第一印象は、やんちゃそうな子だな、だった。
キリッとした眉毛に動向の鋭い切長の瞳に加えて、当時は派手な金髪だったここは、見た目だけで言ってしまえば正直少し怖かった。
ほんの少し話せば、その印象とは打って変わって、穏やかで人懐っこい子だとすぐに分かったけれど。
きちんとしなければいけない世界に身を置いているからか、歳の割にしっかりしていて気も利いて。
小さい頃から歌が大好きで、ダンスを習わせて貰う時は親御さんに泣いてお願いしたんだ、なんて可愛らしいエピソードを聞く頃には、最初の印象はすっかり消えていた。
『志くんは、アーティストになるの?』
「そうなりたいんですけどね。…厳しい世界ですから。ステージに立たせて貰えてる時点で、恵まれ過ぎてるくらいです。」
『そっか…、叶うといいね。ずっと夢だったんでしょう?』
「はい。どれだけでも努力したいです。俺には、これしかないので。」
真っ直ぐで力強い、芯のある子。
自分にはそんな風に思えるものがないだけに、なおさら眩しく感じた。
純粋に応援したいと思った。そこがどれだけ大変な世界かは計り知れないけれど、きっとそれを痛いほど分かっていながらも夢を抱き目を輝かせるここの強さに、もう既に惹かれていたのかもしれない。
生きる気力や希望をとうに失っていた私の、光だった。
それから何度か2人でもご飯に行って、私からしたらそれだけでも十分すぎるくらい特別な事だったのだけれど。
「好きです、ユリさんの事が。」
『っ…』
だから、ここが告白してくれた時、ずるいけどとても逃げたくなってしまった。
自分の気持ちには気が付いていた。私も好きだと思った、とっくに前から。だけど、どうしても踏み出せなかった。怖くて、苦しくて、逃げ出したかった。
言葉に詰まって声が出せなかった私を心配そうに見つめる瞳に、気持ちに応えられなくても嘘は吐きたくないと思った。
『…ごめん、なさい』
傷付いたように霞んだ眼光に遣る瀬無くなった。
結局私は、こんなに素敵な人と出会っても尚、変わる事が出来ない。これは最早、私自身のせいだ。
『……少しだけ、聞いてくれる?』
「はい」
自分の身に起こった事を、他人に話すのは初めてだった。
1人でだって思い出したくもない過去を好きな人に話すなんて、どんな屈辱だと思った。その選択をしたのは自分だけれど。
要約してたったの1、2分だっただろう。死ぬ程長く重たく感じたその時間、ここは真剣な顔で私の話を聞いてくれた。
『…だから、よく分からなくて。男の人と付き合う、とか、そういうの。よく分からないけど、分からないなりに、凄く怖い。私、もうずっとまともじゃないから、そんな自分の事、誰かに背負わせてしまうのも嫌。』
「…話してくれて、ありがとうございます。」
鼓膜を揺らす優しい声に、涙が溢れて。ああ、我慢してたんだな、なんて他人事みたいに思った。
狼狽えるようにおしぼりを渡そうとしてくれながら、いやおしぼり…でもごめんなさい、俺ハンカチとか持ってなくて…と慌てるここに笑ってしまって。
そんな私を見て優しく笑ったここに、世界にはこんなに温かく見つめてくれる男の人も居るんだな。もっと早く、出逢いたかったな。そう思った。
「…こうして2人で過ごすのは、怖くないですか?嫌じゃ、ないですか?」
『うん、全然。それも不思議なくらいなの。こんなの、初めてだから。』
「…そんなの、ずるいです…」
『え?』
「…そんな事言われたら俺、全然諦められない…」
耐えるように下を向いてしまったここに掛ける言葉が見つからなくて。だって、諦めてなんてほしくない。ここが私を思ってくれる事は凄く嬉しい。だけど、応えられないのにそんな事を思うのはただのわがままでしかない事も分かっていて。
『…志くん、大丈夫だよ。もっと素敵な女の子、沢山居る。志くんに似合う女の子と、きっと出逢える、だから、』
「俺は、ユリさんが好きなんです。」
ユリさんの話を聞いても、俺の気持ちは1ミリも変わってません。むしろ、全てを懸けて俺が幸せにしたい、なんて思っちゃいました。