例えば、男の人にしては高い声とか、笑った顔とか、意外としっかりした身体とか
恥ずかしがりなのにロマンチストで急にキザなことを言うところとか、ぽわんとしているように見えてやきもち妬きなところも
彼の好きな所を挙げれば沢山出てくるけれど、1番好きなところはやっぱり、性格かな、なんて。
見た目の良い彼氏の好きな所を聞かれてそんな事を答えるなんて、つまらないから。
聞かれても私はきっと、教えてあげない。
整った外見に沢山の才能まで持ち合わせた彼が、それに加えて真心たっぷりの優しい心の持ち主なんて、どうせ誰も信じたがらないでしょう?
これから先どんなに彼が大きくなっていっても、私だけが知っているままでいいと思う。
『こころ、』
大人っぽい顔立ちをしているけれど、寝顔は年相応に少しあどけなくて、それがまた可愛くて愛しくて。
一度眠ると中々起きないこころを起こすのは心苦しい。特に今日は、昨日の夜から雨が降り続いているから、起きるのが一段としんどいだろう。
『こころ、そろそろ起きよう?』
「…ん、んー…」
雨の日は特に眠たがるからぎりぎりまで寝かせてあげたくて、朝ごはんは車の中で食べられるものを準備して渡すようにしている。
お迎えの車が来るまであと1時間。何回かに分けて声を掛けて、15分前には起きてくれたらいいのだけど。
また後で起こしに来ようと思って立ち上がろうとすると、ゆるりと腕が伸びてくる
「ん、ユリさん…」
『おはようこころ、起きれたの?』
「…こっち、」
綺麗な眉毛を怠そうに顰めて、片目は瞑ったまま。ぽかぽかした手に腕を引かれるから、大人しくその腕の中に入る。
『ふふ、あったかいこころ。眠たくなっちゃうね。』
「一緒寝ましょ」
『だめだよ、お迎え来るでしょ』
「んー…」
寝起きでいつもより少しだけ低い声で唸る彼は、案の定しんどそうで。
可哀想で、思う存分寝かせてあげたくて、さらさらの黒髪を撫でる。
『もう少しだけ一緒にゆっくりしてから起きよう?』
「…行きたくない。ユリさん今日休みでしょ?一緒に居たい。」
こころが駄々をこねるのは珍しくて少し驚いてしまう。
大変な世界だからこそ、気が重たい時は本当に辛いだろうと思う。
付き合う前、こころは事あるごとに会う時間を作ってくれた。いくら新人だとはいえ、大きな事務所に所属する芸能人だとは思えないほど。
本人は、まだまだ卵だから暇なんです。なんて笑っていたけれど、いざ付き合うと、やっぱり自由にできる時間なんてほんの僅かで。
それはそうだろう。色んな先輩に着いて全国を回って、そうじゃない時だってレッスン漬け。若いうちの方がむしろ暇なんてない。
付き合い出して私の家によく来るようになってからは、一緒に居てもこうして眠ったりすることができるから少しゆっくりできるようになったかと思ったけれど、その分こころの仕事は忙しくなっていく一方だから結局のところプラマイゼロ。
私ができることなんて本当に僅かだと、情けなくなる。
「…今日も帰ってきていいですか?」
さっきまでよりもはっきりとした声色で、伺うように見つめてくる黒い瞳。
彼が本来瞳孔の鋭い瞳をくるっと丸める時、こころの素のあざとさを感じて頭を抱える。
『うん、もちろん。家でご飯食べれそうだったら食べたいもの送って?作って待ってるから。』
「ん、じゃあ頑張れます。」
ありがとうございます。と綺麗に口角を上げたこころは、ひとつ伸びをして体を起こした。
「朝もユリさんと一緒に食べる。」
『ふふ、はいはい。』