5.不穏な空気
食事会はつつがなく終わった。
刀剣達総出の食事会。4人分のメインを作ってたら少し遅れたが、そのおかげで厚と国俊も間に合った。
後片付けは薬研が短刀達を指揮して率先してやってくれている。
脇差達と新入りメンバーなどは今頃晩酌だろうか。
本丸の自室。
障子を開ければ月明かりが部屋を照らす。この世界にも昼と夜の感覚はあるらしい。
ふと、目の前の刀帳に目を落とす。
短刀
薬研藤四郎、厚藤四郎、乱藤四郎、博多藤四郎、愛染国俊、小夜左文字、今剣、五虎退
脇差
にっかり青江、骨喰藤四郎、鯰尾藤四郎、堀川国広
打刀
大倶利伽羅、加州清光、陸奥守吉行
太刀
燭台切光忠
大太刀
蛍丸
物の見事に短刀パラダイス。
太刀と大太刀が欲しいのは否めない。
できれば癖のない子。
はぁ、とため息をついた。
ごろんと寝転がり刀帳を脇にどけ、明るく光る月を再び見上げる。
中々に本丸運営は難しい。
刀剣男士。初めはあまり意識してなかった、付喪神といってもまぁ物みたいなものだと。
だけれど付き合うに連れてわかったのは彼らが生きているということ。
しかし同時に、自身の刀を振るうその姿は神々しく正に神でもあること。
彼らはここで生きることを目的としてるわけではない。戦場で敵を倒す、その一点がきっと刀としての使命なのだろう。
年も取らない時間の感覚もおぼろげなここでの、彼らの存在意義はそこなのだ。
ふと、昼間の小夜との会話を思い出す。
小夜もそこに変わりはない。存在意義は切ることで満たされる。
でもあれは、
(使命じゃなくて呪いだ)
呪いを断ち切るために存在意義を奪う。
どちらも小夜にとって毒にしかならない。
純粋に戦闘を楽しむ、厚と国俊はまだいい。ストッパーをつければ最悪破壊は免れる。
自ら傷を負うことを厭わない刀剣を合戦上に出すつもりはない。
小夜にとって、厚や国俊と自分の、合戦上へ赴く姿勢は変わらないんだろう。
だけれど違う。
傷を負うことを厭わないのは、傷つくために合戦上へ赴いているようなものだ。
自分を罰するように、他者と不足する関わりを傷で埋めるように。
その先にあるのは破壊だけだ。
私の見立てでは、小夜だけじゃない。
今日来た大倶利伽羅も少し危うい。他者との関わりを避ける子は1番に死に近づく。
ただ、小夜の場合、危うさの質が違うと思う。
今は平穏だ。敵もさほど強くない。中傷から軽傷程度で何とかなっている。いや、何とかしないといけない。
敵が強くなることは目に見えているのに今から重症になることを当たり前と思わせちゃだめだ。
傷を負うことを厭わない。
破壊すら恐れない刀剣をここに置くわけにはいかない。
(それでも、やっぱり難しいなぁ)
ゴロンと1回転。再び目に留まったのは刀帳。
他にもまだたくさん刀はあるらしい。
きっと、いろんな性格の刀がいる。もしかしたら、小夜以上の子がいるかも。
(ここで生きることが目的ではない分、外に出て狩ることは性で、使命なんだけれど)
「死に場所をここに求めるのだけは、嫌だなぁ」
呪いがいつか、使命になる日が来るんだろうか。
(考えたって仕方ないか)
たかが2週間だ。
私がここに来てまだまだ。これから刀剣も増やしていかないといけない。
けど、いつまで続くのだろう。
「大将」
月明かりに照らされて、部屋の前に現れたのは薬研だった。
相変わらず、短刀と思えない雰囲気をまとう子だ。
「どうしたの?」
寝転んでいた体を起こして目線を遣ると、薬研は浮かない顔で隣に座った。
「少し、話したいことがある」