女と次期征夷大将軍
私はとある星の学会発表に出席していた。勿論ここまでの研究の成果を発表するためだ。零はどうせ邪魔になるから江戸に放って置い私一人で向かった。久々の多勢に対してスクリーンでの説明は刺激的なものだった。前回までの性欲抑制剤は兎も角として研究者達が興味を持ったのが近藤さんに使った好意を他者に転換する薬(惚れ薬)であった。これは現在の少子高齢化対策となるのではないかと好評を頂いた。というのも鼻の下を伸ばした試験官どものがよからぬことを想像していたのだろう、半数が顔を赤らめたり鼻血を出したり興奮していた。これには流石に引いた。質問ついでに乳のカップを聞いてきた輩がいたが蹴飛ばしてきた。そんな怒涛の発表が終わり他の演説者の発表を聞く前に一服しようと建物の廊下を歩いていると目の前になんか変な髪型の男に話しかけられた。
「素晴らしい演説でしたよ。先生」
「貴方は、」
「申し遅れた、僕は一ツ橋喜喜と申す。」
私の演説が素晴らしいという人間は恐らく素人童貞かよ、なんて思っていたがなんと天下のお人ではないか。危ない
「将軍一族の方が遠渡遥々こんな江戸から遠い星へ来られたのでしょうか?」
「そうだな、違う星で先端医療を学び、更に論文を発表する女がいると知ってな。どんな女なのか知りたくなったのだ。」
「それはそれは光栄な事ですね。」
「それにこのように美しいとは思わなかった。人妻とは到底思えぬな」
「はい?」
人妻だと?
「少々調べさせて貰ったよ。高杉先生。」
「…」
徐々に近付いてくる男に私は後退りをした。私が人妻だと知っているのだとすればテロリスト高杉が夫なのだと知っているはずだからだ。ましては相手ば幕人だ。
「こんなに警戒しなくてもよい。高杉と僕は同盟を組んでいる。その嫁を攘夷として引っ捕らえることはしないよ」
「…なら、何故ですか?」
「言ったではないか、僕はお主ファンだと。今は江戸でヤブ医者としてやってるらしいがいつかはその腕を江戸に使って欲しいと、思っている」
成る程、今まで不思議だと思っていた。あれだけ私を嗅ぎ回っていた真撰組が私の事を御用にできなかったのか、戸籍を調べれば高杉との関係はわかるのに。男が裏で手を引いていた故だろう。それが晋助が指示したのであれば余計なお世話だと言えるのだが今回の件は先ほどの言葉からどうやらこの男、喜喜とやらの独断と推定した。後退る私は壁に当たり後方に逃げられなくなった。男ニヤリと笑い私の肩に手を置いてそこから首、そして顎を握り自分の方へ向かせた。
「お主高杉に殆ど会っていないようだな。それは夫婦としてどうなのかな?それでもお主は幸せなのか?それよりも次期征夷大将軍となる僕についてきてくれたのならば地位も名誉も愛もあたえることができるぞ」
「ははは!!」
私は急に笑ったため顎に触れていた男の手が離れた。理由なんて簡単だ。一時の感情で一般市民に現幕府への反乱意志を言ったことや私を口説いていること。この男は大したバカ殿になりそうだと。それから私は少しの間笑いが止まらなかった。
「何がおかしい」
やっと笑いが止まった所で男が不機嫌そうに問う。
「次期将軍様、あまり女というものを舐めて貰っては困りますよ。女の幸せや愛なんて金や地位で決まる物ではないですよ。ましてや私という人間は。」
「…これは拒否ということか?」
「それも違います」
「は?」
「貴方が将軍様になれば私を手に入れる事はできるでしょうね。だって私達は貴方に逆らえなくなるのだから。そうなれば命令となれば妻として、医療者もして、学者としても貢献しますよ」
男がならば、と口を挟もうとした瞬間にそれを止めるように私は男の顎を強く握りこちらを向かせ返した。
「ただ、覚えて下さい。心は思い通りになんてなりません。どのような形となろうとも私は高杉晋助の妻ですから。」
私がそう言って笑うと少し悔しそうにした。私は手を離して一礼をし立ち去ろうとすると男が声を上げた。
「僕に対してこうも高飛車な女はいなかったな。面白い、ならばやってやろう。今後もそのような事が言えるのか見物だな。」
「ええ、どうぞ。」
私はそそくさとその場から立ち去った。
- 20 -
*前次#
ページ:
ALICE+