三輪

ボールがぴかりと光って、パカりと軽い音がする。
ああ、なんか出てきた! そう思っていると、濃い、赤い光の中からよく分からない形が見えてくる。これが、ポケモンなのか。
何となくそう思いながら見ていると、その光がだんだんと薄まって……一匹の、薄い色をしたポケモンになる。わたしはボールがどうだとか、全くわからない。我が家にいる唯一のポケモンに、そもそもボールがあるかなんてわからないし、彼女はそんな素振り、全く見せない。お母さんも別にボールなんて取り出さない。
薄い色をしたポケモンは、きゅう、と鳴いた。
「なあに、何、君はどんなポケモンなの?」
変な感じだ。こうしていると、わたしは大分頭がおかしな子みたいだ。
当然ポケモンの言葉なんてわからないし、きゅうって鳴き声と会話なんて、出来るわけがない。
ユキメみたいに擬人化すればわかりやすい。
けれどこの子にそんなこと伝わらないだろう。話さないと、無理なんじゃないだろうか。
このキョウリュウの子供みたいな可愛らしい感じの見た目のポケモンは、とってもエスパータイプには見えない。
ユキメみたいに、如何にもゴーストタイプです、って、そういう訳でもないようだ。
わっかりにくい。ポケモンのことってだから苦手だ。もっと、本に書いてあることのように想像力を巡らせて自分で考えたっていい、みたいな自由度が欲しかった。
きゅう、きゅう。
ポケモンが何かを訴えるように、わたしに向かって鳴いている。
けれどわたしにそれはわからないし、わかろうとも、なかなか思えない。
「擬人化すればいいんじゃない?」
恥ずかしいけど呟くと、きゅう、きゅう。ポケモンはまた鳴く。
擬人化、出来ないのだろうか。
そんな心配をして、そうしたらこの子と一体どうやってコミュニケーションをとろう、ユキメやお母さんにバレたら面倒だというのに。色々な不安がわたしの中に生まれ出てくる。
黒い色のもやだ。
嘘だろう、なんて面倒だろう。
黒いもやもやがわたしの中で燻って、どうしよう、どうしよう。って、少し泣きたくなった。
ようし、もう、決める。決めた。
「いい、もう、きゅうでいいよ。君の名前を教えて」
そう言って、ちょっと、ちょっとだけ、意識をそのポケモンに向ける。そうして、その頭をそっと、触る。
ひんやりと心地のいい温度だ。
この子はきっと、氷タイプなんだろうな。そう思いながら触って、言葉を聞いた。
「アマルス、私の種族名はアマルス」
高い声だ。女の子、メスだろう。
少し淡々とした、澄んだ声は突然頭を触られているのに全く臆する様子もなく、じぃっとわたしを見つめている。
その目が何でか、凄く、綺麗で、凄く、惹かれた。
「どうして此処に、わたしの家の前にボールが置いていかれていたの?」
「私のトレーナーが、此処に私を落としていったから。気づかれなかったの」
やっぱり、淡々とした声で、アマルスというらしいポケモンは言う。
じっとわたしを見つめる澄んだ目が、わたしの奥底を見透かそうとしていて、けれどそれには届かないようで、そういう足りない、足りないけれど澄んだ目が、凄く、綺麗だと思った。
さっきまではきゅうきゅう、鳴き声が鬱陶しくてかなわないとばかり思っていたのに、不思議なこともあるものだと思う。
「だから、貴方にお願いがある
「私を、私のトレーナーの所まで、連れていって欲しいの」
アマルスは澄んだ目で、とんでもないことを、口にした。

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