しまぬくくるにふれる



「兄貴ー!!」

「待ってくださいよぉ!」


神室町に響く若い声。

振り向けば、我等が堂島の龍。

と、それを追いかけるパンチパーマ君。

この辺で見た事ない人だ。


「置いてかないでっ……」


ああ、成程。

声の正体は彼だった。

兄貴!って元気に呼んでいたけど、舎弟なのかな?

桐生さんに声を掛けようかと思ったけれど、お忙しいと申し訳ないし、用事を済ます方が優先されたので、その場を後にした。


後ろ目にチラリと様子を伺うと、段々と桐生さんと彼の距離が離れていく。


頑張れ、パンチパーマくん。





二時間後、すっかり暗くなってしまったなぁ、なんて思いながら外に出ると、ビルの前にキョロキョロと右往左往する人影。

あれ?パンチパーマくん一人だ。

周りに桐生さんの姿はない。

はぐれてしまったのだろうか。

困ってる……よね?


「あの、」

「ったく!兄貴は一体何処行っちまったんだ?」

「あのー?」

「いい歳して迷子だなんて兄貴何歳だよ……って、ん?俺?」


不穏な言葉が聞こえた気がしたけれど無視しよう。

どう考えても迷子はパンチパーマくん、キミだ。


「俺に何か?……は!もしや、ナンパ?」

「いや違いますけど」

「そんな食い気味に否定しなくても……で、俺に何の用?」

「いや、もしかしたら桐生さんを探してるんじゃないかなって」


聞いた途端、顔色が格段に明るくなる彼。


「お!?アンタ、兄貴の事知ってんのか?」

「え、ええ、まあ、はい」

「うおー!助かったー!」


大きく響く声。

吃驚して、慌てて周りを見回すとチラホラと視線が。

落ち着いて欲しいぞ、パンチパーマくん。


「俺、力也ってんだ!アンタは?」

「あ、なまえと申します」


笑顔が眩しいパンチパー……否、力也くん。

聞くところによると、神室町観光の道中ではぐれてしまったらしく、しかも携帯の充電も切れてしまったらしい。

連絡手段も無く、ひたすら探し回っていた、との事。


とりあえず、携帯を取り出して桐生さんの名前を探す。

通話ボタンを押して耳に当てると、四回目の呼び出し音で聴こえる声。


「もしもし」

「あ、もしもし、桐生さん?私、なまえです」

「ああ、お前から掛けてくるなんて珍しいな。どうした?」

「あの、今桐生さんを探している方と一緒に居まして、」

「ん?もしかして力也か?」

「はい。あのですね、」


力也くんの現状と居る場所を説明すると、桐生さんはすぐに迎えに行くと言ってくれた。


「なまえ、悪いんだが、俺が行くまで力也と待っていてくれないか?」

「ああ、はい、いいですよ」

「悪いな。……電話が繋がらないどころかまた迷子になられたら困るからな」

「ふふふ、そうですね。じゃあ、第三公園で待ってます」


電話を切って力也くんに伝えると、またもや大きな声で感謝を述べてくれた。

どうやら桐生さんはバッティングセンターの辺りに居るらしいので、ちょっと来るまでに時間がかかるかも知れない。


自動販売機で力也くんが飲み物を買ってくれて、第三公園のブランコに座って、桐生さんが来るのを待つ事にした。


「いやぁ、マジで助かったよ」

「いえいえ、なんとかなって良かったです」


一人でも何とかしようと、携帯の充電器をコンビニで買おうとしていたらしいけれど、どうやら力也くんの携帯の型と合うタイプの充電器は売り切れていたそうで。

力也くんはちょっとボロボロの携帯をパカパカと遊んでいた。


「ドンキとか他のコンビニにも行こうと思ったんだけどよぉ、兄貴と行き違いになったら困るし、無闇に動かねぇ方が良いかと思ったんだよ」

「そうだったんですね。……ん?あれ?」

「あ?」

「その機種、私のと色違いかも」

「お?マジか」


うんうん、やっぱりそうだ。

てことは。

バッグの中を探して、探して、あ、このポーチ。


「はい。これ、使ってください」

「おお、充電器!」


いつも持ち歩いていて良かった。

これで少しは充電できるだろう。


「マジで助かるぜ!ありがとな!」


力也くんは携帯に充電器を挿すと「ピッタリだぜ!」と喜んでいた。


暫くすると電源が入る。

ああ、良かった。


そんな事を思っていると、自分の携帯にメールの通知音。

差出人は、桐生さん。




ちょっと厄介事に巻き込まれた。

さっさと終わらせて行く。スマン。




簡潔な内容。

喧嘩にでも巻き込まれたのかな?

メールが来るくらいだし、違うか。

わかりました。とだけ送って、力也くんに説明すると、ちょっとシュンとしていた。

あら、わんこ属性。

桐生さんの事、慕ってるんだなぁ。

うん。わかるよ、わかる。



待っている間、力也くんは自分の事や沖縄の事を話してくれた。

私と歳が近い彼は、琉道一家という極道の若頭さんであると言う事。

琉道一家の組長さんの事、その娘さんの事や舎弟の幹夫さんの事。

桐生さんとの出会い、あさがおの子達の話、地元の良い所など沢山教えてくれた。


「なんかさ、なまえちゃんとは仲良くなれそうだな!」

「うん、私もそう思うよ」


話している間、明るい太陽のような笑顔で、キラキラと目を輝かせて。

本当に沖縄を愛しているんだと、ひしひしと伝わってきた。


「いいなぁ、沖縄。行きたいな」

「おお!何時でも来いよ!案内するぜ!」


言葉と一緒にブランコから勢い良く立ち上がって、私の真向かいに立つ力也くん。


「今日はアンタのお陰で助かった訳だし、お礼と言っちゃあ何だけど。美味い店、綺麗な景色!隅から隅まで案内してやるよ!」


おお、グイグイくるな。

顔が、距離が、近い。

でも、その人懐っこい感じ、嫌じゃないな、なんて思ったり。



「沖縄来るなら最低でも二泊三日だな!それじゃ足りないかもしれねぇけど」

「ふふ。オススメはそんなにあるの?」


笑顔絶やさず、ニコニコと、彼の沖縄トークは明るいまま。


「海も本当こっちとは大違いだぜ!」

「綺麗な海!いいね〜!」


「だろ!?あー、そうだな……アンタだったら、特別に俺の秘密のお気に入りスポットも連れてくぜ?」


彼の顔が更に近付いて、その距離ほんの数センチ。

都会の喧騒が、一瞬止んだ気がして。

周りは夜の闇と薄暗い街灯と影。


「俺の他には先着一名様、なんだけど」


柴犬の様な元気さで話していた、夜の光のその中で、少しだけ、ほんの少しだけ。

ニヤリと笑った彼の目が、一瞬、光った気がした。



少し跳ねた心臓に戸惑ってしまう。



「なぁ!なまえちゃん、メアド交換しよーぜ!」

「へ?あ、うん!」


さっきのは気の所為なの?

次の瞬間には、彼は犬の様な人懐こさに戻っていて。

頭を突き合わせてメアドの交換。


「おし。これでオッケーだな!……俺さ、何日かこっちにいる予定なんだ。あー、もし良かったら、だけどさ、……どっかでメシでも行かね?」

「……うん!行きたい!」

「マジで!?」


小さな公園に留まらない、本日三度目の大きな声。

ここ最近じゃ珍しいくらいに真っ直ぐは感情を表現する、そんな力也くんにはもう慣れた。


三月の夜風はまだほんの少し冷たいけれど、彼の常夏のような笑顔は、私の心をじんわりと熱くしていく気がした。



「おい、力也。声がこっちまで聞こえてるぞ」

「兄貴!」


漸く保護者……じゃなかった、桐生さん登場。


「悪かったな。力也が色々迷惑かけたんじゃねぇか?なまえ」

「そんな事ないですよ。沖縄の事、色々教えてもらいました」

「ふっ、そうか。……その内、本当に沖縄に遊びに来いよ。遥や子供達も喜ぶ」


ぽん、と頭に置かれた大きな手。


私も良い大人だけど、桐生さんからの子供扱い。

嫌いじゃないぜ。


「あっ……イイなぁ」


そうそう。羨ましいでしょ。

ムッ、とした顔で少しだけ桐生さんを睨む力也くん。

桐生さんは「なんだ、お前もやってほしいのか?」ってしようとしてたけど、力也くんに「そっちじゃねぇっス!」って怒られていた。

素直じゃないなぁ。力也くん遅めの反抗期かな?


結局この辺で私のタイムリミットになってしまって、二人とはお別れ。



家に着いた頃、力也くんからメールが届いて。


それ以降、途切れる事無く。

好きな食べ物、趣味、休みの日は何をしているのか、などなど。

数日後には約束していた通り、一緒にごはんを食べに行って。


そしてその後も変わらず、他愛のないやりとりは続いていった。





あの出会いから、約半年。


天気は快晴。飛行機は間も無く着陸。


彼の待つ沖縄に、私は降り立つ。

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