「良かった」



珍しく夜の早い時間に帰ってきた壱馬くん。ワインを片手に、折角やから夜更かししましょう、なんて。

L字型の大きなソファーに、ぴったりと体をくっつけて座って映画を見ている最中。
壱馬くんと繋いでいる私の右手の腹を彼の左手の親指が撫でていたと思えば、ふと声を漏らした。



『うん?』


「傷。綺麗に治りそうで。」


『ああ…ふふ、うん。』



数日前、段ボールを畳んでいる時に擦って傷を作ってしまって。
血も出ないほどのただの擦り傷だったのだけれど、そんな傷ひとつすら壱馬くんは心配していた。
消えかけの痕を指の腹でなぞって穏やかに笑う彼を見て、くすぐったくなってしまう。



『大丈夫って言ったでしょ?』


「そうやけど、儚さんが一瞬でも痛い思いしたって考えただけで心臓冷えるねん。」



大真面目にそんなことを言ってのける壱馬くんは、言わずもがな、私の両親よりも私に過保護だ。



「あ、傷があったり痕があっても、俺は何にも気にしませんよ。そうやったって儚さんは綺麗やし、どんな儚さんも好きやし。」



おまけに、恥ずかしげもなくそんな甘いセリフまで。