どうか、なさいましたか。
高くも低くも感じられる、綺麗な声がこちらをよんだ。先程の人々とは違い、この女性は、しっかりと己の足で歩いて、わたしの目の前に佇む。
先程までとは違う、ひんやりとした冷たさがわたしの全身を覆った。
地面に座り込んだまま見上げると、ひどく綺麗な、美しい女性がふうわりと微笑んでいた。
アルビノかなにかなのではないかと思うほどに、その肌は白く、髪も、驚くほどに白い。少しばかり細められた目は、なんとも形容し難い薄い色を持っていた。
切りそろえられた美しい白髪が、女性が首をかしげることさらりと肩を伝って胸の方へと落ちていく。先ほどの三人はなんというか、息をするのもはばかられるような圧倒的な美しさを持ってはいたが、こちらの女性はため息をつきたくなるような美しさ。そんなものを持っていた。
「あの、」
「はい、なにか」
小さく声をかけると、女性ははっきりと優雅な声で返事を返す。なんとなく気恥ずかしさを覚えてうつむくが、それでも女性の美しい顔立ちは頭から離れて消えることは無かった。
「わたし、迷子なんです」
誰かに出逢えて、安心したから、なのだろうか。わたしの口から出てくるのはいわゆる事実というものである。誰にでも起こるわけではない、到底真実とは思えない、事実。瞬きをしていたら異世界に来ていたなんて、誰が信じるであろうか。
それでもわたしは、女性を相手に語ることしか出来なかったのだ。それは、わたしが彼女の存在にひどく安堵していたからかもしれない。名前も知らない女性出会ったが、彼女はわたしを見捨てたりしないのだろうというなんとも形容し難い確信が、わたしの中にはあったのだ。
女性にことのあらましを話しているうちに、頬には涙が伝っていた。
今、自分の置かれている状況を再確認させられ、飲み込まされたような感覚がしたものだから。
女性は一つ、ため息をついた。
わたしの話があまりに突拍子のないもので、あまりにも馬鹿馬鹿しいものであったと呆れられてしまったのではないだろうか。そう思い、びくりと体が震える。
「私、ユキメノコというポケモンなのです」
当然、彼女がそういった。だから上手く貴方の力になれるか……。悩ましげに彼女はため息をつく。
ポケモン、とはなんであろうか。聞き覚えがあるようでない。わたしには、知らないものだ。
困惑した顔をしていると、彼女はわたしに微笑んだ。やわらかく、やさしい笑みだった。
「貴方の居た場所には、きっとポケモンは居なかったのね」
ポケモン、という生き物について、ユキメノコ……さんは丁寧に説明をしてくれた。曰く、動物とも人間とも違う、生き物であること。技、とよばれる特殊な力を多く有していること。ポケモンたちには人の姿をすることのできるものがいること。そのほかにも、たくさん。
あまりに長く壮大な話であったが、なんとか少しは、理解出来たように思う。彼女の説明が丁寧でわかりやすかったからというだけでなく、わたしがこういったことを覚えることが得意だからというのもあるのだろう。暗記は得意だし、所謂社会系統のものごとは好きだから。
ポケモンたちは人の姿になることが出来るが、人間社会に溶け込めているかと問われれば、そうではないのだと、ユキメノコさんは語った。
「ですから、私は貴方の旅について行くことは出来ましても、今ここで、貴方を助けて差し上げることは出来ないの。私は、野生に生きるものなのだから」
彼女の言葉は、わたしにはよくわからなかった。だからこそ、見放されているような絶望感を感じざるを得なかった。
「なら、わたしは……どうしたらいいの」
知らない世界に放り出されて、良く分からない人たちにスズの塔というところまで来いと言われて。持ち物なんて、教科書程度しかないというのに。教科書なんてあしでまといの荷物にしかならない。ステータスマイナスで、いきなり、旅をしろだなんて。ユキメノコさんの話では、ここからエンジュという街までは、ずいぶんと距離があるらしいというのに。
「とにかく、旅を始めたら良いのではないかしら……幸いここには、そういった人たちを助けてくれる施設が充実していると、聞いているから」
何故わたしばかりが、こんなめにあっているのだろう。
優しく語りかけてくれるユキメノコさんには感謝を覚えたものの、それでも、絶望感を捨て切ることなんてできるはずもなかった。