02:某隊長による目撃談
某日、ボーダー本部所属太刀川隊隊室にて。
もじゃもじゃとした髪と格子状の瞳を持つ青年、太刀川慶はふと思い出したかのように口を開いた。
「そういや烏丸、おまえの知り合いに緑髪でピアス付けたそれなりに身長高いやついなかったか?」
「緑髪でピアス付けた、それなりに身長が高い人、っすか? ……ああ、千晶先輩のことですかね」
「あー、そいつそいつ。前に出水のやつが言ってた名前がそんな感じだったから間違いねぇや」
「千晶先輩が、どうかしましたか?」
己が所属する隊の隊長である男から出てきた思わぬ人物の名前に、烏丸は静かに目を瞬かせる。
そんな烏丸の様子を横目に、太刀川は言葉を続けた。
「いやさ、その雲竜ってやつこの前見たんだけどよ。警戒区域の近くだったんだよな。確か何回かその近くで見られてんだろ?」
「……あの人、またその近くにいたんですか」
「お〜。声かけようと思ったんだけどその前にどっかに行っちまったから出来なかったんだけどさ、そん時の様子がど〜にも妙でな」
「妙?」
「なんかから逃げてるように見えたんだよ。だからてっきり[#ruby=近界民_ネイバー#に追いかけられてるのかと思ったら全然そんなことなかったから、妙だなって」
「……はぁ、なるほど?」
「ま、なんもないならいいんだけどな〜」
太刀川にとっては、何気ない雑談でしかなかったのだろう。これ以上それに関しての話題が広がることはなく、近々あるランク戦に関しての話へと変わっていった。
だが、烏丸はずっと太刀川のその言葉が頭の中で引っかかっていたのである。それ故に、彼は己の先輩でありそして太刀川に目撃された千晶にそれとなく訊ねた、のだが……。
「——ねこ、いたから。追い掛けてただけ」
「……だとしても、あそこの近くも安全とは言いきれないんすよ。それくらい、千晶先輩も知ってるでしょう?」
なるほど、今この先輩は嘘をついた。色々と言いたいことをグッと堪えて烏丸は話を続けた。
もとより、雲竜千晶は時折不可解な行動をすることはあった。それこそ、太刀川が目撃したような「何かから逃げている」ような動作や、ほんの少しの脅えを見せる動作など様々だ。だが烏丸からしたら別にそこまで気にすることではなかったことや、上手い具合に誤魔化されていたため気にしないようにしていた。気にしてはキリがないと察してしまったから、というのもあるかもしれない。
しかし、思い返せばこの先輩は不可解という言葉でまとめられないくらいには不可解すぎる行動をしていたのではなかっただろうか。
会話を続けつつ、烏丸はそう考える。
猫がいたから追いかけただけだと、千晶は言った。けれど、あの日の太刀川の話ではそんなワードは出てこなかったし、猫を追いかけていたのなら彼が妙だと思うこともなかったはずだ。
この先輩は、何かを隠している。それが何かは烏丸にはまだ分からないが、これ以上警戒区域の近くで行動をするのならば意地でもその隠し事を暴かねばならないだろう。いくら警戒区域の外とは言え、警戒区域の近くには変わりないし、彼の身に何かあっては自分の精神衛生上的にもあまりいいとは言えないのだから。
最悪の場合は、ある意味チートなサイドエフェクトを持っているあの男の人にも協力をしてもらわないといけないのかもしれない。
「雲、多いねぇ」
「? 今日雲ひとつない青空ですよ」
首を傾げつつ烏丸がそういえば、千晶はどこか諦めたような瞳をして目を細めた——ように見えた。
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