07:First ride in a police car
結論から言えば、爆弾は影の記憶にあるような結末を迎えることは無かった。なぜなら母さんから来たメールを俺が無言で陣平さんに見せたからである。
陣平さんはそのメールを見るなり無言で(おそらく研二さんに)LINEを送ったあと、すぐさま爆弾を解体した。早打ちもそうだけど、解体も早いから流石は爆処のWエースの片割れと言われるべき人物だなぁと感心してしまった。
ちなみにそのあと母さんから追加のメールで[翼ちゃん、刑事さんに教えてくれたのねぇ。ありがとう、無事に解体してもらったわぁ]という内容のものが届いたので、陣平さんと二人並んでホッとしたのはここだけの話である。
「うちの両親、すごいっしょ」って言ったら、なんとも言えない顔で「そういやお前んとこ、一週間前にお祓い行ってなかったか?」と言われた。それは突っ込んだら負けっすわ。
何はともあれ、無事に生還した俺達はとりあえず米花中央病院へと直行した。その間に陣平さんはあの美人な美人な佐藤美和子刑事からビンタを食らったし、泣かれていた。俺はそんな二人の隣で目暮十三刑事と白鳥任三郎刑事にしこたま怒られていた。そのあと俺の両親が米花中央病院にいることを言ったらパトカーに乗せてくれた。何もしてないのにお縄についた気分だったのは秘密である。
「——翼ちゃん!」
「あ、母さん。と、あと父さん」
病院に着き、刑事さん達同伴の元両親のところに行ったら涙目の両親に駆け寄られた。生きてるんだからそんな"死者が生き返った"みたいな反応で出迎えるのはやめてほしいな。あと父さん、ちゃっかり「生きてたんだな……! 良かった……!」って言ってんの聞こえてんだからな、おい。勝手に殺さないでください。
「へぇ、この人らが翼の両親か」
「あり、陣平さんあったこと無かったっすか?」
「……あ〜、こっちの事で手一杯だったからな」
「あっ……」
どことなく気まずげに、というか恥ずかしげに目を逸らした陣平さんにすぐに察した。そういやこの人、親友の仇を取るために四年間ずっと部署の異動を希望してた人だったわ。影の記憶が正しかったらそうだったはず。つまりまぁ、この四年間そっちに集中してたから俺の両親と会えていなかったんだろう。
思い返せば、両親と会ってたのは研二さんとあと彼らの同期の伊達さん——基航さんとかだったのでまあそういうことだろう。
研二さんも航さんも陣平さんに関してそういうことは特に教えてくれてなかったし、かく言う俺も特に気にしてなかったので気づかなかったけど。だって陣平さん、俺に胃袋は掴まれていても心開いてるというか、距離縮めようとはしてなかったように思えるから。
多分警戒心が強いんだろうなぁって勝手に判断してたから、気にすることがなかった。その気になったら距離位勝手に縮めてくれるだろうし、そうなったら俺も縮められるよう努力したらいいかなぁ、くらいにしか考えてなかったって言うのもあるっちゃあるがな。わはは。
なんも考えてなかっただけなんじゃ、とかは言ってはいけない。正直料理が絡まない俺は大体8割くらいなんも考えていないから、仕方ない。料理が絡めば話は別である。
この人はこの地方で育っている、じゃあ味は薄目の方がきっと好みに合うだろうな。とかそういうことを一つ一つ考えてやるから、必然的に考えるようになっているだけだしな。作るのは簡単だけど、それ以外の知識も身につけてこそ一流に近づける、とは俺の両親からの受け売りである。
ちなみに俺はまだそちら辺の知識は疎いところもあるので、一流ではない。でもぺーぺーって訳でもないと思うから多分二流か三流だと思う。三流なら「立てよド三流」とかいつか言われんのかな。世界が違うから無理か。
中の人は確か映画のほうでオリジナルキャラクターとして出てたみたいだけどなぁ。あくまで影の記憶だし、俺はよく分からんけど。でも確か犯人じゃなかったか? 遭遇したくねぇ。
というか名探偵コナンって、映画のオリジナルキャラクターに豪華声優陣使ってるイメージ強いな。影の記憶だと映画の犯人だいたい豪華声優陣な気がする。影の知識が偏っているだけかもしれないが。
閑話休題。話が逸れた。
兎にも角にも、陣平さんは件のことで精一杯だったみたいだったから俺の両親と会う機会なんてまあある訳もなく、今が初めてのご対面だったらしい。初めてのご対面が爆弾から無事生還したというこの現状に、何やら形容し難い何かがあるみたいだったけど(まあ多分それは佐藤刑事に付けられた右頬の赤いもみじの痕も理由に入ってそうだけど)、礼儀正しく挨拶をしていた。
どれくらいかって言うと、見た目とのギャップに両親が目をまん丸にしたくらい。
うちの両親は仕事柄、見た目と仕事のギャップに驚く、なんてこともよくある人間だが陣平さんのは結構驚いたらしい。母が「兵ちゃんみたいな人なのねぇ〜」って言ってたけど、その兵ちゃん、俺の間違いじゃなければあの黒田兵衛捜査一課長だよな? よくこっちに来た時うちに食べに来る強面の顔した刑事の人。
あの見た目で兵ちゃんって呼ばれてんのか……色んな意味でギャップがすげぇわ。うちの母親、肝の座り具合が尋常じゃねぇ。うちの父親もそうだが母親も負けてない。似た者夫婦ってやつだろうか。
「でも……本当に無事で良かったわぁ。お母さんとお父さん、翼ちゃんも爆弾の乗ってる観覧車にいるって後から聞いてほんとにびっくりしたんだから」
「ハハハ……」
ごめん、それは俺もビックリしてる。まさかこんな運良く救済できるとは思ってなかったし、つか正直忘れかけてたし、てか忘れてたし。そもそもこういう時って鉄板は病院に行くほうじゃないのか? なんで観覧車なんだよ、って思わなくもないけどまあ運が良かったんだろうな。しばらく爆弾は見たくない。
「君も、うちの息子と観覧車に乗っていたんだろう? 無事でよかった」
「……ありがとう、ございます」
「研ちゃんも、ありがとうねぇ〜。おかげで助かっちゃったわ」
「いやいや、こちらこそありがとうございます! おかげで松田と息子さんの命が助かったんで!」
ほぼほぼ不運の形で爆弾とランデブーをした俺の身のことを何か言われる、とでも思っていたのだろうか。父に自分の無事を安心された陣平さんは、少し照れくさそうにお礼を言っていた。うちの親、そんなことで怒ったりしないんで大丈夫っすよ。というのはまぁ、後で言おうか。
仲睦まじく(当社比ではあるがまあ仕事柄社交的な両親と、持ち前の社交性のある研二さんがいるのでそう見える)話をしているところ悪いが、生憎俺にはこれから用事があってですね……。
本来ならこの後事情聴取が待っているんだろうが、今回の俺にはもう済んだことなので問題がない。
というのも、事情聴取はさっきパトカーの中でしたことが大体それだったのだ。だから俺はもう一度聴取する必要もなく、また何かあったら呼び出される、という感じで落ち着いた。
つまるところ、この後用事のある俺はそろそろお暇してもとかに問題は無いのである。
なにやら話し込み始めた両親と研二さんと陣平さんに、俺は眉を下げて声を掛けた。
「俺、この後用事あるんでそろそろお暇させて貰うっすね。父さんは怪我安静にしなよ。母さんも、父さんが無茶しないように見張っておいてよね」
「ふふ、はぁい。またね、翼ちゃん」
「見張っておくってなぁ……父さんをなんだと思ってるんだ?」
「目を離すとうっかりする人」
「んなっ!」
「じゃ、研二さんと陣平さんもまた」
何やらショックを受けている父をスルーして、研二さん達にも挨拶をする。二人は目を瞬かせて俺と両親のやり取りを見ていたけど、そのあとなんだかとても優しい目を向けられながら手を振られた。何を考えたんだろうか。
そんなことを考えながら、少しだけ早歩きをしながら俺はその場を離れた。この後人と会う予定があるのでな、少しだけ早歩きしても多分許されると思う。さすがに病院だから走りはしない。
まぁ病院でたら忍者のごとく素早い動きで駅まで猛ダッシュしたけどな!
研二さん達に見られたら多分大爆笑されていただろう。
……そういえば病院出てから即座に猛スピードで走り出した時に、どことなく見覚えのある髭の黒髪童顔と金髪色黒童顔が通り過ぎた気がするけど、さすがに気のせいだよな? 猛ダッシュする俺のこと、黒髪の方は二度見してた気がするけど気のせいだよな?
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