06



 普通科が騒がしい。
 みんながサイリウムを持って、教室を飛び出していく。それはもう、一つの群れのように、みんな同じ方向へと向かっていくのだ。

「ねぇ、今日何かあるの?」

 疎外感を感じて、近くにいた友達に尋ねた。その質問に、彼女は驚いた表情を浮かべた。

「何言ってるの!今日は、fineと日々樹渉のドリフェスがあるんだよ!」

 興奮気味にそう話す彼女の目が、どこか虚ろな気がして、ゾクリと寒気がした。
 ……いや、それよりも。今、日々樹くんって、

「なまえも観に行く?」
「きっと観ないと後悔するよ!今回のドリフェスは歴史に残るものになるだろうから!」

 楽しみで仕方がないといったように、声のトーンを上げて話す友人。
 いつもなら迷わず断るその申し出も、なんとなく嫌な予感がしながらも、でも、どうしても気になって。

「行く」

 彼女達は、珍しいものを見たというように目を丸めたが、直ぐ嬉しそうに笑った。きっと、私の心境なんてこれっぽっちも考えやしないのだろう。


***



 それは私が想像していたよりも、酷い光景だった。

 観客が揃って口にする言葉は、五奇人への罵詈雑言と、これから舞台に立つ彼への心無い言葉ばかり。ドリフェスとは、もっと神聖なものをイメージしていたけど、どうやらそうではないらしい。
 そんな声に物怖じせず、日々樹くんが何かを話していたが、それさえも騒音で掻き消されて、私の座る席へは届かない。

 “早く引っ込め”

 ”さっさと処刑されろ”

 ”気持ち悪い”

 そんな言葉ばかりが鼓膜にこびりついて、彼が一番辛いはずなのに、私が真っ先に泣いてしまいそうになる。彼がこんな言葉に涙を見せることはない、それが分かっているからこそ、余計に辛かった。
 逃げたい、見たくない、此処に居たくない。そんな思いが鬩ぎ合い、耳を塞ぎかけた時だった。

 その状況を覆すかのように、彼がマイクを握った。
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