仕込まれるのはこれで2回目だ。
女という性質上避けようがない特徴。凹凸の凹は紛れもなく自身に備わっている機能でそれは、凸を持つ者達には決してない自分だけのもの。即ち、
(結城さんにも、ない)
勿論彼のことだ、男性に抱かれる経験がないわけではないだろう。酷薄の相貌に仮面を被せ、色に濡れた瞳と妖艶な口元を創り相手を惑わす。
そうして己が身を差し出したことが彼にはある、そう考えると心の臓は熱くなった。自分が見たことのない、結城、の姿。
「何をしている」
粗末な簡易ベッドの上に腰掛けた結城が冷眸を向けた。射竦められる眼光に身震いしながらも、千歳はその下肢に手を伸ばす。
そうだ、大丈夫だ。知識として蓄えある。それを脳から伝達して実践すればいいだけだ。
目の前に現れた彼の竿をゆっくりと手に取る。叩き込んだ知識で悦ばせる行為に没頭したら良いのだ。
緩慢な手付きで扱き、亀頭を口に含めば血潮が巡る感触が伝わる。
「ん、ふ」
丹念に舐め上げたそれが隆起する。己が手で彼の竿に熱がこもる瞬間を見る事ができるという事実に千歳の胸は踊った。他の男ではない、魔王だからこそ今のこの現実がひどく鮮やかに映る。
眉ひとつ動かさず、ただの生理現象として千歳の行為を眺めている魔王の双眸にゾクリと背筋に悪寒が走った。
ふと千歳は思案する。
彼が溺れたことなどあったのだろうか。
今の自分は、短慮で頭の足りない娘だ。憧憬する魔王の前で心踊る姿は彼の目にどう映っているだろう。
滑稽だろうか、浅はかだろうか。
しかし、漆黒を纏う魔王が、制御できない熱と悦に呑まれて己が身を弄ばれる経験。任務で『演じる』以外でそんなことを経験したことはあるのだろうか。
(見たい…)
知りたいという欲求に囚われる。彼の顔をもっと暴きたい曝け出したい。不遜な考えに首を振りながら千歳の視線には徐々に熱が篭り始めていた。
走らせた視線に目敏く気づいた結城が千歳を見下ろす。冷笑。合わさった視線。
己が中に小さく燃え上がった炎に千歳は彼に挑戦的な視線を携えた。
「もう終わりか」
くつくつと喉を鳴らす魔王に噛み付く。
「いいえ?」
言うや否や、千歳は隆起した逸物を喉奥まで入れ込んだ。せり上がった嗚咽は堪え、涙を浮かべながらも根元を扱く。舌で先を弄び、先走りの液を絡め取った。水音が響きツンと鼻を抜ける独特の、男の匂い。慣れない空間にそれでも食らいつく。
千歳は必死だった。細やかな好奇心は醜い野心へと変貌した。この魔王の、性、をこの目で見たい。
「っ、は」
その口から吐息が漏れた。それは確かに彼の声音。
魔王の口から漏れたその細やかな嬌声に胸を高鳴らせたのも束の間、彼の右手が千歳の頭部を掴んだ。
「ンッ!」
喉奥まで差し込まれた熱。胃液が逆流しそうになるのを堪え、されるがままに竿を味わっていく。
此方が握る主導権を無理矢理奪われ使われる感覚に千歳は、してやったりと内心ほくそ笑んでいた。
(結城さんが、耐えている)
短く荒い息遣いが教えてくれる彼の相貌。乱雑に使われる口腔のおかげで見上げることは叶わないが、見えない表情を千歳は夢想した。
自分を使い、マスタベーションをする魔王はどのような一面を見せているのだろう。
そう考えるだけで高揚する。
(もっと、見たい)
出し入れする度に、粘液が擦れる音が響き熱情が蓄積されていく。結城の自慰行為に、千歳はまるで自分が愛撫されているかのような錯覚に陥っていった。押し潰されそうな程、喉奥に差し込まれる熱。乱雑に引かれ押し込まれるという屈辱的な状況が最上の悦びを与えているのだから、今の己はひどく浅ましい。
それでも、結城の吐息と僅かな嬌声、慰みに己を使う行為は、千歳にとって得難い収穫だった。
「っ、ンン!」
一等隆起し膨れ上がった熱棒が弾けた。その瞬間、厭らしくも奥まで差し込まれた竿の先から多量の液体が注ぎ込まれる。息苦しさを感じながら、千歳の身体は硬直したまま彼の子種を受け入れた。
(はしたない)
注ぎ込まれる状況にすら熱を昂めるなど、と千歳は自嘲する。
しかしその、はしたなさ、すら今この時は瑣末な問題だった。
どうせなら、最後まで昂らせてしまおうとその竿を更に舐め取ろうとした瞬間、
「ひゃ、っ」
勢いよく後ろ髪を引っ張られ、咥内から熱が逃げ出した。刹那、まだ奥底にあった白濁が千歳の顔に吹きかけられた。
思わぬことに反射的に目を瞑ってしまう。
しかし、それは一瞬でも視界から彼が消え去ることだった。
「馬鹿か、お前は」
ひどく底冷えする声音。地を這うような低く身震いするその声が千歳を絡め取った。
え、と間抜けな声と目を見開くのは同時で、くるりと回転した身体は鮮やかに寝台へと縫い付けられた。
「結城、さん…」
震えた唇に、魔王がニヒルに口元を歪めた。
ーーしまった。
それだけで悟ってしまう。
見上げる相貌はひどく扇情的なのに、携えた冷眼は先程までの彼が、演じていた、ことを如実に表していた。
「千歳、言ってみろ」
温度のない左手が千歳の股を弄る。冷感が身体の芯まで伝わり、今の現実を突きつけていた。
「何を考えて俺のものを咥えていた」
理解している癖に、敢えて言わせるその厭らしさ。全てお見通しだったのだ、この魔王は。
理解した上で、態と嬌声を出し、吐息を聞かせ、喉奥まで咥えさせて千歳を使っていた。まるで、余裕のない1人の男を演じるように激しく彼女の口腔を犯し、敢えて彼女が彼を見上げないように仕向けた。
彼の痴態を夢想して浅ましくも己が昂ぶるよう、誘導していた。
掌の上で転がされていたと理解するまで時間は掛からなかった。千歳は呆けた顔に屈辱の色を浮かべたが、直ぐにその色も塗り替えられた。
「ひっ、…アッ!」
ぐぷりと温度のない指が、一本、二本と入ってくる。
「俺のものはそんなに良かったのか」
「やっ、そこ、だめ」
「咥えるだけでこの様か」
「っ、アッ…ひっ、ンッ!」
既に蜜の溢れた其処は、冷たい指を受け入れただけではない。その指を溶かしそうな程熱く締め付けた。
痴態を見透かされていた、失態を猛省する間も無く真逆の立場で攻め立てられる。
感覚のない筈の冷たい指先が、女の悦びを感じるその部分を引っ掻き擦り、暴いていく。奥底から這い上がる悦楽を振り切る術は今の千歳にはなかった。
「ゆう、きさ…アッ、やっ、ァア!!」
仰け反った身体。大きく脈打ち痙攣する肢体をコントロール出来ず、千歳は頂の感覚に支配された。
締め付けたその指すら快感だ。パクパクと膣壁はその指を愛おしく食む。
「随分な達し様だな」
耳元で囁かれた声までも催淫剤の様に千歳を惑わした。
しかし、漸く強張りが解け、弛緩した肢体を休めることすら許されない。
脚を上げられ、ぴたりと身体の中心に当てられた熱に千歳は目を見開いた。
「やっ、まって下さっ」
「囚われるな、そう言ったはずだ」
「ひっ、…ァ、っあ!!」
差し込まれた竿が一気に奥へと入って行く。ぴたりと彼の大きさに変えられる己の中に悦が襲ってきた。脳に届くそれは比べようもない快感で、千歳の痴態を嘲笑うかのように結城は千歳の中を蹂躙した。
漆黒を纏い闇と同化する彼を掴みたくて、人である部分が一番曝け出される、性、を捉えたいと思った。そんな己の浅慮さなど彼は見越していたとはなんと滑稽なことか。
「アッ、やっ、やだっ」
奥を抉る熱棒が一点を突いた。見開いた目が魔王の視線に捉えられる。ニヒルに口元を歪め、結城はその一点を抉り始めた。深く、浅く、角度を変えて何度も何度も悦を叩き込む。
制止の言葉が喉奥に飲み込まれ、代わりに出てきた嬌声を抑えようと千歳は必死に口元に手を当てた。
「ンッ、ふっ、…あっ」
「俺を暴くんじゃなかったのか」
「っ!、やっ、…ぁ、ア!」
身体の奥から湧き上がる悦に抗う術はない。千歳は抑えていた声を諦め、真白のシーツに皺を作った。
収縮した内壁が結城の熱を締め付ける。
その時、一瞬だ。一瞬だけ魔王が眉根を寄せ吐息を漏らした。
刹那のその光景は、千歳の中の化物への褒美なのか。その一瞬に千歳は薄く笑みを漏らした。
(じゅう、ぶん)
たったその一時だけを目に焼き付けてしまえば、後のことは深く考えなくても良い。
ほう、と低く唸った彼の額は汗ばんでいて、しなやかな肢体と相成ってひどく心を掻き乱される。
嗚呼、欲しいと思ってしまうのは、彼がそう誘導しているからだ。
「ひっ、…あっ、っァア!」
作られた笑みを壊すように結城が千歳の内壁の一等奥を穿った。収縮したままだったその中は狭いにも関わらず、その熱量を受け入れぐちりと子宮口が抉られる。
「いまっ、は…っ!やっ、ア!」
達したばかりだ。
しかし、そんなことは構わないと結城の竿は最奥を押し潰し、時に竿を左右に動かしてその一点を刺激し続ける。
堪らないその快楽にひとしずくの水滴が千歳の目尻から落ちた。
結城が千歳の身体を抱き留め、奥へと竿を押し付ける。
「アッ、…だ、め!ゆっ、きさ」
より深く竿が押し込まれた。オーガズムが止まらない千歳の肢体を結城は更に追い詰める。無遠慮に差し込まれ、引かれ、押し込まれ、逃げども逃げどもその喜悦は千歳を絡め取る。
そして、この男は知っている。
「千歳」
人を落とす術を。
耳裏で低く囁かれた一言。それは麻薬だった。たった一言の麻薬。
それは確実に、千歳の化けの皮を剥がす為の声音だった。
思考が麻痺する。
考える余裕など、千歳に残されていなかった。
「っ、だめ……気持ちい、いからっ、も、やだぁ!」
駄々をこねる子どものように懇願する千歳に結城は喉を鳴らして嗤った。
穿ち、抉り、懇願など耳に届かないようにひたすら千歳を攻め立てた。
ぐちりと子宮口に亀頭が押し付けられる。
途端、駆け上がり弾けた悦楽が全身へと行き渡り、千歳の肢体がピンとしなった。快感を逃がそうと身を捩ろうと動かす肢体も抱き留められ、抵抗も徒労に終わる。
達する感覚が一度では終わらない、連続するその快感はもはや苦痛だ。
霞む意識と視界。息を整えることもできず、朧げな瞳で千歳は結城を見つめた。
「ハッ、ぁ、ア」
「何も言えないか」
千歳の目に嘲笑が見えた。魔王を翻弄したいと息巻いていた先刻の自分と比較すれば、その笑いは妥当なものだった。
息が乱れ、彼の名を呟くことすらままならない。気怠げな瞳を向ければ、魔王の双眸の奥が怪しく閃った。
「ふぁ、んンッ」
荒い息遣いの千歳の咥内に結城の指が無遠慮に入れられた。逃げる舌を摘まれ弄ばれれば口端からだらしのない液が零れ落ちる。
歯列をなぞり、時に喉奥まで入れられたそれに、嗚咽を堪えながらも翻弄される。噛むわけにもいかない。
「ん、ふ、ぁ」
指先の不規則な動きが己の下肢の中で蠢いたものと重なり、千歳の相貌は恍惚に満たされた。
「ふ、浅ましいな」
歪められた口元に目を細めながら、千歳はその長く細い指を舌で絡め取った。一本一本丹念に舐め取る感覚に、背徳感と同時にじわりじわりと悦が身体を支配する。まるで犯されているようで、更に己はそれに欲情している。
獣じみた行為だと自嘲を重ねながら、しかしそれが魔王のものだと思うと許容する己がいた。
身体だけではない、こうやってこの魔王は心までも犯すのだ。
あの時、魔王が見せた一瞬の、性、の瞬間。吐息と感じ入った相貌、それすら彼の計算の内だったかもしれない。
しかし、千歳はあの相貌を見た瞬間充たされた。先のことを考えることを放棄した、それは即ち、あの時から既に落ちていたのだ。
じわりじわりと、こちらの矜持を保ちながらも確実に魔王は千歳を侵食していた。打ち砕かれたプライドも一撃で粉砕することはなく、最後まで彼は、演じた。
心が呑まれる。これが、人心掌握に長けた、結城、という魔王の存在。全てを差し出し、無遠慮に容赦なく使い尽くして欲しいと懇願したくなるような存在だった。
(これが、この人のやり方なんだ)
考えることを放棄させるほどの熱情。捉えようとした獲物に喰らわれる感覚。
千歳はそれを身を以て体感していた。
これは、魔王の訓練だ。
千歳は口腔から結城の指を抜いた。ツゥと糸を引く液を舐め取りその冷貌を見上げる。
蠱惑的な眼差しをひとつ向ければ、再びその口元がニタリと歪んだ。
ーーーー
溶ける思考
prev next
back
言葉の遊び リンク文字