いつも隣りに

「……何で神童と一緒にいたんだ」
「それは、」

私が謝ろうとして口を開き掛けた時、そう蘭丸に問われて言葉に詰まってしまう。いつもと違う蘭丸の雰囲気に一瞬たじろいでしまうが、気にしていたら進展するものも進展しないため私はどうにか返す言葉を探す。

「言えない事なのか?」
「ち、ちが……」
「……そうだよな、お前は俺の事なんか見てはくれないもんな」

嘲笑するように笑う蘭丸に、私の頭は真っ白になる。……え?今この人はなんて言った?今まで脳内で言うことをまとめていたのが、一瞬にして流れ落ちてしまった。だって、しょうがないじゃないか。急にこんなことを言われたら正気でいろという方がおかしな話だ。

「ちょ、蘭丸?それってどういう……」
「どうも何もない!俺は小さい頃から満が好きで、でもお前は俺の気持ちに全く気が付いてなくて、」
「ま、まって蘭丸!ちょっと一旦落ち着いて…!」
「落ち着いていられるか!好きな奴が他の男と二人きりで話してるなんて、そんなの黙っていられると思うか!?」

怒濤の告白ラッシュに、空っぽだった脳みそに一気に情報が流れ込んでくる。え、どういうこと?蘭丸が私の事を、好き?そんな馬鹿な、そんなのあるはずがない。そう思っていても私の表情は正直で、どんどん顔に熱が溜まっていくのが分かる。

「わ、私だって蘭丸の事好きだよ!し、小学生の頃から!ずっと!」
「は……!?…お、俺は幼稚園の頃からだ!ずっと想ってきた!」
「はあ!?なんなのませガキ!」
「お前に言われたくないな!」

二人して真っ赤になりながら喧嘩をするこの様子は、端から見たら相当変だろう。この時間帯は人通りが無いから見られることは多分ないだろうけど。

暫くそんな事を言い合っていると、燃料が切れたように何だか笑いがこみ上げてくる。ふっ、と吹き出すと、今度は二人で死ぬほど笑い合った。

「……あー、よかった」
「何が?」
「いや、このまま満と話せなくなったらどうしようかって心配だったんだ」
「…ふふ、私と同じ事考えてる」

やっぱり考える事は同じだな、とお互いに笑う。

どうやら私が抱えていた悩みと全く同じ物を私の幼馴染は抱えていたらしく、謂わば私達はお互いに空回りをしていたようだった。ついさっきまで悩んでいたそれも、今となっては笑い話になってしまうのも不思議な話だ。

ふと、蘭丸が私の名前を呼んだので「なーに?」と返事をして蘭丸を見ると、腕を引っ張られて蘭丸はぎゅっと私の身体を抱きしめた。ふわりと香る、かぎなれた蘭丸のにおい。でも何故だかそのにおいに心臓は再びドクドクと忙しそうに動き出す。

「蘭丸?」
「少しだけ、こうしていてもいいか?」

久しぶりに見た甘えたな蘭丸に微笑を浮かべ、彼の肩に頭を預ける。瞳を閉じて、うん、と呟くとぎゅっと腕の力が強まった気がした。



(ほら、これでいつも通り)

仲直りは案外簡単なものなのです