寮とご飯と王子様
編入して一月が経ったある日曜日。俺は荷造り搬入荷ほどきと、慌ただしく過ごしていた。
天下の雄英に編入とあり、親元から離れ単身県外から来たため別でアパートを契約していたのだが…少し前にあった事件により、雄英生は入寮を余儀なくされていたようだ。
こうなる事が最初から分かってたらなぁ...無駄に部屋なんて取らなかったんだがなぁ...
大家とそれはもう揉めた。揉めに揉めた。
「───んで、ココが風呂!忘れたら同じフロアだし、また聞いてくれ!」
まあそれも落ち着き、やっとのこと俺も入寮を果たした。
皆に運び入れから手伝ってもらい、せっかくならばと上から順に色々な場所を同フロアの切島に案内して貰っている。
「ふうん、物凄い豪勢なんだな。本当に築3日なのか?」
「それは俺らも疑問に思ってる!マジヤベーよ雄英」
案内も終わり、休憩がてら一階の共有スペースに行けば、可愛い可愛い三奈とお茶子、そして爆豪という珍しいメンバーが談笑(?)しているではないか。
ひとまず渋々ながらも搬入を手伝ってくれた爆豪に礼を述べれば、すこし頬を染めて視線を反らされてしまった。何だよ、可愛いヤツだな。
俺を誘うかのように女子二人は間に入れるよう詰めてくれる。空けられた場所にさながらホストのように滑り込めば、引っ越し作業の終わったお疲れの俺にはうってつけの楽園の完成だ。
そして向かいの爆豪は隣に腰かけた切島におせーぞと文句をひとつ。そういえばと俺に向かって切島は切り出した。
「寮での食事の準備は当番制でさ、今日の当番は俺達なんだよ」
「そー!私と麗日がお昼担当で、夜が切島と爆豪!」
「普段は朝と夜だけなんやけど、今日みたいにお休みの日やとお昼もになるんやよ」
休日の場合毎回全員が食べる訳ではないらしく、各々が好きな時間に起きたりするために、予め食事が必要な者は予約みたいな形を取るようだ。ほう。
隣のお茶子は葛城くん、お料理出来る?と可愛く問うてくる。
とりあえず今日も可愛いねと髪に指を通しながら微笑みかければ顔を真っ赤にして反対側にのけ反ってしまった。可愛い。
「ていうか爆豪って料理するんだ、意外」
「あ?クッソ料理するわ」
爆豪飯すんごい美味しいんだよー!と逆側の三奈がテンション高く声を上げる。
また同じように手を伸ばすが、お茶子と違って三奈は頬も染めなければ慌てる様子も見せてくれない。まあそういうとこもイイんだよ。可愛い。
食べてみたいなあ。と務めて笑顔で爆豪の作る飯の話題が続くよう続けてみるが、
「んだてめえ、料理出来ねーんかよ。態とらしく話そらす真似しやがって」
「あっ、そうなのか!?てっきり出来ねーのは運動だけかと思ってたぜ!」
…そうだよ。出来ないんだよ。悪いんかよ、これだから勘の良い才能マンは。
これまで幼少から授業で調理実習とかもあったさ。だけど出来上がるものはなんとも言葉に表し尽くせない代物ばかり。出来上がればまだ良い方で、途中から調理器具を取り上げられたりなんかもしたものだ。
そんな俺を知ってか知らずか、中学に上がる頃には女子たちがこぞって俺の分まで調理してくれる上に、お弁当やらなんやらと食の面で世話を焼いてくれちゃうものだから、俺はめっきり調理場に立つことから遠退いていた。
そう正直に話せば、最早流石王子様って感じだなと言われた。まあな。
「そーだ!じゃあさ、葛城を審査員に部屋王の時みたいな感じで飯王決めしようよ!」
部屋王とは。はてなを浮かべた俺に、熱の治まったお茶子が入寮の際行われたものだと教えてくれる。
どうせならその時のように全員が参加出来れば良いのだが、俺も男と言えど一人で20人が作る飯を平らげるのは難しい。
ひとまず本日料理当番の彼らの料理の中から一位を決めようと相成った。聞けば爆豪は部屋王の時は未参加だったというので、今回も参加しないものだと思っていたが参加してくれるようだ。
「いやあ楽しみだなあ、皆の手料理」
昼時も近くなり、数人が一階に降りて来る。そして飯王決定戦が開幕されるらしいと告げると、早くも二回戦が行われる予定が作られた。俺としてはとてもラッキーである。
作り手側じゃないのであればもう楽しむだけだとどっかりソファに沈み込めば、早速聞こえてくる包丁の音たち。
きっと俺は女子の料理を贔屓するだろうと男子陣に調理場から一番遠い所に座らされた。流石の俺でも4人ともが真面目に作ってくれるんだからそんな事しないよ!?
*
「出来たよー!瀬呂、目隠し外したげて!」
隠されていた目元が明るくなると眼前にずらりと並ぶ4食分の美味そうな料理達。全ての量が本来の一食より少なく取り分けられている配慮が有りがたい。
まず左端のものから。白米に始まりメインを肉じゃがとして一汁三菜を押さえたこのバランスの良いメニューは爆豪かな?
それぞれ個性が出ていて、これらが誰のだと当てるまでもないが、飯王とは別に作り手個人の事が好きで一位を決めるものではないので問題は味だ。
それでは温かいうちにと箸を取ると、さも自分が一位を取れると言わんばかりの爆豪は、自信満々におあがりよと声を掛けてくれた。
何のための目隠しだったのだ。自分でばらしているようなものではないか。
はす向かいの上鳴は「メタい…」と鳴いていた。メタいとは。
───彼はプロの料理人か何かかな?
恐らく土鍋で炊いたのだろう白米は粒だちも良く、肉じゃがも煮崩れることなく熟練の料理人を思わせる程の出来で、抜群に味が染みていて美味い。鰹出汁のきいた味噌汁、添えられている小鉢もお浸しにきんぴらにだし巻きと…4人同時に、更にあの短時間で作ったとは思えない品々だ。
恐ろしい男…思わず脳内で服が脱げ散らかってしまった。伊達に才能マンなどと呼ばれていないな。
「…結婚したい……」
「ふん。たりめーだわ。」
「爆豪シッ!対決なんだから!」
爆豪の料理に舌鼓を打つと、次に並べられているのはハートが描かれたオムライスにサラダにスープ。
いたる所にハートを模したトマトやウインナーが添えられている、明らかに女子力の高いメニューだ。
…これは三奈だろうか?
視線の端にそわそわした愛らしい桃色が揺れているのが見える。
「…あー可愛い」
「葛城!女子の贔屓すんの無しな!」
「分かってるって。…はー、可愛いなァ」
そう、これは飯王を決めるバトルなのだ。
いくら俺が女子を好きであろうと、作った者が確実に女子であろうと、公平を期さねばならないのだ。
どんなに明らかに期待した目を向けてくる女子が作ったものであろうと!
…
「さてさて、王子様が選ぶ飯王は…?!」
切島が作ったものと思われる漢の料理しょうが焼き丼定食と、お茶子が作ったと思われる雑穀米、豚汁、煮魚等といった素朴ながらも暖かみを感じる手料理たちを食した後、いよいよ飯王の決定の時となった。
全体の感想としては、近頃の雄英生は男子も女子も料理が出来なくてはヒーローになれないのかと思う程、すべてが美味かった。
女子はなんとなく今までの経験上料理くらい軽くやってのけてしまうと認識していたから、お茶子や三奈はもちろんの事。そして才能マンと呼ばれる爆豪は置いておいて、料理なんてしなさそうに見える切島の作ってくれたものも、付け合わせまで余すことなく美味かった。
そしてそこで問題だ。どうして軽く受けてしまったのだろう。
そりゃあ得しかしないと思ったから、そして美味い飯にありつけりゃあいいと思ったからなんだけど。
…難しい。選べん。審査だとか王だとか、なんて残酷な…。
「んんんん……」
皆の期待に満ちた視線に晒されながら捻れ切れそうになる位頭を捻っていると、不意に差し出される艶めく赤いゼリー。
視線をあげればその先には1-A暫定スイーツ王砂藤が。
「いや、飯食ったあとにサッパリしたモン食いたくなんねーかなと思って」
面白そうな事してたし、アセロラゼリー作ってきた。
ほう。アセロラゼリー。好意を無下にするわけにはいかんな。そしてデザートなら飯王に影響もせんだろうと匙を取る。
当然たまらん美味い。飯に限定した王位決定戦でなければ恐らく彼が王者になる確率は高かっただろうな。
…これ以上俺の審査を長引かせるのは忍びないが、これを食べ終えるまでは待ってもらおう。俺も食べ終えるまでに決めなければ。
*
「…決めたよ。第一回、飯王は」
ごくり。固唾を飲む音が聞こえてくるようだ。心が痛いが、俺のなかで決定したのだ。受け入れて貰いたい。
「……み、みんな同率一位…ってことでひとつ…」
静寂をうった後、非難の大声が共有スペースに響き渡る。
参加していた4人もそうでないギャラリーの面々も、一様に不満を顕に俺に食ってかかってきている。が、だって選べねーんだもんよ!
何が結婚だクソがァと爆豪は個性駄々漏れに爆発している。怖い。
「葛城ちゃん、さすがに酷いわ」
「うっ、梅雨まで…だって、全部美味かったんだもん…優劣つけたくねえよ…」
考えて考えて考え抜いた結果みんな違ってみんな良いに辿り着いたのだと、必死こいて説いてみたら、案外皆優しく受け入れてくれた。
しかし、良かった!と思ったのも束の間、透の「でもこれ恋愛に置き換えてみたら葛城くん相当酷い人だよね」との呟きに再び場は炎上した。
もうこんな事が二度と起こりませんように。と思いました。あれ、作文?