
『・・・セサクァ、エニツィニィーヌマクファツィクセサクァ』
夢だ。
何時、何の夢か分からない、これは夢。
微睡んだ意識に響いてくるのは柔らかな言の葉。
『キヒニィミ、ユルアマノツェ・・・エニツィニィーヌマ・・・シナセオ・・・』
切なく美しい、まるで一つの旋律。
意味は分からない。
けれど、不思議と胸に染みていく言霊。
『セサクァ、ユルンヒィチク・・・ソクメェオ・・・タンクィオ・・・』
意味は分からない。
だけど、けれど。
「ミィク、ミミケクォ」
その詞に言葉を返したのは、確かに自分の声だった。
「クーちゃん!」
幼い元気な声と布団越しに伝わった衝撃に、紅苑はゆっくり瞼を開く。
定まっていく視界と目覚める意識がまず認識したのは、朝にも関わらず大きな瞳を元気そうに輝かしている杏架の顔だった。
「おはよう!今日も良い天気だよ!」
「・・・そうか」
朝特有の気だるさを払いつつ上体を起こした。
すると、今まで覗き込んできていた杏架が僅かに後ろに押され、小さな体が腹付近から紅苑の膝の上へ移動する。
どうやら先程の衝撃は杏架が飛び乗った際に生じたものらしい。
端から見れば近すぎる距離で言葉もなく二人は見合い。暫くして杏架がにへ〜と笑って満足そうに体から降りていった。
それと同時に、
「はーい!おはようござまっ!」
そう言って一人の少女が部屋に入ってくる。
扉が開け放してあったところから推測するに、どうも杏架は入ってきたまま扉を閉めていなかったらしい。
そんな意味のない情報を真っ白な頭に入れ込みながら、紅苑は少女を凝視し、首を傾げる。
「・・・誰だ・・・お前?」
「ふみゃあっ!朝の挨拶にしては酷すぎる返しだクーちゃんっ!」
「あのねあのね!この人は凪沙さんだよクーちゃん!」
「凪沙・・・・・・クー、ちゃん・・・?」
「ナーちゃん、昨日話したけどクーちゃんはね?昨日のことが分からないんだよ?」
「あー、そっかそっかじゃ改めー・・・ハロー紅苑さん!あたしは凪沙!昨日貴方に素敵なあだ名を授けたキューティーガールだよ!」
きゃは★と勢いよくはしゃぐ凪沙。隣で嬉しそうな杏架。
朝からハイテンションな二人を横目に紅苑は情報を整理する。
凪沙、が少女の名前。
杏架が知っているから知人であることは確か。
朝からこうしている辺りそれなりの仲である模様。
・・・また、『クーちゃん』という呼び名は凪沙の言い分から察するに彼女につけられた・・・のだろう。
以上を一秒半で吸収、理解、整理して紅苑は小さく溜め息をつく。
「・・・凪沙、朝なんだから静かにしてもらえないか?」
「アイアイッ!そんならご飯にしよーよ!ねっ!」
紅苑の言葉を受け元気に頷くと、凪沙は足早に部屋の外へ。
「ほらっ!早く行こうクーちゃん!」
「あぁ」
急かすように手を引く杏架と共に紅苑は部屋を出た。
