『っ…!!』



思わず飛び起きた身体は汗だくで、荒い呼吸のせいで肺が痛い。

夢を見た。
時間が経っても消えることのない、私の心が1度死んだ、あの夜の夢。

心臓に手を置くと、伝わってきそうなほど強く波打つ鼓動。酷い脱力感と喉の渇きを感じながら、重たい身体を引きずってリビングに向かう。



力の入らない震えた手でなんとかペットボトルのキャップを開けて水を流し込むと、その冷たさに少し落ち着くことができた。

1人で居る事が酷く不安で、だけど、寝ているであろうオッパ達の部屋に行く事も憚られて。
せめて、いつも皆んなで過ごしているリビングで、なんとなく皆んなの存在を感じていたくて、ソファーに腰掛ける。
ペットボトルを額に当てたところで、玄関が開く音がした。



「あれ、ユリ?」


『ジョングク、おかえり。』


「ただいま。起きてたんだ。」



キャップを脱ぎながら近付いてくるジョングクに、無意識に目を逸らす。



『遅かったんだね。』


「うん、練習室篭ってたらこんな時間になっちゃって。それより、」



リュックを下ろして隣に腰掛けたジョングクが、俯きがちになっていた私の顔を覗き込む。



「顔色悪いよ。どうしたの?」


『…なんでもない、疲れが溜まってるのかな。そろそろ寝るね。』


「ユリ、」



全てを見透かすような丸い瞳に決まりが悪くなって立ち上がろうとすると、そっと手を握られた。



「…ユリ」



もう一度、優しく名前を呼ばれる。
その澄んだ声で名前を呼ばれるだけで、少し高めの体温が伝わってくるだけで、私はもう、壊れてしまいそうで。
ゆっくりと目を合わせて、黒い瞳を見つめる。

この世界でたった1人の、私の愛しい人。
全てをジョングクに書き換えてほしい。もっと私の名前を呼んで、もっと触れて、強く強く抱きしめてほしい。
そうすれば、この穢れた忌まわしい身体を、ほんの少しは大切に出来るようになるかもしれない。
ジョングクと気持ちを伝え合う事は許されない。だけど、たった一度でいい。言葉なんてなくていいから、私を愛してほしい。

ジョングク、私、本当に貴方が好き。出来るはずなんてないけれど、全てを投げ打ってもいいと考えてしまう程、貴方が好きで堪らないの。
愛しい貴方に、あの日の記憶を消してほしい。もっと近くで、誰より近くで、私に触れて。それで壊れても構わないから。



『…ジョングク、』



見つめ合ったまま逸らせなくて、まるで世界に私達2人だけみたいで。

何もかも言ってしまいたい。だけど、だけど、



『っ…、ごめん、なんでもない…』



なんとか目を逸らして、重ねられたジョングクの手から逃れた。

涙が溢れて、胸が痛くて、また、呼吸が苦しくなった。



「ユリ…」



大好きなオッパ達、ARMY。
どんなに怖くても、苦しくても、裏切る事なんて、出来るはずがない。



『ごめん、おやすみ』



傷付いたような顔をしたジョングクの顔が見れなくて、逃げるように部屋に戻る。



『っ…ぅ…』



閉めたドアを背に座り込んで、止まらない涙を必死に拭う。

普通の女の子としての幸せなんて、諦めなければならない。何度も何度も言い聞かせて、その度に分かったつもりでいて。
だけど、弱った心と愛しい人の存在は、簡単に理性を揺らす。