6.諦めと選択

「光忠が部隊長で、清光、陸奥、厚、国俊、青江。刀装は金を全員つけて。1人でも中傷になれば帰還」
「了解したよ」
「次は大倶利伽羅が部隊長。博多君、乱ちゃん、国広、鯰尾、骨喰連れて行って。くれぐれも深追いしないように」
「俺は馴れ合うつもりは」
「大倶利伽羅が無茶したら皆危なくなるからそのつもりで」
「………」
「今剣と五虎退は畑仕事、蛍丸と薬研は手合わせで、」

一気にそこまで皆に伝えて、視線を部隊編成画面から前にやる。
正確には新入り2人に。

「同田貫と鶴丸は馬当番」
「は?なんで俺が」
「えー馬かー。面白さにかけるなー」
「君ら今1番下っ端なの。少し強くなるまではあまり出せないよ」

同田貫は遠征時に、鶴丸は、小夜が鍛刀に興味を示したため試しにやったら大当たり。

4振り増えた更に2週間後、更に2振り増えた。

相変わらずスローペースな本丸だけれど、鶴丸が来たのがかなり意外だった。
聞くところによると割と珍しいらしい。

レアと聞いて小夜を褒めれば「別に」とそっぽ向かれてしまった。

小夜と内勤業務を始めて2週間。
私が本丸に来て1ヶ月。
相変わらずここと自分の家を行き来する毎日だ。
最近わかったことといえば、こちらの時間の進み方はあちらとだいぶ違う。
正確には、こちらで1日経ってもあちらでは数分ということもあるし逆に普通どおりなこともある。

『審神者様の生活に合わせて時間の進みは調整されています』

こんのすけ君はわけもないという風にそう教えてくれた。時の政府とやらはそんだけの力持ってるのに歴史修正主義者に手を焼いているのか。

ご飯作りは遠征出陣に行かない子たちを集めてやっている。
小夜が中心ではあるけれど、なかなかに皆手際よい。

そんなこんなで、毎日出陣と遠征を繰り返し、資材集めつつ敵を倒している。
協調性のない大倶利伽羅は無茶しないように部隊長にすることが多い。以外と面倒見はいいようで、短刀脇差との相性は良さそうだ。

「出発は1時間後。それまでは皆準備したり身体を休めてて」

そう言ってはい解散と手をたたくと各々散っていった。

やれめんどくさー、とか、やるぞー!、とか様々な声が聞こえるなか、ちらりと薬研と目があった。

あの日…

ーーーーーーーー

「大将は、小夜を戦に連れて行かないつもりかい?」

薬研から放たれた言葉はかなりストレートなものだった。
古参の蛍丸、薬研は気づいてると思ってた。そしていつか、それについて問うてくるとも思ってたけれど意外と早かったな。

押し黙る私に、薬研は更に聞いてくる。

「この本丸はまだ日は浅いが、小夜もここじゃ古参な方だ。けれど大将は一向に小夜を戦場に出さない。でもそれは、」
「刀剣にとって死んでると同じこと?」

そう言えば、今度は薬研が押し黙る。

分かってる。この子達の使命とも言えるのだろう振るうことは。

「大将、小夜も俺たちと同じだ。刀は振るわれなければその存在価値が薄れていく。それは短刀だろうが大太刀だろうが変わらない。だから」
「小夜を今、出陣させるわけにはいきません」

ピシャリと薬研の言葉を私ははねのけた。
あーあ、嫌なのにな。こういうの。

「今の小夜は傷つくために戦場に出ようとしてる。そんな子を出すわけにはいかない」
「大なり小なり俺たちは負傷する。大将もわかってるだろ?」
「傷つくことを前提に部隊編成してるわけじゃないよ。最小限の負傷で済むようにしてる。それが出来ないのなら出陣させません」
「それでも!俺たちは刀だ!」

私の言葉にかぶせるように、薬研は叫んだ。拳を震わせて顔を歪めて。

こんな顔させたいわけじゃない。
こんなこと言わせたいんじゃない。

「俺たちを大切にしてくれてるのは分かるんだ大将。全員を強くしてくれてるのもわかる」

縋るような、泣きそうなそんな顔を向けられたら揺らぐじゃないか。

小夜を行かせないと決めたのは私の自己満足に過ぎない。
破壊の危険がある刀剣は行かせない。
その姿勢が皆に伝染してはいけない。

私のその考えは至って人間的だ。

けれど彼は、彼らは、

「俺たちは大将と違う。人じゃない。刀なんだ。」

そう、人に見えても彼らは刀だ。
彼らは生きている、でも人としてじゃない、刀として生きているんだ。

「ここで生きて刀として死ぬくらいなら、戦場で散ることを選ぶのが俺たちなんだよ大将」

薬研のその言葉で理解した。
そこにどんな思いがあろうと、
それが使命であろうが呪いであろうがそんなことは些細なことだったんだ。

小夜にここにいるよう命令した時、小夜はそれに従った。
でもそれは小夜の気持ちを無視した行動。

これは、人である私の判断だ。
そして、この本丸を運営する大将としての判断。

私は、この見掛け倒しの『平穏』を保つために、小夜の刀としての本分を奪い、飼い殺している。


(分かってる、分かってるよ薬研)


人と刀の絶対的に埋まらない存在価値の差も。
大将として、そして自分自身の安寧のためにあの子を犠牲にしてることも。


「頼むから、小夜を行かせてやってくれ。」


けれど私は絞り出されたその言葉に頷くことはなかった。

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相変わらず、小夜には内勤業務をこなしてもらっている。
最近は皆の頼れる兄貴分?みたいな感じでせっせと、世話をしてくれている。

これで良い、とは正直思わない。

薬研と合っていた目をさり気なく逸らす。
そのまま自室に戻り、あらためて部隊編成を確認した。

第1部隊の隊長は面倒見トップクラスの光忠。両脇を固めるように陸奥と清光、斥候として厚と国俊、中間の青江。

薬研を見るたびにあの日の記憶が反芻される。
恐らく蛍丸も思うことは同じだろう。

古参2人にそう思われている。このあまり精神衛生上良くない関係を打破するには、

「一度だけ」

部隊編成の、国俊と小夜をくるりと入れ替えた。

後ろめたいこの気持ちを埋めるように。

一応、厚には2人行動のこと。光忠には手綱を持っておくように伝えよう。


「ごめんね、小夜」