ぼうと橙の灯りが薄い落水紙越しに彼の横顔を照らす。男にしては妖艶で、紅く赤い唇が己のそれと重なり息苦しさが増した。ぐるりと歯列をなぞられ全身が粟立つ。
「ん、ふ」
首筋に、鎖骨に、胸元に降りた口付けがその頂に触れ、口に含まれ啄ばまれる感覚に擦り合わせた両脚。
ちう、と高く吸われた其処に思わず声が漏れた。
「ひっ、ぁ」
「おや、満更でもないんですか?」
ニヒルに笑んだ男がくつくつと喉を鳴らす。僅かにこみ上げた苛立ちに千歳は冷眼を投げつけた。
「ご冗談を」
さっさと終わらせろという言外の意味を含めた声音に、男、三好は肩を竦める。
「可愛げのある返しの一つでも下さいよ」
そう宣い、中指と人差し指の間に挟んでいた煙草に口付けスゥと息を吸い吐き出す。絵になる色男は、文字通り額縁の中の鑑賞対象なら無害なものであるのに、現在の彼は有害物質以外の何者でもなかった。
紫煙を吐き出せば煙に巻かれる。微かに咳き込んだ千歳を一瞥した彼は徐に、次は粗さを含んだ口付けを寄越した。
鼻を抜ける独特の匂いと広がる苦味に眉を顰める。
「不味いですか?」
それが狙いのくせに、と苦々しい気持ちを抱きながら、それを表に出すのは癪だと芽生えたのは対抗心で。
「さァ、よく分かりません」
冷然とした面持ちを保ち顔を背けた。
僅かながら目を丸くした色男に、それよりも、と促す。
「早くして下さい」
「雰囲気づくりからした方が良いかと思ったんですけどね」
「その必要は貴方にも私にもないでしょう?」
千歳の問いに、三好はふっと吐息を零して笑む。
「まァ、そうですね」
宣いながら、ツツと太内腿をなぞる指先に千歳の腰が浮いた。過敏になった肢体は三好の手の内にあるようでひどく心許ない。
そもそも、この情事を持ちかけてきたのはこの男だというのに何故自分が振り回されなければいけないのか。
しかしながら、肌に感じる三好の熱と、息遣いは常より熱いものだ。額に滲む微かな汗と欲の篭った眼差しに、己のプライドを保つことなど詮なきことだと、千歳はひとつ目を閉じ彼を受け入れる。
内を解され、徐々に大きくなる水音に周知の心が芽生えるほど生娘ではない。
が、時折強く擦る三好の指は間違いなく千歳の反応をよく観察し熟知していて、それは心地よいものではなかった。
「一度、果てときますか」
「ッ、アッ!」
くん、と中指を折られ親指の腹で擦られた突起に抗う術はない。
しなる肢体に落とされる口付けにすら震える己が躰が恨めしかった。
はやく、はやくと懇願したくなる。
「三好さん」
躰が悦をしまい込む前に終わらせてしまいたい。はやく、と音を出さずに形だけで紡がれた言葉に三好が口角を上げる。
「急かさなくても良いでしょう」
「ンッ、あ」
千歳の焦燥を見透かしたかのような瞳が深淵を見つめる。千歳の奥底にある情動を探るように、三好は己が熱を緩慢な動作で挿入した。
ゆるり、ゆるりと焦らすやり方が厭らしい。早く終わらせろと睨みを効かせた視線などなんのその、ニヤリと端整な顔に刻み付けられた笑みは千歳の願いを跳ね除ける。
ぐちりと奥へと擦り付けられ、入り口を捏ね回され、緩慢な出し入れを繰り返される。内に溜まる悦を楽しむ三好に千歳が堪らず口を開いた。
「三好さんっ」
「何ですか?」
戯けた調子の憎たらしい相貌に噛み付く。
「誰の誘いでここに来ていると思っているんですか」
「というと?」
「ッ、何処かの誰かさんが、訓練で盛られたからでしょうっ」
とぼけるな、と千歳は頭を抱えた。
そもそも千歳から彼ら訓練生に色の訓練を依頼することなどは余程のことがない限り起こり得ない。
今回も、上気した頬と僅かに汗ばんだ額、眉根を寄せた三好を見かけた千歳が声を掛けた際、乱雑な動作で彼女の唇を奪い此処まで誘導したのは三好だ。
訓練の続き、だと。
己を見上げ、睨みつける千歳に三好はというと、
(え…)
ニタリと、彼という男に似つかわしくない子どもじみた相貌を見せた。
何なのだ、と訝しげな視線を投げれば、
「貴女って人は、本当に分かりやすい」
「なっ、……ンッ!やっ」
奥を緩々と叩く熱。腰を進めた三好に千歳から思わず声が漏れた。
「聡い癖に、僕達には無防備だ」
「あ、ん…何言って…」
意味を捉えかねる千歳が、嬌声を殺しながら三好に問えば、返ってきたのは嘲笑だった。
見下ろすその瞳の色に千歳は目を見開く。
「僕達が自分の身体をコントロールできないわけないでしょう?佐久間中尉じゃあるまいし」
馬鹿か貴様、と。魔王の嘲笑が頭を掠めた。
しかし同時に、では自分は何のために、連れ込み宿に誘導されたのかと千歳は片眉を上げた。
訓練と称し千歳を街へと誘い出して宿の前まで来させたのは、この男が色の講師の女性に盛られた催淫剤の効力に堪え兼ねたものばかりと思っていた。
訓練生は無闇矢鱈に千歳を抱きはしない。盛りのついた猿のような行動など、理性を保って己をコントロールする彼らにあるわけのないものだ。
それを分かっているからこそ、三好のこの行動も千歳にとって、訓練生のお世話、程度のものであったというのにと、千歳は嘆息した。
簡易的な洋装から和装へと切り替え、宿へ入る身嗜みを整えた。つまりは、花街の遊女に化けたにも関わらずこの仕打ちである。
じとりと不満を露わに視線を投げた千歳を他所に、三好はにこりと端整な顔に思わず見惚れるような笑みを貼り付けた。
「ご苦労様です」
(単なる、遊びということ…?)
青筋を立てそうになる己が顔面に千歳は平静を呼び掛ける。ここで腹など立てようものならこの男の思う壺だ。
しかし、落ち着け、と己を諌める千歳を嘲笑うかのように、三好は攻めを止めない。
「っ、アッ!やっ、ん!」
ゆっくりとしたストロークではない。千歳の無防備な肢体を弄ぶかのように、腰を掴むと何度も千歳の奥へと熱を叩きつける。腰を上げ、上から押し込まれる感覚に千歳の肢体が跳ねた。
「やっ!奥っ、やだ」
「此処でしょう?好きなところ」
「ひっ、アッ!ァア!」
ざらりとした箇所と奥を突かれ、穿たれる熱棒は硬化し、膨張していく。みちりと膣を圧迫する彼の竿に腹が悲鳴を上げている気がした。
任務でなら、女に甘言を囁き、陶器を扱うように撫で、高みへと緩やかに誘う男は今、ニヒルに笑いながらマスタベーションをするように己の悦を求め、そして千歳の悦を逃さない。情動に動かされているわけでもなく、三好はがさつな腰つきで彼女を揺さぶった。
「はっ…ンッ!あっ!」
「っ、締まりますね」
ぐるりと体勢を変えさせられ、後ろから三好の熱を押し込まれる。三好の姿を拝むことができず、ただ性を与えられるだけの体位に湧き上がったのは抑えてきた苛立ちで。
ただのお遊びに付き合わされた挙句に翻弄されるなど、と唇を噛みしめる。
声など聞かせてやるものかと、千歳は、宿に着いた時に早々に三好に剥ぎ取られ、畳に投げ捨ててあった着物を口に含んだ。
「ンッ、んんっ!!」
ぐちりと最奥に亀頭を擦り付けられ、躰を駆け抜けた快感にくぐもった悲鳴が上がる。一等収縮した膣に三好が喉を鳴らした。
「馬鹿な人だ」
「ッ」
離れていた三好の躰が千歳に被さる。首筋に掛かった三好の柔らかな髪にさえ震える肢体を恨めかしく感じ、千歳は更に強く布に歯型をつけた。
ねっとりとした舌が耳朶を食む。耳腔に捻じ込まれた生温い感覚に脳が麻痺するほどの水音が響いた。
時折揺れる腰に身体の強張りは抜けない。
三好の細長くしかし男の指が背をつうと這い肢体を確かめるように撫でられていく。
「声を出さずとも分かりますから」
脚の付け根、臀部、じわりじわりと伝わる慎ましやかな感覚が重なり欲が刺激される。緩々と動く熱と相まって高まる悦に笑みを深めた男が股の豆を摘んだ。
「ンッア!!」
千歳の目が見開かれ、ぱっと離れた着物を三好はさっと取り去る。代わりに咥内に含まれたのは、千歳を愛撫していた指先。
「ふっ、ァ、ンッ」
「こうやって、中に指を入れて。舌を摘むと悦びますよね」
「ンンッ」
「あと、最初からがっつき過ぎる男は嫌いなんです、貴女は。緩やかに中を解した後に、こうして」
ズンっ、と突如深く竿が穿たれた。
「ッ、んあっ!!」
「深いところまで押し込んで、激しくされるのが」
ーーたまらないでしょう?
確認するように、耳元でひとつ低い声音で囁いたその言の葉は甘美な悪魔の誘惑で。呼応する肢体に心は追い付かず、ただ犯され侵される。
千歳の内部を暴くことに対して悦を感じている男を、しかし千歳は喜ばすことしかできなかった。
密着していた三好の躰が離れ、するりと指先が口腔から抜かれる。
呆けていた思考は、直ぐに呼び戻された。
がしりと掴まれた腰に悪い予感が過った刹那、
「やっ、ァア!!」
先程と同じように抉るような突きが千歳を襲った。
乱雑に、遠慮など微塵も感じられない。ただ千歳の躰を揺さぶり、逃げる腰に熱を捻じ込み、内部を蹂躙する。
その竿が、彼の心が、三好を構成する全てが千歳を犯し尽くしていた。
「はっ、アっ、…ア!」
「気持ち、いいでしょう?」
千歳の背越しに聞こえる彼の声音は弾んでいた。時折漏れる苦しげな声が演技なのか本物なのかの判別は難しい。
思考が安定しない状況を、己をコントロールする術を同じように会得した千歳はしかし翻弄する化物の欲に躰を跳ねさせた。
「いっ、や…ァ、アっ!ア!」
弾けた思考が、反れた肢体が、全身が三好の竿を締め付ける。きゅうと子種を欲する膣に、はしたない、と耳元で呟かれるが、今の千歳に憎まれ口を叩く余裕はない。
しな垂れた肢体。ただし、この男はその躰を気遣い行為を収束させるほどお優しくはない。
女のような顔付きで紳士の振る舞いを見せ、常に理性を保った色白の美男子の裏にあるのは、ひどく獣じみた欲求だった。
「まだですよっ」
「アッん!あっ!やっ」
「まだ、僕が終わっていません」
「さ、いていっ、ですね」
「はっ、なんとでも」
ならばさっさと自分だけが果てるように動けばいいものの、それはプライドが許さない。
一度果てさせた千歳を三好は休ませることなく、その肢体を揺さぶる。
子宮口に擦り付けられ、叩き付けられる雄の先端に千歳の中の女が反応していき、彼の精をもぎ取ろうと収縮していた。
「っ、浅ましいのは貴女もでしょう」
こんなに締め付けて、と嘲笑する三好にしかし千歳も物は言えない。自慰のための慰み者。随分な扱いにも関わらず、反応する躰は矢張り女だからか。
暇潰しの道具と化し、休憩がてら抱かれているというのに、ただ抱くだけではなく的確に千歳を攻め立てる。
それでも、
「さっ、さと、ンッ、して下さいっ」
首を捻り、ありったけの矜持を盾に放った鋭い視線。
早く終わらせたい。その思惑に三好の目が細められた。
「ほう」
見せられた化物のなり損ないの、取るに足らないプライドに歪む口元。
ろくでなしの笑みは矢張りろくでない。
真後ろから突かれていた体勢から、横向きに逸らされた躰。両脚の間から差し込まれる竿に詰まった吐息をねじ伏せる様に、荒い口付けが施された。
「ンッ、んんっ、〜〜っ!」
舌を吸われ、躰を固定され、更には空いた片手で秘豆を摘まれた肢体が大きく震えた。下降する女性器を逃さない様に、擦り付けられる亀頭に堪らず千歳が嬌声を上げる。
「いっや、もっ、やっ、やっア!」
「咥え込んで離さない癖によく言う」
「三好さ、ンッ!やだっ、そこ」
「知っていますよっ」
千歳、と。
耳裏を柔らかな舌でなぞられ翻弄される千歳の躰を持ち上げた三好が、そのまま対面の形で彼女の腰を下へ落とした。
「アッ、これ、だめ」
「全部知っています。貴女の全てを、知り尽くしていますから」
ニヒルに笑いながら、千歳の細腰を掴み上下させる。
言葉通り、三好の攻めはぬかりなく千歳を追い込んだ。
目尻から貯めていた雫が溢れ、欲に沈んた瞳を彼に向ければ、舌舐めずりをした獣の瞳の奥がギラリと鈍く光った。
「ふっ、あっ!ァ、ん」
「聡い癖に騙されて、抵抗してもこうやって鳴く事しかできない」
「三好、さんっ、アッ」
全部知っている。分かっている。
千歳がとる行動も、思考も、求めるものすら何もかも手に取るように分かると悦をぶつける男の欲しかったものは、肉体的な快感ではない。
精神的優越。圧倒的な愉悦。
千歳が己の中の悦の波をせき止めている、理性の壁を圧倒的な質量で壊すまで終わらない。
子どもじみているその我の強さに抗おうとしている己もまた幼い。
しかしながら、先に根をあげたのは千歳だった。
するりと三好に躰を未着させると、大きく腰を動かし上下させる。時折深く彼の竿を飲み込み、鬼頭を最奥に擦り付ければ、一等深い悦が脳を溶かす感覚に痺れる。
「アッ、ん!あっ、アッ」
「はっ、ようやくですか」
「やっ、もっと、三好さっン!」
放棄した理性を三好に見せつけ、懇願すればいっそう彼の熱が隆起した。
強すぎる悦に悲鳴をあげる躰の主導権を手放せば、あとはなし崩しだった。
突かれ、穿たれ、押し付けられ。
達した回数と三好が果てた回数は比例しないところがまた憎たらしいが、意識を手放す一寸前。
「千歳」
ひどく、充足した笑みを浮かべた彼の姿に、状況を許容したこともまた隠せぬ事実だった。
(可愛らしいところも、あるものですね)
頬に当たるその掌の暖かさに微睡んだ。
ーーーー
ままごと
prev next
back
言葉の遊び リンク文字