眩いライト、溢れんばかりの歓声、そこかしこから呼ばれる自分の名前。
もしも今の自分でなければどう過ごしていただろうと、たまに考える。それでも、いつに戻っても同じ選択をしていただろう。そう思えるほど、尊くて大切な場所。
仕事に関わるもの以上に大事なものになんて、出会う事すら想像できていなかった。
血も涙も飲み込んで、死に物狂いで掴み取ったこの場所。今の俺には、彼女が望むならステージだって手放しても構わないと思える人に出会った。
一時期に比べれば家に帰ってゆっくり寝る時間が幾分か多くなって、それが未だに痛いほど身体に染み渡る。
そして、
『おかえり、グク。』
「儚」
蜂蜜色の瞳が月のように優しくて艶かしい、綺麗な彼女。儚に出会って、一瞬で頭がくらりと揺れた。
職業柄綺麗な人は見慣れていて、いくら綺麗でも心が汚い人も嫌と言うほど見てきた。
美しいに越した事はないけれど、結局は見た目なんて取るに足らないもので、心が澄んだ人に出会うほうが余程難しいと思った。
そんな俺からすると、儚は嘘のような存在で。
整った顔立ちにモデル顔負けのスタイルは、まるで精巧に作られた人形のよう。そして何より、彼女は純真無垢という言葉がぴったり似合う女性だった。
知れば知るほど好きになって焦がれて、付き合ってからだって、どんなに触れ合っても足りない。儚しか好きじゃない、儚しか要らない。
「会いたかった。」
『うん、私も。』
華奢な身体を腕の中に閉じ込めると、世界は甘い色に変わる。
メイクをしていなくても綺麗な顔、シルクの部屋着から覗く首筋や脚は真っ白で滑らか。
「愛してる」
『ん…』
どんなに愛を囁いても足りない。もっと伝えたい、もっと分かってほしい。儚からのどんな些細な優しさも愛も、全部俺だけのものにしたい。
『…ぐ、く…っ』
「…ん、まだ…」
震える儚の細い腰を強く抱いて、俺のシャツの胸元を掴んでいる手を上から包む。
薄ら目を開けて儚を見ると、綺麗な眉毛を寄せて、大きな瞳をぎゅっと閉じている。必死に俺に応えようとしてくれる姿が愛しくて、可愛くて可愛くて仕方がない。
『も、だめ…っ』
「っ儚、」
完全に力が抜けた儚を受け止めて抱き抱える。
そのままソファーに座って膝の上に乗せると、ぎゅっと抱き付いてくる。
「ごめんね、苦しかった?」
『ん…でも、平気』
顔を寄せて小さくキスをした儚に同じように返して腕に力を込める。
儚と出会った頃、仕事は順調に軌道に乗り出して、やり甲斐も感じていて。
認めて求めてくれる声に奮い立って、だけど、容赦なく降り掛かる心無い言葉に、不意に消えてしまいたくなる衝動に襲われていた。
そんな不安な夜はどう過ごしたらいいか分からず、自分はまるで存在しないかのようで。
言い寄ってくる人の中から適当に選んで夜を過ごした時期もあった。それでもその心に空いた穴が埋まる訳じゃなくて、むしろ虚無感に苛まれただけだった。
『お風呂沸いてるよ、入ってきたら?』
「うん…」
『グク?』
ユリが壊れないくらい、だけど強く抱き締める。
片時だって離れたくない。同棲してるからといって、一緒に過ごせる時間が十分にある訳じゃない。
どんなに伝えても、どんなに触れても、足りない。
「まだ、もうちょっと。」
『…お風呂、一緒入る?』
「ユリ、もう入ったんじゃないの?」
『うん。だけど…私もちょっと、寂しい。』
「はは、あー、本当可愛い。」
後ろからユリを抱き締めて湯船に浸かる。
「今日何してたの?」
ユリは、俺と住む事になって仕事を辞めた。
元々は憧れのブランドのデザイナーの卵として働いていたユリ。大変だけど楽しいよ、そう言いながら。
だけど、不規則な生活をしている俺に合わせてくれる為に無理をしていたユリは、体が弱い事も相まって仕事場で倒れた。
そんなユリに俺が提案したのは、会う頻度を減らすとか別れるとかそんな事じゃなくて、生活の面倒は見るから仕事を辞めて欲しいという事だった。
ユリが仕事を好きだという事も分かっていた。きっと、立派なデザイナーとして認められる未来だって想像できた。
それでも、どうしてもユリと離れたくなかった俺に、ユリはあっさりと頷いた。
不安がなかったはずはない。名残惜しくなかったはずはない。だけど俺を信じて、深い愛をくれたユリを、絶対に幸せにしようと誓った。
『グク達のDVD見てたよ。昔のやつ。』
「なんでユリ、昔のやつが好きかなあ。恥ずかしいのに。」
『どれも好きだよ?だけど、なんだろう…私の知らない時のグクを知りたくなっちゃうっていうか…』
「」