素直にならない君を愛してる

こんな勝己を俺以外誰も知りやしない。

 皺の寄らない眉間、蕩ける目元、上がる口角、低められていない声。
猫のように擦り寄る勝己は、普段の教室での様子とはきっと想像もつかないだろう。
撫でる手をわざとたびたび止めてやれば、なあ、とそれはまた猫のように鳴くのだ。
 ベッドを背に預け座る俺の、柔らかくもねえ膝に上体を預けるようにして転がりながら、時折強請るような視線を投げかけてくる。
何をして欲しいかなんて、もう言われなくたって分かっている。
 けれど俺は言葉にして欲しい。
勝己は人に何かを求めるとき、視線や行動で示すことが多いが、俺はその意に気がついても、勝己が言葉にするまで叶えてやらない。

「...樹、」
「うん?」
「ん」

 ころんと仰向けになり、両腕を俺に向けて伸ばしてくる。
甘える視線はそれはもう可愛い。きゅう、と胸が締め付けられる思いだ。
 しかし、それでも、俺は、言葉に!してほしい!
 焦れてきた勝己の眉が顰められてゆく。
分かってんだろ、はやく。と。
対して俺は素知らぬふり。見つめるけれど、撫で続けるけれど、頑として勝己の意を汲まない。
 今日の俺は頑固だぞ。勝己もそれに気がついてんだろ。
 こうなるとどちらが折れるか勝負になる。
どちらも頑なであるために、喧嘩になる事も少なくない。
だがこういう雰囲気のときこそ、俺はより一層に折れない。
それは可愛い勝己を見たいがためのエゴであることは誰よりも俺が分かっているのだ。
 いよいよもどかしさが怒りへと変貌しそうになってきた勝己が、広げていた腕を下ろそうとする。

「勝己?なにかあるんじゃないの」
「…るせえ、もういい」

 その腕を掴んで問うてやる。俺の譲歩はそこまで。
そこでもう良いと勝己は言ったので俺は「ああそう」と手を離してしまう。
そうだろう。何もないのであれば、いつまでも空中に掴んだままおくのは可笑しな話だ。
 せっかく可愛らしく蕩けていた紅い瞳には拗ねたような色が浮かんでいた。
言葉にすれば、容易に望むことをして貰えると分かっているはずだろうに。
たったの一言、溢してしまえば良いのに。とても可愛くて、いじらしい。
 ぞくりと背筋を走るものは、腰の奥深くにじんわりと熱を持たせる。
ああ、早く言っておくれ。俺だってそこまで気が長い訳じゃあない。そして馳走を前にいつまでも待てが出来る程お利口さんでもない。
 見た目よりもふわふわの髪に手櫛を通すと、眇められていた瞳が今度は気持ちよさそうに閉じる。
柔らかく名前を呼んでみれば、納得はしていなさそうだけれど、口を開こうとしてくれていた。
もう少しばかり待てば、俺の頑固さに折れてくれるだろう。
そしたら望むがまま、いやそれ以上に与えてやるさ。

「...樹、キスして」


そう、俺の勝己はこんなに可愛い。
他の誰にだって教えてやらない。