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撮影の合間の空き時間、カットの声が掛かると同時に、衣装のポケットに入れていたスマホを見る。
先ほどから何度も震えていたそれは、どうやらユリさんのマネージャーからだったらしい。

根拠のない、ただとてつもない胸騒ぎがして、不在着信をタップして掛け直す。



「もしもし、すみません、撮影してて。」


「いや、こちらこそ、仕事中にすみません。あの、…落ち着いて、聞いてください。」


「はい」


「…ユリが、イベント中に襲われて、怪我をしました。」


「…は?」



今日はカムバックに合わせたサイン会だと聞いていた。
つい1時間ほど前、いってらっしゃいとメッセージを送ったのに。



「腕を切り付けられて、…割と大きな怪我です。裏にはけてから倒れてしまって、今は病院で眠っています。」


「そんな…」



頭が追いつかない。
こんな時でもすぐに駆けつけることのできない距離、最悪の事態。



「怪我、怪我は、腕だけですか?生きてるんですよね?」


「怪我は腕だけです。命に別状はないので、安心してください。」