『…オンニ、』


「…ん、ごめん。何?」



目の前でご飯を食べる儚の綺麗な姿や何気ない仕草に見惚れて、また虚しくなる心に頭が支配されていた。

心配そうに眉を潜めて私を見つめる色素の薄い瞳に、慌てて目を逸らす。



『オンニ、疲れてますか?ごめんなさい。私が無理に誘ったから…』


「何も無理じゃないわ。私も此処来たかったの。大丈夫、少し考え事してただけ。ごめんね。」


『……』


「本当よ。ほら、食べよう?これ好きでしょ?」


『オンニ、』


「ん?」



儚を見ると、まだ浮かない顔をしたままの彼女。
そんな顔をさせたい訳じゃない。柔らかい、花が咲くような笑顔が大好きなのに。



『…オンニは、綺麗って言われるのが嫌いですか?』


「……」



図星だった。

私はずっと女の子が好きだった。そしてそれと比例するように男の人が苦手だった。男の人から綺麗と言われれば、私にとってそれは穢れた下心にしか聞こえなくて、無意識に顔を顰めてしまう事も多々あった。
元々愛想の良いタイプではないし、褒められた事に上手に笑う事も出来ない。この仕事をしていても、見ている人から不満の声が届く事もよくあった。



「…そうね。好きじゃないかもしれない。どうして?」


『…私はオンニを、綺麗だと思うから…。オンニは、美しくて魅力的で、私の憧れです。』


「ふふ、何よ急に。」



真っ直ぐに見つめながら話す儚に心臓が煩くなる。
好きな子にこんな風に言われた時、どうするべきなのだろう。やっぱり、分からない。



『悩んでる顔も怒ってる顔も、綺麗だと思います。だけど、貴女の心に絶えず翳りがあるのは、どうしても、見ていられません。』


「…儚、」


『弱音を吐けない立場だっていうのも、思ってる事を言うのが苦手だって事も、分かってます。それでも、何か少しでも出来ることはありませんか?』


「……」