「お前、いい加減観念しろって」
「嫌です」
「こらっ、無駄に関節決めようとすんな!」
「嫌ですっ!」
「暴れんな!」
「離れてください!」

かれこれ数分このやりとりをしている。神永は暴れる千歳を押さえつけようと必死だがそこは普通の女性と違う彼女だ。簡単には大人しくしてくれない。

「駄々をこねるなっ」
「何で神永さんなんですか!」
「仕方ないだろっ!なら誰ならいいんだよ!」

声を荒げた神永に千歳は目を見開き言葉を詰まらせる。わなわなと体を震わせたあとに上ずった声で叫んだ。

「神永さんだけは嫌ですっ!」



D機関の人間には女を落とす技術も必要とされる。それは単に近づいてリップサービスで落とすこともあれば、体の関係を重ねることも、そして恋人や夫婦の関係になることさえある。しかし、彼らはそこに愛情というものを見出してはいない。
そんな彼らと同じ訓練、経験を積んできた千歳が唯一彼らに劣る訓練が、そのハニートラップといえるものだった。

劣るどころではない、彼女はその経験すらないのだ。幼少期から積み重ねてきた訓練と対人コミュニケーションは彼らと遜色ない。男の情愛に疎いわけでもない。しかし肝心の経験という意味では皆無。
有り体に言えば、処女なのだ。

体を買う、売ることに対しての抵抗が無いわけではないのだろうが、その機会を作ってこなかったところを見るとやはり多少は思うところがあるのだろう。そして結城中佐も彼女にそれを強要はしなかった。
しかし、それでよしというわけにはいかないのがこの場所だ。


「相手はお前が決めろ」


結城中佐の執務室でそう言い放たれた千歳は硬直した。遂にこの訓練が来たかと頭を抱えたくなる。誰でもいいならいっそ、

「なら」
「あいつらの中から選べ」

千歳はその言葉を聞いて落胆する。自らの処女性を重んじているつもりはなかったが、やはり最初ならせめてこの人、という思いがなかったわけではない。
そもそも、彼じゃないのならあのメンバーの誰であってもいいのだ。

「3日猶予をやる。その間にどうにかしろ」
「…分かりました」

珍しく不服そうな声で返すその様子に、結城中佐は呆れたように笑った。



「…そういうわけなので、どうしましょう」

さて、どうしようかと千歳は悩んだ。ハニートラップを仕掛けて落ちるような彼らではない。いっそ真正面から自分を抱けと頼む方が清々しい。
ただ、三好や波多野など、頼めば面倒臭い反応が返ってきそうな面々はお断りだ。愛のあるそれじゃないなら機械的に淡々と終わらせてくれる相手が無難だ。

3日の猶予が出され、初日と2日目までは1人で悩んだ。そしてあと1日となった今日。
考えた結果、千歳が相談したのが、

「それは俺に頼んでる、てことでいい?」

年長者、そして女性の扱いに長けている甘利だった。

「手早く済ませてくれそうなので」
「それなら福本辺りが一番だと思うけど」
「福本さん、意外と優しそうだから嫌なんです」
「千歳ちゃんは俺を何だと思ってるの?」
「甘利さんはいろんな方を抱いてそうなので頼みやすくて」

悪びれる様子もなくしれっとそう言う千歳に甘利は苦笑する。しかしながら、事実なので言い返すことはしなかった。
なんだかなぁ、と複雑な心境を覚える甘利に、千歳は、それに、と付け加えた。

「兄貴分的な感じだからです」

千歳のその言葉に甘利は目を見開いた。そしておかしそうに喉を鳴らして笑い出す。

「甘利さん?」
「いや、悪い悪い。ほんとそんな理由で初めてを俺に渡しちゃうなんてさ」
「……仕方ないでしょう」

いつもは表情が変わらないその顔に明らかな不服の様子が見えてさらに甘利は苦笑した。

「わかったよ。今日の夜、部屋で待っときな」

ぽんぽんとあやすように甘利は千歳の頭を撫でる。千歳はため息をつくと甘利に向き直り宜しくお願い致しますと頭を下げた。

「さっさと終わらせてもらえればいいので」

つれないなぁ、と肩をすくめる甘利を尻目に彼女は講義資料を取りにその場を離れた。



そして、夜。現在に至る。

「俺だけはって他の奴らでも嫌なんだろうがっ」
「一番年上のくせに節操なしに女性に話しかけてトラブルになりかけるような人、絶対に嫌です!」
「お、ま、その情報どこから…」

甘利に抱かれる予定だった千歳の部屋に来たのは、神永だった。
寝巻きに着替えいつでもさぁどうぞという格好で待っていた部屋に神永が入ってきたものだから、千歳は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

神永曰く、甘利は尾行の訓練が入ったため抜けられなかったと。期限は今日まで、甘利は他のメンバーに協力を呼び掛け今夜のゲームで勝った神永がその役を担うことになったと。

訓練ならばしょうがない、しかしよりにもよって。
千歳は苦虫を噛み潰したような顔をした。せめて福本や実井、いやいっそのこと佐久間中尉でもいい。
甘利のような落ち着きが無い神永に抱かれるなどごめんだと、千歳は思わず近くにあった枕を思いっきり投げつけた。
当然そんなものに当たるほど彼も間抜けでは無い。しかし、距離を詰めた彼女が鳩尾に一発入れようとしたものなら話は別だ。

「まっ、ちょ」

普段なら考えられないほど短絡的で、感情的な彼女の行動に神永も防戦一方になる。一撃で無理なら睡眠剤で、と距離をとった彼女がデスクにあるだろうそれを取りに行こうとした隙を見て、神永は彼女の腕を掴むとベッドへ放り投げた。

「っ!」
「じゃじゃ馬かよっ!」

起き上がる前にその体を組み敷けば、神永の腕を掴んであらぬ方向に曲げようとしたりと彼女ならではの戦法が駆使される。
しかし、伊達に同じ訓練をしてきたわけでは無い。しかも神永は男性だ。両腕を掴んでベットに縫い付ければ悔しそうに神永を睨みつけた。

「そんなに俺が嫌なわけ?」
「………」
「そう言う相手に抱かれる可能性もあるだろ?」
「それは、」
「予行演習だと思えばいいじゃん」

呆れたように頭をかく神永に千歳は押し黙った。感情的になりすぎたと自分の行いに頭を抱える。神永の言う通りだ。初めてだからとどうかしていた。
ひとつ千歳は息を吐くと神永にぶっきらぼうにつぶやいた。

「さっさと済ませて下さい」
「へいへい」

わかってますよ、と神永は眉尻を下げて苦笑すると千歳の寝巻きに手をかけた。


ーーーーー


「ふっ、あ」
「トロトロ、初めてとは思えないな」
「あ、神永さ、そこ」

霰もない自分の姿に千歳は羞恥心で死にそうだと頭を抱えた。
神永の愛撫は驚くほど上手だった。伊達にプレイボーイと言われてはいない。初めての自分に合わせるようにゆっくりと行為を進めていった。

ペロリと神永に内太ももを舐められぴくりと体が震える。彼はその様子にニヤリと笑みを浮かべると、そのまま彼女の秘部に舌を這わせた。
抗いようもない快感に千歳の体は面白いくらいに跳ねた。

「やっ、そこ、だめ」
「ん、気持ちいいだろ?」
「っ、喋っちゃっ、」

吹きかかる息さえ感じてしまう。ふるふると首を振る彼女に神永は嗜虐心をそそられる。いつもは見ない女の顔だ。
神永は上にある秘豆と口に含むと舌で愛撫した。途端に千歳の体が硬直する。

「やっ、舐めたらっ、やだっ」

性感帯を直接舐められ甘噛みされ、彼女はすぐに果てた。そんな彼女を他所に神永は愛撫をやめない。痙攣する体が休む間も無く快感を高められ、千歳は目を見開き神永に懇願した。

「ひっ、やっ、神永さっん!」
「んー?」
「おねがっ、だめっ、なんかへんっなの、来ちゃうっ」

やだやだと神永から離れようにも、がっちり足を固定されていて逃げようがない。

「変なのってなんのこと」
「知らなっ、やっ、やめっ」

今度は指先で再び秘部と豆を弄ばれ、千歳は体を震わせた。

「っ、〜〜!」

声もなく千歳が神永の腕をぎゅっとした同時に、秘部から水が噴き出す。その光景を見て神永は満足そうに彼女の額に口付けた。

「初めてで随分感じてんのな」
「かみなが、さん」

トロンとした表情で神永を見上げる千歳に彼の熱も疼く。無意識だろうが随分と男を誘惑する表情をするもんだと感心した。

(役得だな)

舌舐めずりをしてそんな彼女に口付ければ、素直に舌を絡ませてくる。気を良くした神永は彼女の柔らかい髪を梳きながら恋人にするような口づけを捧げた。
互いの舌が絡み合い、卑猥な水音が耳に響く。暫くして離れれば、透明な糸が2人をつないだ。

「多少痛いだろうけど無理なら言えよ」

ベルトを外し、自身の熱を取り出した神永は彼女の頭を撫でてそう言う。
本当にこの人に貰われるのだと、千歳はどこか他人事のようにその光景を眺めていた。

ぐっと、秘部にそれを充てがわれ中へと侵入してくる。下腹部の痛みに思わず千歳は神永の背に回していた腕に力を込めた。

「っ、」
「わりっ、大丈夫か」
「平気、です」

こんなことくらいで止めてられないと涙目になりつつも千歳は、続けろと神永に視線で訴える。
明らかに無理をしているその様子に神永は一瞬躊躇したがこのまま止めれば彼女の自負心にも傷がつくだろう。

ゆるゆると押し進めていくにつれて眉をひそめて千歳は痛みに耐える。口には出してはいないが、相当きついのか目を瞑って痛みに耐えている様子を見ることができた。

(ほんと無理するっつーか)

好きでもない男に命令だからと抱かれ、気持ち良くもない、痛みだけの行為に耐えるその姿は1人の女性としてはあまりにも痛々しいものだ。

「千歳」

優しくその名を呼べば、千歳は目を開いて神永を見る。眉尻を下げて目尻に涙を浮かべるその姿はD機関の関係者ではなくただの女の子そのもので。

「神永さ、んっ」

深く、神永は彼女にキスをした。舌を絡ませ啄ばみ後頭部を抑えて逃さないように。神永の熱が奥へ奥へと入る痛みがありつつもその息もできないキスに千歳は酸欠状態になる。

「んっ、ぅ」

抵抗することはおろか、その愛撫を享受することすらままならないほど全てを捧げているような感覚に麻痺する。
力が抜けていった千歳に神永はゆるゆると入れていた熱を一気にねじ込んだ。
一気に貫かれた痛みに千歳は思わず彼の背中に爪を立てる。

「いっ、」
「あ、ごめんなさいっ!」
「や、いいから」

慌てて謝る彼女に、神永は優しく笑いかけその髪を梳く。労わるようなその行為に千歳は安堵するように息を吐いた。

「痛かったろ?」
「…多少は、でも」
「?」

千歳は神永の首に腕を回して微笑んだ。

「優しくしてくれてありがとうございます」

はにかむその顔に、神永は思わず目を見張る。本当に何の裏もなしにこの顔をしているかと。仮に計算した顔なら相当な策士だ。

「可愛いこと言ってくれるじゃん」

そうニヤリと笑えば、ばつが悪そうに千歳は目を反らした。

暫く動かないまま千歳の身体が慣れるのを待っていた神永だったが、ゆるりと自身の熱を動かす。ゆっくりとひき奥へと入れる。

「ん、」

何度かそれを繰り返していると、徐々に千歳から甘い声が漏れ始めた。
初体験が痛いというのは入れるその瞬間の話だ。身体を慣らし、焦らず事を進めれば身体は自然と受け入れる。

「あ、ん、神永さんっ」
「ん、ここな?」
「やっ」

ぐりぐりと千歳が反応したところに自身のそれを押し付ければ、彼女は神永の背に回している手に力を込める。先ほどとは違い快感に震える身体を神永も優しく抱きしめた。

「あっん、やっ、っ」

緩やかに出し入れしていた動きを早めていき奥へと打ち付けていけば、千歳から聞こえる声が段々霰もないものになっていく。抑えようがない快感に千歳は神永に抱きついた。

「神永さっ、なんかっ、へん」
「ん、何がっ?」
「わからないっ、です、ひ、あっ!」

気持ち良いのだろう。膣内を収縮させて神永のそれを締め付ける千歳に神永は余裕のない表情を浮かべた。
煽っているわけではない、生娘の反応そのもので、神永も抱いた経験がないわけではないのにその姿にひどく興奮した。

「神永さ、ん」
「っ、どうした?」
「っ、気持ち、いいです、か?」

眉尻を下げてそう聞く彼女に神永は思わず目を見開いた。

(本当にこの子は)

「あぁ、最高っ」

グリグリと奥を探れば甘い声が千歳から漏れる。
相手を気持ち良くさせる技術がハニートラップでは必要だ。不安そうな瞳にはきちんとそれができているか問いかけるような意味合いが含まれていたのだろう。

(こんな顔してんのにな)

自分のことでいっぱいいっぱいだろうに、と神永は苦笑した。どこまでも彼女の頭の片隅にはかの魔王の存在がある。

「千歳」

ぴたりと神永は動きを止め彼女の名を呼んだ。そんな神永を不思議そうに見つめた千歳に神永は口付けた。深く、舌を絡ませ愛撫し、優しくその髪を梳く。

「ん、神永さん」

どうしたんだと、彼を見る彼女を抱きしめて耳元で囁く。

「余計なこと考えんな」
「!」
「せめて今くらい、普通に気持ち良くなっとけ。気ィ使う必要ねぇから」

そう言って彼女から離れて頭を撫でれば、千歳は意外そうな顔で彼を見つめていた。

「っ、ふふ」

そして破顔させておかしそうに笑う。今度は逆に目を瞬かせた神永に、千歳はすみません、と笑みを向けた。

「神永さんも、同じなんだな、て」
「同じ?」
「やっぱり神永さんも頼り甲斐があるお兄さんですね」

穏やかに笑う彼女の表情とその言葉に神永は息を飲んだ。本当に綺麗に笑う。
虚構で成り立つ自分には勿体無いくらいの笑顔だと神永は苦笑した。
神永はそんな彼女に再び快感を与え、その肢体を抱きすくめる。

「ん、ふぁ、かみながさ、んっ」

千歳は身体を密着させ神永に全てを委ねるように、その心遣いに応えるように彼を抱きしめた。
結合部から響く水音と互いの荒い息が熱の高まりを助長させる。

「あ、もうっ」

千歳が神永に限界が近いことを訴えた。神永自身もそろそろだと感じる。

「いいからっ、いきなっ」
「ひっ、あ、んっ!かみなが、さんっ」
「っ、」

何度がピストン運動を繰り返すると、千歳の膣内が収縮して果てたことを告げた。
神永も出し入れを繰り返し、熱が吐き出される直前に抜き彼女の腹に白濁を出して果てた。
互いに息を整える。
神永はぐったりとしている彼女の頬に手を添えた。

「神永さん…?」

熱のこもった千歳の瞳をじっと神永は見つめる。

(いつか、この子も)

そう考えて首を振る。
それを決めるのは彼であり、そして自分には関係のないことだ。

「なんでもない」

それでも、できることならこの瞳が汚れないようと思うくらいなら問題ないだろう。
願わくばーーー


ーーーーーーーー


その身体に祝福を
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