14.出張会議

「会議…なんてあるの?」
「頻繁にはありませんが、丁度定例会が」

定例会とはなんぞや、と首を傾げた私にこんのすけ君は説明してくれた。
時間遡行軍との戦闘記録など、主に審神者同士と情報交換の場ならしい。もっとも、出席する審神者の選定は政府が行い、更に出席するか否かは審神者の判断に任せられるという会議の言葉の意味を辞書で引きたくなる破綻ぶりだった。

「出席するか否かは確かに審神者様の一存ですが、貴女様はまだ新米なので」
「下っ端が出ないと後々面倒臭い、てこと?」
「物わかりがよろしくて大変嬉しいです」
「ドウモ」

審神者の縦社会を知った。

さらに、こんのすけ君は定例会への出席での決まりごとについても説明してくれた。
まず、他の審神者との接触は極力避けて顔を見られないよう面をつける必要がある。プライベートな会話は禁止で、会議中の私語などご法度ということだ。
時代の異なる審神者同士の接触を避けるためとか、そんな理由だそうで、言葉通り定例会以上の関係は持ってはいけない。
そして、必ず近侍を連れていかなければいけないらしい。これは、時間遡行軍の動きを警戒しているということで。

「要するに、近侍連れて会議に出席して聞かれたことに答えればいいってこと?」
「左様でございます」
「出る意味あるのかなぁ」
「これも仕事ですので」
「世知辛い」

仕事ですので、と念押しのように言われてしまえば仕方がない。お給金をもらっている以上、与えられた仕事はこなさなければいけないのだ。
定例会は明日の正午。会議場所までは普段皆が使う門を出た後自動的に時空の裂け目が開くということ。あちらからお迎えが来るらしく、未来のトンデモシステムには常々驚かされるばかりだった。

さて、行き方と時間がわかったところで、考えなければいけないのは近侍だ。

こんのすけ君曰く、時空の歪みを察知する遡行軍の動きを警戒しているということなので、室内戦を想定した短刀、脇差の方が勝手が良いのかな。

「となると薬研が練度としては心強いけど、何かあった時にまとめ役になるのも薬研だからなぁ」

問題児の多い我が本丸において、私の不在時に諸々を取りまとめるのは薬研の仕事となっていた。初期刀の蛍丸とタッグを組み、火花が散り掛ける事柄を見事に収束させている。見た目は幼い2人だが、内実は猛々しい一面が備わっていてなんとも頼もしい。

「となると、短刀で次に練度の高い子かな」

浮かび上がってきたのは、薬研と同じく肝っ玉の据わった漢らしい子の姿。


ーーー


「ごめんね、面倒な事頼んで」
「何言ってんだよ。大将からの頼みに面倒な事なんてあるかよ。それに初の近侍だから嬉しいんだぜ?」

ありがとうな、大将、と快活な笑みが眩しい。
嗚呼、こんな弟がいたらお姉ちゃん全力で甘やかして可愛がるな、と顔を緩めていたら、「何笑ってんだ?」と小首を傾げられた、いかんいかん。緩みを正して、何でもないよ?、と取り繕う。
近侍として選んだのは、短刀の中でも古参メンバー、厚藤四郎。薬研ほどではないが実戦経験豊富で且つ練度が高く打たれ強い。他の短刀達のお兄ちゃんのように振る舞う場面も度々見られる子だ。
近侍として側に置くのは大概、薬研か蛍丸だった。薬研がいなければ蛍丸、蛍丸がいなければ薬研。どちらもいなければ、あまり話したことのない刀剣や時々お茶を持ってきてくれる小夜などまちまちで。何分人数の多い刀剣全員を満遍なく近侍にすることはできない。
ぱっと思いついた厚の顔に善は急げと直ぐに頼みにいくと、目を丸くした彼は次には破顔一笑。満面の笑みを見せてくれた。

『任せろよ大将!』

(普段から近侍になってもらおうかな)

蛍丸が拗ねそうだと1人苦笑しながら厚と長い廊下を歩く。板張りの廊下に外光が注いでいて、絢爛な作りではないにしろどこか荘厳さを感じる空間。
政府の用意した異空間の集会所は本丸を大きくしたような場所だった。
着いてから、真っ黒なスーツ姿の案内人に連れられただ足を進めた。年季の入った建築物とは縁のない生活を送っていたせいか、広く手入れの行き届いた日本家屋に視線が右へ左へ散らばる。
捨てられた犬猫かと思われそうだったけど、そういえば彼らに私の顔は見えていないんだった。

「大将、それ前見えるのか?」

ひょこりと眼前からこちらを覗き込んだ厚は不思議そうに小首を傾げる。目を瞬かせる仕草がなんとも愛らしく思わず緩んだ口元で、大丈夫だよ、と返した。
現在、厚に見えている私は何か文様が書かれた紙切れで顔を覆い隠している。薄い和紙とはいえ透過するものではないので、側から見たら足元程度しか見えない状況。当然、本当にそれだけしか見えないのなら現代っ子の私など足を取られてすってんころりんになるのだけれど、

「便利なものが未来にはあるんだね」

この紙、私から見るとなんともないのだ。つまり、紙を透過して眼前の景色が瞳に映る。そこには何もないと言わんばかりだ。
マジックミラーのようなものだとこんのすけ君は言っていた。あちらからは見えず、こちらからは見える。
審神者の面の割れあいを防ぐために開発された代物だということで、政府もこんなところに予算を投入する余裕はあるんだと半笑いになった。

人の気配が不自然なほど感じられない廊下を進む。微かに過ぎったり、消えたり、まるで座敷童のように湧いては消えるのは刀剣の気配なのか。

「こちらでお待ち下さい」

日本家屋に似合わない金箔が散りばめられた壮麗な扉がお出迎えした先に、会議室となる空間が見えた。

「すっげー…」
「だねぇ」

嘆息し阿呆のようにぽかんと、顎が外れたのかと思うほど開いてしまった口に厚は「面つけてても分かるな」と私を見て笑った。失礼な。
それでも、やっぱり凄いものは凄い。
和洋折衷。日本家屋の中に、まるで明治大正期のどこぞやの洋館、迎賓館を彷彿させる部屋が広がっているんだから呆気にとられるのは仕方のないことだと思う。
爛々と目を輝かせても誰に見られているわけでもないのだ。なら、顔芸くらい良いだろう。
開き直って足を進めると、上座の方に数人の人が見えた。

「あれ…」
「他の審神者じゃないか。皆、面をつけてるし」
「そうみたい」

あれが審神者。私以外の審神者。
服装は皆大差なかった。袴、巫女服、各々好きな服を着て席に着いていた。
ただ、不思議なのは、

(普通に会話しているんですけど)

そう、会話をしている。私は極力控えるように釘を刺された行為を普通にやってのけている。
あれ、どうして?そんな疑問を口に出す前に「皆さん」と高い声が部屋に響いた。

「間も無く会議を始めさせて頂きます、御着席下さい」

こんのすけ君の同僚のような狐の催促を皮切りに、扉から次々と審神者が入って来た。皆、様々な面をつけていて髪型も違って、纏う服も色も違う。近侍の中には、うちにいる刀剣と同じ子もいるし全くみたことのない子もいた。

(なんだか…)

ぞわり。胸の内に湧き上がったのは何なのだろうか。
どこかこの雰囲気が異質で、まるで神隠しにあったような心持ちにぶるりと身震いしながら空いている席に着いた。