04



 学年が上がり、アイドル科はなにやら不穏な動きを見せ始めた。――と言っても、普通科の私がそれとなんの関係があるのかと聞かれれば無縁も良いところだ。
 ゴキブリがどうだとか、友人が言っていた気がするけど、詳しいことは彼女たちも知らない様子だった。その中に、度々日々樹くんの話題が出てくるのが気になるところだけど、どんな扱いを受けても彼がそう簡単に折れるわけがないのだから余り心配はしていない。

 それでも、あれから時が経ち友人も鋭くなったのか、「なまえってこういう話題きらいなの?」と、不安そうに聞かれることが増えた。
そんなことないよ。と言うのは本心なのだけど、無意識に幼馴染という贔屓目で彼を見ているようだ。あれだけ彼との関わりをきらっておきながら、それは結局建前でしか無いのだと、自分に揚げ足を取られた気がしていやになる。だからって、前の関係に戻りたいわけでもなくて、それについて考えると、どうもむず痒くなる。

「……大丈夫、かな」

 なんとなく嫌な予感を感じながらも、その話題に首を突っ込むほど私は命知らずではなかった。
 きっと、日々樹くんが私の幼馴染でなければ、この件について何一つ興味を示していなかっただろう。私も難儀な性格だと、自分にため息を贈った。

  fineのライブが始まると慌ただしく教室を出て行く友人を見送り、私はリュックを背負うとその真逆の方向である門へと向かう。
  fineは確かにかっこいいし、目を惹くくらいの輝かしさがある。けれど、日々樹くんのことを考えると、純粋にライブを楽しむ気は湧いてこなかった。

 早く帰って、家でのんびりしよう。どうせ、友人達から忙しなく感想が送られてくるだろうから、それを気にしながら――

「あ、」

 帰路を歩いていた時、見慣れた後ろ姿にそんな声が零れる。

 肩に掛ける制服のブレザーに、よく落ちないなと感心するのはいつもの事。ポニーテールが風に靡くたび晒される頸が、なんだか見てはいけないもののような気がして、咄嗟に目を逸らす。

(別の道にすればよかった……)

 まだ小さくない日々樹くんの後ろ姿を追うように歩きながら、そんな後悔を噛み締めた。
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