
鳥の囀りが聞こえる。麗らかな陽射し差し込む昼の公園。
その中央に設置された花壇の仕切りに腰掛ける姿を見つけ、私は彼に気付かれないように背後に立つ。
「ヨーキ!元気ですかぁ?今日も私と語らいましょ!」
「断る」
元気な私の呼びかけを彼は背中を向けたままあっさり一刀両断。
それが悲しい私は「え〜」と不満の声を漏らしに漏らして抗議すると、彼がゆっくりと私に振り返ります。
目を細めて、視線だけで相手を居抜き気絶させるような不快に満ちた瞳、をスルーして、私は彼の手に握られた物を観察。
「ヨーキは本当にお好きですねぇ……今日のホットドッグのトッピングは何なんですか?」
「……さぁな」
「あ!ヨーキったらほっぺにケチャップつけちゃったりして可愛いです!私に実体があれば……とってあげたい!」
「……黙れよお前」
私の指摘に不機嫌さを露にしながらも頬のケチャップを指で脱ぐいとるヨーキ。
もうもう!意地っ張りなんですから!
「んで?俺に何か用事か?」
「えぇ、私はヨーキの可愛い食事風景を見るという日課を……「消えろ!てか、さっさと成仏しろよ。俺のために」
「ヨーキの為に魂を捧げられればそれも本望なのですが、残念なことに私はまだまだ天に召される気はないので無理です」
「ふざけろ、この変態ストーカー幽霊」
「私はヨーキに変態行為をはたらいたことなんて一度もないですよ!」
「ストーカーを否定しろよ!犯罪だぞ!」
「この素敵な幽霊破究さんに、現代の法という縛りは無意味、無関係なのでした!」
「くたばれ……いや、消え去れこの野郎」
ボソボソと呪詛を吐き出すヨーキ。
彼の意識は完全に私に向いていますが、無意識に右手は彼のポーチについた人形を撫でていました。
愛らしい、年頃の少年には不釣り合いなそれは可愛いウサギを模したマスコット。
無意識にでも優しく撫でるその指つきは分かりやすい愛しさを含んだ行為。
「本当に大事にして……そんなヨーキも可愛いですね」
「何の話だよ」
「もう誤魔化したって無駄ですよぅ?右手で撫で撫でしてるじゃないですか?」
その言葉に初めて意識が向いたのか、撫でる右手が止まり、代わりに今度は優しく掌で包み込む。壊れ物を扱うように、慎重に。
「……大事だなんて……当たり前じゃないか、お前だって知ってるだろ」
「えぇ、同時にヨーキが今頑張っている理由も……ね」
「…………」
俯き、彼は人形を見つめて再び指で愛撫を始める。
生きている人である彼の眼には見えないだろう光を、魂の輝きを静かに凝視する。
明滅を繰り返す魂は人間のもの、人形に入れられた魂を彼は温めることは出来ぬと知りながら抱き締めている。
「俺が……俺が戻さなきゃいけないんだ……瓶菜……」
瓶菜(みかな)。
それが魂の生きていた頃の名前。今、彼が歩んでいる不測事態の運命を作り出した少女。
葉希と瓶菜は幼馴染みで何をするにも一緒だったと聞く。
不測事態が起きたあの日まで。
予定調和の運命は、死神に命じた。
志久坂葉希(しぐざか ようき)の魂を狩れと。
数年前のあの日、彼は魂を奪われ世界から消える運命にあった。
だけどそれは阻まれた。
しかも一人の少女の手によって。
豊酉瓶菜(ほうとり みかな)は死神から葉希を庇い余生を散らせた。
不測事態。
運命にない出来事に死神は惑い、少年は嘆いた。抜かれた魂、戻すは困難。
しかし運命にない魂を持ち帰ることは出来ぬ。
だから死神は少年に話を持ちかけた。不測事態を打ち消す話を。
世界に彷徨う死霊の魂を集めろ。
それが少年に提示された条件。幾つかの魂が集まった先に、死神は運命を元に戻そうと約束した。
運命を元通りに―瓶菜が生き、葉希が死ぬ運命に―戻す。
少年はそれを呑み契約を交わした。
そして今、彼は仮初めの時を生きながら少女の為に魂を集める。
「ヨーキは彼女が好きなんですね」
「はっ……?!」
“好き”の単語に顔を赤らめるヨーキはあまりにも初であまりにも可愛らしい。私はうっとりとその顔を見つめる。
「ばっバカなこと言ってんじゃねーよ!俺と瓶菜はそんなんじゃなくて……ただの、幼馴染みで!」
「ハイハイ、ツンデレ彼氏ご馳走様です」
「誰がツンデレだっ!」
顔を真っ赤にして目を逸らす姿が新鮮で、私はヨーキを抱き締めたい衝動に駆られます。
出来ませんけどね?
「照れなくてもねぇ?大丈夫ですよぅヨーキなら見事に魂を集められますって」
「だったらお前の魂も捧げろよ。俺のために」
「それとこれとは別・問・題」
「ふざけんな白髪!!」
少年の怒声が昼空に響く。
力を持った存在は無力な幼子に小さく微笑んだ。
