寄せて手を拭った。それから、そのティッシュの横に置かれていた、ローションとコンドームに手を伸ばす。宮城は寝かされたまま、それが三井によって慣れた手つきで弄されるのを見上げる。
「……いいんだよな」
聞き方がずるくて、思わず笑ってしまった。息を整えながら、当たり前だろと力強く頷く。もっとも、力なんてほとんど出ないからわずかに顔を上下させるだけにとどまってしまったけれど。
後ろの孔。ローションを垂らされ少しずつ、ぐにぐにと縁をなぞられてほぐされて、ゴムをまとった三井の指が宮城の穴へ侵入してくる。ぐぷり、と質量が外から中へ捩じ込まれるその間際息をつめるが、準備の甲斐があり流血沙汰は避けられた。三井の片手に抱きしめられながら、必死で快感を得られる場所を探す指にいいようにされる。やがて掠めた一点に、宮城は、
「あっ⁉」
と息を漏らした。それを三井が聞き漏らすはずがなく、そこを重点的になぶるように追い立てはじめた。
「あ、あ、あ、……ああっ」
短いストロークで指を動かすたびに喘ぐ宮城に、三井は顔中にキスを贈りながらこれが快感だと教え込んでいるようだった。ここが気持ちいいところだろ。これは気持ちいいこと。だから安心して身を任せていいこと。宮城の方はとっくに明け渡しているつもりなのに、これ以上三井にあげてしまったどうなるんだろう。どこか怖くて、どこか安心できそうで、どこか、どこか。
もう戻れないほどの幸せがそこにはあるんじゃないかと、そう、思えて、しまって。
「あ、あっ、ああ、そこ……っ」
「ん、気持ちいいな、な、宮城」
「うー……! ……っあ、」
「……もういけっか?」
「はぁっ、あ、は……」
十分に広がった穴に、三井の張り詰めた性器が宛がわれる。最初は後ろからが楽だからと説得にかかっていた三井を、顔が見たいからと説き伏せて正常位で待ち受ける。見上げる三井の顔は真っ赤で、汗まみれで、自分もきっとそうで、快感を追い求めるだけの、ただの三井と宮城のすがたで。
「……も、早くしろよ……っ!」
コンドームをまとった怒張。その大きさを知っていて、宮城はそれでもこの男の全部がほしいと思った。思ってしまったのだから、しかたないだろう。
けれど衝撃で声が出てしまうことはわかっていた。覚悟だってしていた。今までの甘い快感を追うような漏れ出る声とは違う、汚い声だろうと思っていた、のに。その、三井のものが、ぐちゅ、と入り口に入り込んで、大きな亀頭がずぷん、と穴の縁を広げて宮城に入り込んだ、その瞬間。あ、だめだ。
体中に、電気が走った。なに、なになに、何の信号だ、これ。
「……、っ、」
でも、こんな、快感が、きもち、気持ちよくて、声が。逆に、出ないなんて。目を見開く。荒い呼吸を繰り返す。胸が上下して、酸素を追い求めて、忙しい。
「宮城、」
「……っ⁉ ……?」
「みやぎ、オレを見ろ」
「っぁ、……っ! み、っみつ、あっ、」
「宮城、息しろ、ちゃんと声出せ」
じっと目を見つめられる。三井の瞳が、自分にだけに向けられている。鼓膜に直接言い聞かせるような声が降ってきて、熱さと衝撃だけの中に、じわりと何か、三井の心のようなものが滲んできて宮城を導いてくれる。脳髄を震わせるような、微睡みに誘うような。そんな直接心の奥深くに埋め込まれるように名前を呼ばれて。
「宮城、……宮城」
何度も何度も、何年も、数え切れないくらいに、この声に、名前を呼ばれている。
「好きだ、宮城……」
三井の、声。三井の声だ。その瞬間、胸の中でなにかがはじけた。
「ぁあっ、あ、みつい、三井サン……ッ!」
「……ん、ここ。ここいにいるからな、宮城」
「うん、……ぁ、んっ、ぅあっ」
「よし、良い子だな、ちゃんと気持ちいいか?」
「ん、うんっ、は、ああっ、三井サン、すき、きもち、気持ちいい……!」
「痛くねえ?」
「ない……っ、んむ、あ、ああ、……ぁ――……きもち、っぅあっ」
三井の性器が、前立腺に当たっている。えぐるよりも押しつけるような動きに、悦楽を掻き立てられるようなもどかしさが沸いてくる。ふたたび兆しはじめた宮城の性器を、三井が握り込んでくる。
「ああっ、ばか、ばかばか、ああ、あんっ」
「なあ、なあ宮城、動いてい?」
「ん、動いて……っ、三井サンも、気持ちよくなって、」
「もう気持ちいいけど、な……!」
「あっ、あ、ぁあっ、んっ、うう、あああ……っ!」
ばちゅん。奥まで入り込んできた性器が、解放を求めて動き始める。自分だけの快感で宮城の中で果てればいいのに、三井は宮城の快感をピンポイントでえぐってくる。ただの単調な動きではなくて、うがつように、時折腰を回すように。その波にいいように翻弄されて、宮城は喘ぎ続けた。
「ううっ、あ、っぁ、はっあ、すき、あ、」
「宮城、宮城……! 好きだ……!」
「三井サン、……ん、ああっ!」
二回目の射精なのに、一回目よりも早く上り詰めた。しかも、三井よりも早く。吐き出された精子、その白濁が三井の手に。目の前が快感で塗りつぶされてしまって、もうなにもわからない。三井に、抱かれている。それだけしかわからない。三井は宮城の真っ赤になった頬に、濡れた頬に、涙でぬれた瞼に腫れた目元にキスをする。そのまま軌跡を作るように、やがて唇に辿り着いた。三井の顔を、汗が伝う。その雫に手を伸ばした。
宮城は波に揺られるような、ゆりかごに揺られるような、どこかすべてをとっぱらったような快感に浸されながら、三井に身体を揺さぶられる。ばち、ぱん、べち。今まで触れたことなんてなかった場所、そんな肌と肌がぶつかって、滲んだ汗が流れていく。むせかえるような汗の匂いに精子の匂いが混じっていた。三井の香りに包まれながら、柔らかな熱とほのかな光に浮かされて、それで。
「……ぁ、あ、……うっ、あ、は、ぁ……」
「……っは、あ」
「んんっ、〜〜……ッ!」
ああ、熱い。あつい、あったかい。キスが気持ちいい。
そのまま、そのまま。三井が宮城の中で果てるまで、果てても。ずっとこうしていたいと、そう、願いながらキスを交わしていた。
目を覚ました時、まだどうやら世界は夜の時間のようだった。三井の寝室に時計はない。宮城はカーテンの向こうの暗さで、時間はわからずともまだ帳は降りたままだと判断するしかなかった。薄く目をあける。違和感のある腰やら尻やら。また三井と新しい世界に行ってしまった。そのパートナーはどうやら夢の中らしく、静かな、けれどどこか満ち満ちた表情で寝息を立てている。同じベッドで眠るのは、はじめてだ。同じ薄手のタオルケットに包まれながら、宮城は暗闇の中、三井の輪郭にそっと目を凝らす。
変わるかと思った。もっと決定的に、何かが。けれど意外に変わらないな、と宮城はどこか拍子抜けしてしまう。変わるようなことをしたのに。細胞全部を書き換えられるくらいに衝撃的に存在というか、アイデンティティーが。そう考えて、あまりベッドの中で動きたくなかったので、胸中で否定する。きっと、ずっと、変わっていたのだ。三井はずっと宮城のそばにいて、宮城はずっと三井のそばにいたから。
だから宮城は宮城のままで、三井は三井のままだ。これからも、きっと。
そう思いながら寝返りを打とうとしたところで、綺麗な輪郭、そのかたちのいい唇が開いて音を発した。
「……眠れねえ?」
「んーん。起きちゃっただけ」
「まだ……あと5時間はいけるぜ」
「……なんか」
「あ?」
「なんか、三井サンもっと……犬みたいになるかと思ってた」
「馬鹿やろー、お前、浸ってんだよ」
浸っている。そう言われて、はっとした。三井が宮城に「ずっと」と言ったのは、もう、三年も前だけれど。ええ、そんな?
「待って三井サン。いつからオレのこと好きだったの」
宮城の問いに、三井はもったいぶるように笑ってから、それから年俸X円の腕で、思い切り抱きしめてきた。宮城は年俸X円の身体を抱きしめられながら、濃くなった三井の香りを吸い込みながら、食い下がる。
「マジでいつから、」
「……ばーか、秘密だよ」
「えー! 何それ!」
もう黙れ、とドラマのようにキスで大人しくさせられて、髪を撫でられる。いつもならひっぱたいて問い詰めるけれど、あまりに慣れないことをした夜だったので。宮城は、そのままいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。その朝へ向かう夜の途中、不思議で優しくて静かな夢を見た。三井に抱きしめられて、無邪気に笑っている夢。三井は優しく宮城の頭を撫でて、いつもと変わらぬ笑顔で囁いたのだ。
――オレの人生の半分、お前のことが好きだよ、宮城。
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