02


門の外で未花を見送ってから中に戻った有希子に、沖矢が話しかける。

「彼女は今、何をされているんですか?」
「仕事をってこと?」
「はい」

沖矢は先ほどまで使っていたティーカップをキッチンまで運び、それを有希子がシンクで受け取る。

「警視庁のサイバー犯罪対策課にいるみたい。私もほんの最近知ったんだけどね。あの子あまり自分の事話さないから…」
「サイバー犯罪対策課…」

その時、インターホンの音が鳴った。
沖矢は「出ますよ」と有希子に一声かけて、玄関に向かう。
訪ねて来たのは、江戸川コナンだった。スケートボードを小脇に抱えている。

「あ、昴さん。一華姉ちゃん来てるよね?」
「いや…少し前に帰ったよ」
「えっ?」

コナンは咄嗟に腕時計を確認する。一華の予定は知っていたのだろう。

「彼女に何か用事だったかい?ここに来る前は、探偵事務所で会ってたんだろう?」
「うん…ちょっとね」

コナンは言葉を濁した。沖矢は外では話しにくいのだろうと察し、彼を中に招き入れた。


数分前まで一華が座っていた位置に、今度はコナンが納まった。家に入って早々有希子のキスとハグを受けてげんなりしていたが、沖矢が向かい側に座ると、早速ポアロで見た安室と一華の様子を伝えた。

「安室透と、知り合いだった?」
「確証は無いけど…二人とも明らかに様子が変だったよ」
「ほぉ?」
「問題は、どっちの安室さんを知っているのか…それを聞き出そうと思って来たんだ」

組織のバーボンか、公安の降谷零か。
沖矢は顎に手を添えて少しの間思案していたが、おもむろに口を開いた。

「…両方かもしれない」
「え?……ま、まさか赤井さん、一華さんの事知ってるの?」
「そう焦るな、ボウヤ」

沖矢は"赤井"と呼ばれ、鋭い深緑の眼を変装の下からそっと覗かせた。コナンが「一華さん」と呼んだ事に関しても気になったが、今は見逃そうと判断した。

「五年ほど前だったか…ある人物が殺された現場で、物陰に隠れていた彼女に会った」
「それって…まさか」
「殺されていたのは、彼女の両親だ」

いつの間にかコナンの後ろに立っていた有希子は、沈痛な面持ちで沖矢の話を聞いていた。

「どうして赤井さんがその現場に?五年前って事は、赤井さんが"組織"に潜入していた頃だよね。それって…」
「ボウヤの考えている通りだ。俺は当時、組織の任務であの現場にいた」

射抜くような赤井の視線。コナンはごくりと生唾を飲み込んだ。

「じゃあやっぱり、彼女の両親はやつらに…」
「俺は後始末の役であそこに行った。殺し自体は、計画的なものでは無かったからな…。手遅れだとは思ったが、念の為中を確認したんだ」

するとそこで、物陰で震える一華を見つけたのだ。

「なぜ彼女がそこに居たのかは分からないが……裏口から逃してから、建物を燃やした」
「それで、一華姉ちゃんは逃げられたの?」
「いや……結局、少し離れた所で見張っていたやつらに見つかってしまってな。やつらから逃げている途中で川に飛び込んで上がってこなかったと聞いたんで、俺も今日会うまでは死んでるものだと思っていたよ」

コナンは腕を組み、赤井の話を整理しつつ頭の中で当時の情景を想像していた。

「さっき赤井さんは"両方"って言ったよね。ということは、安室さんもその場にいたんだね?」
「そうだ。娘が逃げたらしいという連絡を、偶然近くに居たあの男も受けていた」
「つまり、追手として安室さんと対峙してしまったか、あるいは…」
「"公安"として、彼女を助けたか」

赤井とコナンの考察が、同じゴールに行き着いた。だがそのおかげで、コナンー新一の中で新たな不安が急速に膨らんでいた。

「一華姉ちゃんは、両親が死んだ日の記憶が無いんだ…」
「そうなのか?」

二人がそれぞれ知る一華の情報を共有し、当時の事件や安室との関係について議論する様子を、有希子は少し離れて見守っていた。
向こうに帰ったらすぐに優作に相談しよう、と心に留めながら。





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