予定より早い帰宅をユリさんに知らせたメッセージには既読もつかなくて、寝てしまっているのかなとそっと家に入る。

きっと寝室だろうと目星をつけてリビングの灯りをつけると、ソファーに蹲るように丸まっているユリさんが居た。



「ユリさん?」


『……』



なんとなく雰囲気がおかしくて、ソファーの下に座って覗き込む。髪を避けて現れた瞳はゆっくりと瞬きを繰り返しながらも、何も映し出していない。
焦点も合っていなくて、どこを見ているのかも分からない。



「ユリさん、ユリさん?」



ゆっくりと視線を動かして俺をぼんやりと見たと思うと、すっと涙が溢れ落ちた。



「ユリさん、」



考えるより先に身体が動いて、壊れてしまわないように、だけど、強く抱き込む。



『…こ、ころ…』


「うん、ただいま。1人にしてごめんなさい。」



小さな声でおかえり、と聞こえたと思うと、弱い力で押し返される。不思議に思いながら腕を解くと、よたよたと身体を起こして歩き出してしまう。



「ユリさん、どこ行くんですか」


『……』



黙ったまま歩く足つきはふらふらと心許なくて、彼女の視界が歪んでいるのが見て取れる。



「危ないって、」


『や、』



腕を掴むと弱い力で抵抗される。今度は離すもんかと手に力を込めると、そのままずるずると座り込んで身体を震わして泣き出してしまったユリさん。



「ユリさん…」


『ここ…っ』


「おいで、」



その小さな身体を腕の中に閉じ込める。
少し力を加えただけで折れてしまいそうな細い腕をゆっくりと摩って、どうかこの場所は彼女にとって安心できる場所でありますようにと願う。



『…っ、ごめん、ごめんねこころ…』


「謝らないでください、大丈夫だから。」



ユリさんは何も悪いことなんてしてないし、俺は全然大丈夫で。謝る必要なんてどこにもない。

こういう瞬間に俺の中に滾るのは、ユリさんを傷付けた奴に対する殺意とすら取れる激しい憎悪と、ユリさんが心を許してくれているという安堵感。



「怖かったねユリさん」



力が入らないであろう身体で、俺を掻き抱くように必死に腕を回してくる。
もう、俺が居るから、俺が守るから。どんなにそう思ったとしても、この人が傷付き闇を抱えた過去も、それを抱えて生きていかなければいけない事実も変わらない。

1人で思い出してその度にまた傷付いて、それでも上手く泣く事もできずに心を押し殺していたんだと思うと、遣る瀬無さでどうしようもなくなってしまう。